スマートフォンのアプリを使ったタクシー配車が広まっていますが、ひとりの利用者が同時に複数の会社へ配車依頼をするという問題も起きています。

配車の「無断キャンセル」、当人は悪気なし?

 スマートフォンのアプリを使ったタクシーの配車依頼が広がっています。その先駆けである日本交通グループのアプリ「JapanTaxi」(旧「全国タクシー」)は、2011(平成23)年から徐々に加盟事業者を増やし、ダウンロード数は2018年8月末時点で約550万。全国を走るタクシー車両のおよそ3分の1にあたる約7万台をカバーしています。


スマートフォンアプリを通じたタクシー配車が増えている。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 そのようななか、名古屋タクシー協会が2018年11月からウェブサイトで「タクシーの『配車申し込み』『ご利用方法』についてのお願い」を掲載しました。「複数のタクシー会社に配車申し込みを行い、一番早く到着したタクシーに乗車して、他の配車申し込みをキャンセルする事象が数多く発生しています」とのこと。同協会に話を聞きました。

――なぜ複数のタクシー会社配車という事態が起こるのでしょうか?

 お客様が異なる複数のタクシー配車アプリを同時に使われているケースが多いと考えています。従来はタクシーセンターで配車依頼を受け、無線連絡で近くのタクシーにお客様のもとへ向かってもらう方法が主流でしたので、こうしたことはなかったのです。

――どのような影響があるのでしょうか?

 配車申し込みを受けて向かっているほかのタクシーにとっては、時間のロスになります。事業者としても効率的な配車ができなくなり、特に雨の日などはひとりの方に配車が集中して、ほかのお客様のご依頼に対しタクシーが回せないということが起こっているのです。

 複数会社へ配車を依頼されているご本人にとっては悪気なく、便利な使い方と思っていらっしゃるかもしれませんが、ほかのお客様のご迷惑になることを知っていただくべく、啓発することにしました。

悪質なケースにはアプリの「ブロック」もあり得る

 アプリで予約した配車の無断キャンセルは、名古屋地区だけの問題ではないようです。

 東京の大手タクシー事業者で、自社の配車アプリ「大和自動車交通タクシー配車」および東京タクシー・ハイヤー協会の配車アプリ「スマホ de タッくん」で配車予約を受け付けている大和自動車交通(江東区)によると、「無断キャンセルをされた方とお会いしたわけではありませんので、確証を持って言うことは難しいですが、そのような話は(ドライバーから)聞きます」といいます。実際に、配車予約に応じて向かった先で、別のタクシーとバッティングした事例もあるそうです。

「お客様は到着したいずれかのタクシーに、お名前などを告げたうえで乗車されますので、そこでお客様を取り合ったり、乗務員どうしで揉めたりというトラブルはありません。しかし、たとえばホテルへ呼ばれた際に、係員の方にお聞きして、お客様がほかのタクシーに乗っていかれた事実がわかることがあります」(大和自動車交通)

 名古屋タクシー協会は、無断キャンセルをくり返す悪質な利用者については、配車を受け付けないことも考えられるとしていました。大和自動車交通も、頻繁に無断キャンセルがある場合は、迎車料金を請求することがある旨を運送規約に明記しているそうです。


配車アプリ「JapanTaxi(旧・全国タクシー)」の画面イメージ。アプリ上の地図上で場所や日時、利用会社、支払い方法なども指定できる(画像:JapanTaxi)。

 アプリでの契約成立後にキャンセルする場合は、利用者自身で配車センターへ電話する必要があるとのこと。大和自動車交通は、「具体的なキャンセル回数などは決めてはいませんが、ユーザーIDに基づきアプリ上で配車依頼をブロックし、キャンセルしたぶんの迎車料金をお支払いいただくなどの可能性もゼロではありません」と話します。

円滑な配車を妨げるもうひとつの要因も

 別の東京のタクシー事業者も、アプリによる配車の無断キャンセルを減らしていかなければならないという、問題意識を持っているそうです。

 しかしながら、一度に複数台を利用したい人が、複数回にわたって配車手続きをするケースもあるといい、ひとりの利用者がむやみに複数会社へ配車依頼をしていると一概に判断できない場合もあるそうです。アプリは利用者と車両のGPS情報に基づき、自動的にタクシーを探してしまうこともあり、システム上で複数会社への配車予約を避けるようにすることも、一筋縄ではいかないのではないかといいます。

 ちなみに、名古屋タクシー協会ではこのほか、「タクシー予約配車完了時の速やかな乗車」についても協力を呼び掛けています。指定時刻にタクシーが到着し利用者に連絡してから、数十分経っても乗車しない人が増えているとのこと。これも、ほかの利用者による配車申し込みに応じられなくなる要因のひとつだそうです。

 同協会によると、これまで、利用者が乗車するまでの待ち時間はそのまま我慢していたケースも多かったといいます。「たとえば、到着連絡から5分経過した時点でメーターをいれさせていただくようにする事業者も、今後出てくるでしょう」と話します。

【画像】迎車料金が呼んだ時間で変動する配車アプリ


大和自動車交通、国際自動車によるアプリ「変動迎車料金タクシー配車」のイメージ。時間帯による需要の高低に応じ、無料から910円まで迎車料金が変動する。国土交通省主導の社会実験として2018年11月30日まで実施(画像:大和自動車交通)。