大手紙からボロクソ 三菱マテリアルの不正対応
三菱マテリアルでようやくトップ交代人事が決まった。一連の品質不正問題の責任を取るとして、竹内章社長(63)が会長に「退き」、後任に小野直樹副社長(61)が昇格するというもの。ところが2018年6月11日の発表は、社長交代という一大事にもかかわらず、当日の記者会見はなし、22日に就任してようやく会見した小野新社長は本体の不正を公表しなかったことを「適切」と開き直るなど、不正の内容もさることながら、対応のまずさに改めて批判が集まっている。
社長交代は株主総会が行われた22日付。竹内氏は代表権を返上するが、取締役会長として「グループのガバナンス強化に係る指導、監督、支援、助言など」をするという。5月下旬には、竹内氏が社長、小野氏が副社長という前提で、株主総会招集通知を発送していたが、一転、トップ交代になったのは、「本体での不正」が発覚したためだ。
「判断は適切だった」と繰り返す
三菱マテは6月8日、直島製錬所(香川県直島町)の製品について、規格外の製品を規格内として出荷していたため、日本工業規格(JIS)認証の取消処分を受けたと発表した。2017年11月以降、同社は三菱電線工業などグループ5社の不正を「五月雨(さみだれ)式」に発表してきたが、本体での不正は一貫して否定。3月28日に「最終報告書」を発表した際に記者会見した竹内氏は「二度と起こさないようにするのが私と経営陣の責務」と続投を表明し、幕引きを図った。
ところがこの発表時点で、本体の不正の疑いがあることを把握していたのに公表していなかったことが、その後、明らかになった。
今回の22日の会見で、小野氏はこの点について厳しい質問を浴びた。小野氏は「(報告書公表前日の)3月27日時点で経営陣は知っていた」と認めたうえで、その理由について、「広く関係者に知らせて迅速に対応する場合は公表するという当社の基準に照らして、公表するものではないと判断した」と説明。小野氏は5月の決算発表会見で本体にも不正があることを否定していたが、「データの改ざんがないという意味で説明した」と釈明し、6月8日になって一転公表したのはJISの認証機関から不備を指摘されたためだとし、「(公表に至る)判断は適切だった」と繰り返した。
そもそも、一連のメーカーの不正問題で、三菱マテリアルの対応のひどさは突出していた。
子会社の三菱電線工業が2017年2月に社内監査で不正を把握しながら、10月に出荷を停止するまで、検査データを改ざんした不適切な製品を出荷していたことが発覚したが、11月の会見で、竹内氏は売り上げを優先したのではないか、などの質問に、「詳細にわたることはコメントする立場にない。個別のことは把握していないので答えようがない」と他人事のように語り、「品質は納期や利益に優先することを浸透させるよう努めてきた。三菱マテリアルの関与は全くなかったと考えている」と、責任を子会社に押し付け、その後、新たな不正が発覚するたびに、現場、担当者個人への責任転嫁に終始し、本体の不正発覚後は、トップ交代の発表を含め、会見に登場することもない。
読売社説「トップの自覚が足りなかったのではないか」
こうなると、マスコミの風当たりも強まる。大手紙の多くが、2017年11月の発覚以降、毎日(11月25日社説)、産経(同28日「主張」=社説に相当)をはじめ、社説で取り上げ、法令順守の認識の甘さ、対応の不誠実さを批判してきた。今回のトップ交代後も、「説明尽くして体制刷新を」(6月18日)と題して取り上げた読売は「トップの交代で幕引きを図ろうとするのなら、あまりに危機感を欠いていないか。説明責任をしっかり果たすことを、何よりも優先すべきだ」と指摘したうえで、「適切な情報開示は、健全な企業経営に欠かせない基本ルールだ。三菱マテの一連の対応は無責任だったとの批判は免れまい」「企業統治(ガバナンス)に関して、最も重い責任を負う立場にありながら、トップの自覚が足りなかったのではないか」など、ボロクソ。
朝日も22日社説で「3月に公表した『ガバナンス体制強化』は、子会社での不正を前提に、グループ企業にかかわる意思疎通や統制の強化を前面に出している。本社で起きた問題にきちんと取り組めるのだろうか」などと疑問を呈し、日経も一連の製造業の不正全体を論じた23日「品質不正の根を断てるか」の中で、三菱マテリアルについて「不正を把握していながら公表してこなかった。きのうの株主総会でも経営陣からは、一連の不正について株主の納得のいく説明がみられなかった。品質不正の全貌や原因の解明が中途半端では信頼回復が遠のくだけだ」と批判している。
社長交代発表の際、記者会見を開かずに竹内氏の声明を公表したが、その中で、小野氏について「海外を含めた当社事業や業務に関する豊富な知識及び経験を有しており、当社グループを牽引するのに申し分ない力量を持っております。加えて、冷静さと情熱とを兼ね備え、公平で誠実な人柄から人望も厚く、今後を託す新社長として最適であると考えております」と持ち上げた。竹内氏の認識は、マスコミとはかけ離れているようだ。