デジタルバンキングは、AIやチャットボットだけでは不十分なのだろう。大事なのはアプリの向こうにある組織全体のデジタル化だ。

米金融大手のキャピタル・ワン(Capital One)はこの1年間、古い製品のうえに新しい技術を重ねる、ありがちな「イノベーション」のやり方をどうしたら脱却できるのか、検討を重ねてきた。そこで判明したのは、顧客と銀行のインタラクションを全面的に考え直す必要があるということだ。

「製品について考えるのに制約が多すぎると、昨日のものを少しだけ自動化したものしか作れない」と、キャピタル・ワンのプレジデントのサンジブ・ヤジニク氏は語る。「製品に関する考え方を変えるのが真の力だ。現代の顧客は、生活にシームレスに統合された製品やサービスを求めている」。

「拡充」戦略を採用し、時代遅れの製品設計をそのままに技術革新を重ねる会社があまりに多いとヤジニク氏。たとえば、一新が必要な製品設計にAIと機械学習を追加して、顧客のためにまったく新しい体験を描く機会を逃しているところがある。

「バッチ処理」の排除



キャピタル・ワンは、昨年チャットボット「Eno」を導入したり、銀行としてはいち早くAlexaにスキルを展開したりと、デジタルによる顧客体験を早くから導入してきた。

「最大の課題は、従来型の企業は急速な大転換によって先んじるのが難しい点だ」と、ヤジニク氏はいう。

「バッチ処理」と呼ばれる概念の排除は、そうした大転換の一部だ。バッチ処理では、処理が1日のうちの特定の時間帯に制限される。銀行業とは、時間や場所に左右されず、顧客の日々の生活に織り込まれた体験なのだという考え方に移行しなければならない。

「従来型のコアバンキングはいくつかの要素に基づいている。そのひとつがバッチ処理で、日中に行われた取引はすべて夜間にバッチ処理(一括処理)される」と、アイテ・グループ(Aite Group)のシニアアナリストのケビン・モリソン氏はいう。他の顧客体験が24時間体制なのと対照的だ。「ミレニアル世代が求めているのだから、機先を制するならリアルタイム(バンキング)への移行だ」と同氏は語った。

内部プロセスこそが重要



たとえば、キャピタル・ワンには「セカンドルック(Second Look)」という製品があり、顧客の取引活動に基づいたリアルタイムのアラートを提供している。もともとは、もっと単純な不正検知機能だったが、設計を再考して機械学習アルゴリズムを追加したことで、顧客の消費習慣について詳しい推測が可能になった。レストランで同じ勘定が2度請求されたときや、公共料金が異常に高くなった場合のような、珍しい出来事や変化があると知らせてくれる。

「過剰請求のような顧客問題の解決にシステムを使ったらどうかと考えた」と、キャピタル・ワンで小規模法人カード向けの顧客体験とイノベーションの責任者を務める、ジョゼフ・ホイットチャーチ氏は語る。

しかし、製品開発の変更はひとつのレイヤーにすぎないとヤジニク氏。内部プロセスの変更によって、一人ひとりが職務を拡大してより協力的に仕事をして支える必要があるが、自然には起きない行動であり、トップリーダーが模範を示す必要があると同氏は語った。



「前もって用意すること」



キャピタル・ワン、JPモルガン・チェース(JP Morgan Chase)、USバンク(U.S. Bank)のような銀行で、インタラクティブなアジャイル開発が増えていると、セレント・リサーチ(Celent Research)のシニアアナリストのボブ・メアラ氏はいう。その方がスタートアップのような動きが銀行にも可能で、MVP(実用最小限の製品)をリリースして顧客のフィードバックに基づいてすぐに適合させられる。「ウォーターフォール」式の古い銀行のやり方では、すべての要件を定義し、長い時間をかけて可能な限り完全に近い製品を公開することになる。

急速に変わるか遅れるリスクを取るかというプレッシャーが大銀行にかかっているが、市場に一番乗りするのは銀行にとって必ずしも最善の選択ではないとヤジニク氏。デジタル志向製品の急速な進化によって顧客が危険に晒されることが心配されているのだという。

「どこよりも早く市場に一番乗りしようとすることが心配されている。大事なのは、製品やサービスに対して市場の準備がいつ整うのかを把握し、前もって用意することだった」と、ヤジニク氏は語った。

SUMAN BHATTACHARYYA (原文 / 訳:ガリレオ)