素材メーカーが改ざんに陥った“トクサイ”という誘惑
各社の問題に共通するのは、顧客が求める規格や仕様との差がごくわずかならば、最終製品の性能を損ねることはなく、文句を言われる心配もないとの判断だ。自動車タイヤの補強材を製造する東レの子会社では、タイヤメーカーが定めた規格値と検査値の差が1%にも満たないため、性能面で実質的な違いはないと自主判断し、品質保証担当者が検査値を書き換えていた。
結果として素材や部材には、必要十分条件をはるかに上回る性能が求められる。こうした事情から、わずかな誤差なら黙って納入しても、問題ないと判断したとみられる。
素材の規格外れの根絶は難しい。それでも日本の素材産業は、現場力を鍛えることで工程能力を高め、歩留まり率を引き上げて品質やコスト、納期などの厳しい要求に応えてきた。
神鋼も今回と同様な改ざん問題が2016年に発覚したのを受け工程能力を高める取り組みに力を入れつつあった。業務手順や工程の改善で「品質のバラつきがなくなれば、不正に手を染める必然性がなくなる」(梅原尚人副社長)からだ。
だが、どの企業でも技能者の世代交代や非正規雇用者の増加に伴い、歩留まり向上の難易度が高まってきた。ある大手製造業関係者は、こうした手詰まり感の中で「品質管理の責任者が、納期の重圧に負けたのではないか」と推測する。
品質に対する経営者の意識も変わった。神鋼グループや三菱マテグループの労働組合が加盟する基幹労連の弥久末顕事務局長は「従来、日本の製造業は品質の高さに重きを置いてきたが、経営者の間でこうした意識が徐々に薄れ、効率を優先するようになったのではないか」と指摘する。
日本能率協会(東京都港区)が10月に公表した意識調査の集計速報によると、企業経営者の7割強が今の主要事業について、5年後に通用するかどうかは見通せないとの認識を示した。
先行き不透明感が強まる中で、モノづくりのノウハウを地道に蓄えて品質や生産性を高める取り組みより、目先の収益確保に走る傾向が強まった可能性がある。それが改ざん問題を生む温床になったともいえる。
「正直に話してほしかった」
そして検査データ改ざんの背景にあるのが「特別採用」(トクサイ)という商慣行だ。改ざんに関与していた担当者の多くはその定義を都合よく解釈し、顧客が求める仕様や規格に合わない品を適合品と偽って納入していた。
トクサイとは規格や仕様から多少外れた製品でも、安全性や性能に問題がなければ需要家が特例的に買い取る措置。品質管理の仕組みに関する国際規格のISO9001でも認められている。
仕様が厳しすぎる場合、見直しを求めて交渉する例もある。ある大手素材企業では、品質について納入先と意見をすり合わせるための会議を定期的に開く中で「安全性や性能に影響を及ぼさない範囲で、仕様変更が決まることもある」(担当役員)という。結果として「当社製品の品質が安定すれば、無駄が減って顧客にも貢献できる」(同)ためだ。
「正直に話してほしかった」。神鋼からアルミニウム板の不適合品を仕入れていたトヨタ自動車の購買担当者は、ある素材メーカーの幹部を前に、ため息交じりにつぶやいた。
