品質不正、「犯人捜しやノスタルジーには意味がない」
「これまで築いてきた資産と、これからを戦うための武器、その両方を自ら損なった。“日本品質”は他国が同じ水準に達するには膨大な時間とコストがかかる。まねこそできるが、甚大な努力が必要になる資産だった。データはIoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)技術で現場をカイゼンするための根底だ。データが改ざんされていたら、新技術を使おうと効くわけがない。過去と未来、両方の競争力を自ら棄却した」
ーIT化などで企業の組織構造が変化しています。階層的な“ピラミッド型”から、少数のトップの下に多数の従業員がフラットに並ぶ?鍋ぶた型?への組織改革への影響は。
「ピラミッドのように組織の階層をいくつも積み上げ、再び多重のチェック機能を重ねれば不正防止には有効だろう。だが意思決定の速度が落ち、競争を戦えなくなる。この選択肢は選べない」
「ITの進化で組織や現場の透明化が進んだ。鍋ぶた型組織のカギの一つが権限移譲だ。インダストリー4・0など、マスカスタマイゼーション(顧客ごとの特注仕様の大量生産)や変種変量生産は確実に進む。これまで賢い現場に裁量を与えて柔軟に対応してきた。この強みは日本の現場の誇りであり、おごりでもあったのだろう」
「担当者が納入先の検査項目を把握し、それを鑑みてデータを書き換え、発覚を免れていた例は現場のレベルが高い証拠でもある。だが、ルールを破っては元も子もない。無駄なルール、規格は洗い出して直す必要がある。現場の裁量で違反すれば会社が倒れるリスクさえある」
ー現場の強さは製造業だけの話ではありませんね。
「『青年の船』のたとえ話がある。世界の若者が客船に乗って世界を回る話だ。船上規則に夜の10時以降は危険だから甲板にではいけないというルールがあった。だが若者にとって、夜のロマンスは醍醐味の一つ。日本人の若者は波や風、天候変化を確認して自身で安全を確保して甲板に出て行った。ルールの不備に自ら対応してルールを破ったのだ。対して海外の若者は船長にルールの修正を掛け合った。ルールの不合理性や安全性を訴えた」
「契約社会で生きる人間にとっては当たり前で、不合理なルールでもルールを破ると罰せられることを知っている。破るよりルールを直すことを選ぶ。日本社会はあうんの呼吸が多く、現場が信頼され任されてきた。こうした例は多いのではないか。形骸化したルールや過剰品質の規格は破るのでなく、顧客と交渉して変えていくべきだ」
「経営者はこれを機に自社の現場は大丈夫か声を聞くべきだろう。現場で解決できないのなら、経営として不合理なルールを変えやすい環境や顧客関係をつくるべきだ。現場にとっては自らを縛るルールを洗い出し、根本的に直す機会になる。日本の製造業全体にとっては、今回の品質不祥事から何を学べるか問われている」
ーすでに形骸化したルールを抱える現場は少なくないと思います。フラットな組織に権限を与えつつ、過剰なルールで縛らない。このジレンマを抱えたままマスカスタマイゼーション(特注品の大量生産)などを進めると破綻しませんか。
