古賀茂明が指摘する「実力の衰えた日本企業が好調を維持しているカラクリ」
日本企業の実力低下が懸念される一方で、直近の企業業績にはなぜか好調なデータが並んでいる。
『週刊プレイボーイ』でコラム「古賀政経塾!!」を連載中の経済産業省元幹部官僚・古賀茂明氏は、この裏には「労働者、特に若い人々の低賃金」というカラクリがあると指摘する。
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製品データの改竄(かいざん)に無資格検査の横行―神戸製鋼、日産、スバルなど、日本の大手企業で不祥事が次々と発覚し、「メイド・イン・ジャパン」への信頼が大きく揺らいでいる。
一時は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と、その強さを褒めそやされたこともあり、例えば1人当たり名目GDPの世界順位は、1990年代は常に1桁、2000年には2位まで上り詰めたが、16年現在は22位にまで下落している。
東芝、シャープの不振に象徴されるように、日本の稼ぎ頭だった電機産業は総崩れだし、アップル、アマゾン、グーグルのように革新的なサービスを武器に、世界市場をリードする企業も見当たらない。
ただ、その一方で直近の企業業績に目を転じると、好調なデータが並ぶ。先の衆院選中、東証株価は16日連続上げを記録し、11月7日の日経平均株価は、バブル崩壊後の終値の最高値を更新。上場企業の18年3月期の純利益合計も前期比7.3%増と、過去最高益となる見込みだ。
日本企業の実力はジワジワと落ちているのに、なぜか潰れることなく、利益も順調に伸びている。どうしてこんなマジックが可能となっているのか?
その要因のひとつが労働者、特に若い人々の低賃金だ。
今年10月1日から東京都の最低賃金が26円引き上げられ、958円となった。1000円の大台まであとひと息と、コンビニや飲食店などでバイトする非正規職の若い人たちには好評だが、日本全国を見回すと、いまだに32県が700円台の低賃金にとどまっている。
サンフランシスコ市の最低時給は現在14ドル(約1598円)、来年7月までには15ドル(約1712円)に引き上げられる予定だ。日本の3分の1ほどの経済規模にすぎない韓国も、政府は20年までに1万ウォン(約1024円)の最低賃金の実現を公約にしている。
日本は豊かな先進国と多くの国民が信じ込んでいるが、国際比較では中位国並みの賃金水準だ。しかも労働規制の運用が甘く、長時間労働、サービス残業がいまだに横行している。安くて若い労働力を使い放題なのだから、日本企業は大した経営努力をしなくてもそこそこの収益を上げることができ、倒産せずに済んでいるのだ。
だが、このマジックの効力は短期的なものにすぎない。今はアベノミクスによる金融緩和、円安誘導で輸出企業を中心に日本企業は好決算を叩き出しているが、長期的には必ず行き詰まる。なぜなら低賃金を武器に、付加価値の低い普及品をより安く提供するビジネスモデルでは、日本よりはるかに人的資源が豊富な中国などの国々に、グローバル競争で打ち勝てないからだ。
不思議なのは経団連の要望を聞き入れる形で、こうした低賃金労働を容認する安倍政権に、若い世代が高い支持率を与えていることだ。安倍政権は「働き方改革」を看板政策に掲げるが、そのメニューは口先だけのものが多く、企業経営者に改革を促したり、労働者の収入を増やしたりするような具体的な施策はほとんど見当たらない。
それどころかアベノミクスの下では、労働者の実質賃金はむしろ減少している。若い人は、安倍政権にアメリカ水準を目指した賃金アップを迫るべきなのだ。
●古賀茂明(こが・しげあき)
1955年生まれ、長崎県出身。経済産業省の元官僚。霞が関の改革派のリーダーだったが、民主党政権と対立して11 年に退官。新著は『日本中枢の狂謀』(講談社)。ウェブサイト『Synapse』にて動画「古賀茂明の時事・政策リテラシー向上ゼミ」を配信中