「日本最大の海賊」村上水軍が本拠を構えた瀬戸内海の島々へ。しまなみ海道を走りながら、「自転車神社」や天然温泉、「幻の高級魚」を食べられる道の駅なども巡ります。

「サイクリストの聖地」しまなみ海道を走る

【本記事は、旅行読売出版社の協力を得て、『旅行読売』2016年7月号に掲載された特集「芸術祭でにぎわう瀬戸内の島巡り」の一部記事を再構成したものです】

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 瀬戸内海を陸地からではなく長大橋から眺めると、多島美をより実感することができる。

 広島県尾道市と愛媛県今治市の間にある島々を九つの橋でつないだ約60kmの「しまなみ海道」(国道317号)は、有料道路の通称。南北朝時代から戦国時代にかけて瀬戸内海を支配した村上水軍が拠点を置いた一帯の呼び名でもある。芸予諸島が、「“日本最大の海賊”の本拠地」として、2016年4月に日本遺産に認定されたこともあり、改めて注目度が高まっている。

 村上水軍は、能島・来島・因島にそれぞれ本拠を置いた村上三家の総称。和田竜の歴史小説『村上海賊の娘』が2014年本屋大賞に輝いたことで、一気に知名度が上がった。小説では、海を舞台にした戦闘シーンが印象に残っているが、瀬戸内海の激しい潮流を味方に付けて君臨した水軍とはどんな人々だったのか。それが知りたくて、ゆかりの地を訪ねた。


急流観潮船で、日本三大急潮の一つの来島海峡の潮流を体験(飾磨亜紀撮影)。

 福山駅でレンタカーを借り、海道の玄関口・尾道から向島の国立公園高見山へ向かう。標高283mの頂上展望台からは瀬戸内海を一望。なるほど村上水軍がここに見張り台を設けた理由が分かる。因島の白滝山は、因島村上水軍6代当主の村上吉充が観音堂を建立した場所で、江戸末期に造られた五百羅漢が並ぶ。白滝山を下ると、因島フラワーセンターやその周辺に除虫菊の花が咲いているのが目に入った。蚊取り線香の原料とは思えない可憐な白い花だ。


村上水軍の見張り台があった国立公園高見山からの眺め(飾磨亜紀撮影)。

因島フラワーセンターに咲く除虫菊(飾磨亜紀撮影)。

白滝山の山頂付近には五百羅漢の石仏が大小約700体(飾磨亜紀撮影)。

 しまなみ海道の高架をくぐって因島水軍城へ向かう。1983年に建設された、城を模した資料館で、因島村上氏の武具や小早川隆景から拝領した甲冑などを展示している。

 しまなみ海道は、「サイクリストの聖地」という別の一面もある。2018年3月まで自転車なら全区間を無料で通行できるとあって、全国から自転車愛好家が集まってくる。


村上家伝来の文書、武具、水軍旗などゆかりの品々を展示する因島水軍城(飾磨亜紀撮影)。

サイクリストたちの信仰を集める大山神社の禰宜、巻幡高宗さん(飾磨亜紀撮影)。

大山神社で授与されている自転車用お守り(飾磨亜紀撮影)。

 因島の大山神社は、因島村上氏の守護神として崇敬された773年創建の古社だが、実は自転車とも縁が深いことを禰宜(ねぎ)の巻幡高宗さんに教わった。「境内にある交通の守り神・和多志大神(わたしおおかみ)様を祀る和多志神社が“自転車神社”として知られるようになり、日本全国だけでなく海外からもサイクリストが来られます」とのこと。神社では、自転車祈祷(要予約)も行っている。

茶や連歌をたしなんだ水軍の意外な一面を知る

 因島から生口島を経て大三島ICで下りると、すぐ近くに斜張橋の多々羅大橋(全長1480m)を望む道の駅多々羅しまなみ公園がある。そこのレストランで、マハタ薄造り御膳1950円を注文した。マハタは、漁獲量が少ないため、“幻の高級魚”と呼ばれる魚。コラーゲンたっぷりで実に美味。プリプリした食感も楽しく、満足して平らげた。

 大三島では、大山祇(おおやまづみ)神社を訪れた。日本総鎮守として古くから信仰を集め、樹齢2600年の大クスノキや宝物館などを見る。近くの日帰り入浴施設の多々羅温泉はラドン塩化物冷鉱泉の湯。ドライブの疲れを癒やすのもいいだろう。


道の駅多々羅しまなみ公園のレストランのマハタ薄造り御膳(飾磨亜紀撮影)。

多々羅温泉は、しまなみ海道で唯一の天然温泉(飾磨亜紀撮影)。

海と山の守護神として信仰されてきた大山祇神社。神紋「隅切折敷に縮み三文字」は来島村上氏が家紋とし、氏神として奉った(飾磨亜紀撮影)。

 大三島橋を渡ると、伯方島だ。ここで能島村上家の菩提寺である禅興寺に参拝後、大島の村上水軍博物館へ向かう。安土桃山時代の宣教師のルイス・フロイスに“日本最大の海賊”と評された能島村上氏の村上武吉、景親父子の羽織や最近の発掘調査で見つかった茶道具などが展示されていた。「海賊というと野蛮なイメージを思い浮かべがちですが、船を巧みに操った戦法や、茶や連歌などの文化を好んだ側面も知ってほしいですね」というのは、学芸員の田中謙さん。村上水軍の実像が少しは理解できたような気がした。


村上水軍博物館の外観(飾磨亜紀撮影)。

「『村上海賊の娘』関連のコーナーも新設しました」と語る学芸員の田中謙さん(飾磨亜紀撮影)。

村上水軍ゆかりの品々を展示(飾磨亜紀撮影)。

 大島の道の駅よしうみいきいき館から出航する急流観潮船は、約50分で来島海峡を巡る。間近に迫る荒々しい急流は迫力満点で、水軍気分も味わえる。来島村上氏の本拠地だった来島も近くで見ることができた。

 総延長4km以上の三連吊橋・来島海峡大橋を走っていると、左右に大小の島々が散らばり、船が行き交う光景が見えた。点在する多くの島も、村上水軍は「地の利」として、戦法に活用したのだろうか。

 橋を渡れば、そこは今治。本州〜四国間を走破して、旅に終止符を打った。

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・因島フラワーセンター
 9時〜17時/祝日を除く火曜休、年末年始休/無料/電話0845・26・6212(尾道市因島総合支所しまおこし課)
・因島水軍城
 9時30分〜17時(1月2・3日は10時〜15時)/祝日を除く木曜休、12月29日〜1月1日/310円/電話0845・24・0936
・大山神社
 9時〜17時/境内自由/電話0845・22・0827
・大山祇神社
 早朝〜17時/境内自由(宝物館は1000円)/電話0897・82・0032
・多々羅温泉
 10時〜19時30分/火曜休(祝日の場合は営業)/300円/電話0897・87・4100
・道の駅多々羅しまなみ公園
 9時〜17時(レストラン10時〜16時)/無休/電話0897・87・3866
・禅興寺
 境内自由/電話0897・72・0126
・村上水軍博物館
 9時〜16時30分/月曜休(祝日の場合は翌平日休)、12月29日〜1月3日休/300円/電話0897・74・1065
・来島海峡急流観潮船
 9時頃〜16時頃/12月〜2月は団体予約(5人以上)のみ/1500円/電話0898・25・7338(2日前までの予約)、電話0897・84・3710(前日・当日の予約)


『旅行読売』2017年9月号。特集は「わざわざ出かけたい 道の駅」と「星降る 高原、海の宿」。

・旅行読売(Fujisan.co.jp)
http://www.fujisan.co.jp/product/2782/ap-norimono