世界最高峰の自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」は、チーム・スカイに所属するイギリスのクリストファー・フルームが3年連続4回目の総合優勝を達成して幕を下ろした。総合首位の選手が着用する黄色いリーダージャージー「マイヨ・ジョーヌ」を、フルームは21区間のうち15日にわたって着用。これは、2015年の16日間に次ぐ快記録だ。


レース後のフルームは息子を抱きかかえて最高の笑顔を見せた

 フルームのマイヨ・ジョーヌ着用日数は特筆もので、初優勝した2013年は14日、2016年も14日。いったん首位に立ったら、強力なチーム・スカイのアシスト陣に援護されて、パリまでその座を死守する。フルームの実力に加えて、チームメイトの献身的な働きによるところが好成績の理由で、自らの成績を犠牲にしてまでエースを総合優勝に導くアシスト陣のプロ魂は賞賛したい。もちろん、フルームのすばらしい人格があってこその、アシスト陣の心意気である。

 大会初日はアシスト選手のゲラント・トーマス(イギリス/チーム・スカイ)が個人タイムトライアルでトップタイムを叩き出した。フルーム自身は12秒遅れの区間6位だったが、降雨で路面や滑りやすく、総合優勝を狙う立場としては無理なコーナリングなどを回避した結果だ。それでも、総合優勝を争う他の有力選手からはリードを奪い、絶好のスタートとなった。

 トーマスは第4ステージまでマイヨ・ジョーヌを着用するが、最大斜度20%の激坂に駆け上がる第5ステージでイタリアチャンピオンのファビオ・アル(アスタナ・プロチーム)がアタック。この優勝候補の動きにフルームが反応しないわけはなく、アシストのトーマスを置き去りにしてアルを追った。第5ステージはアルが優勝し、フルームは20秒遅れの区間3位。トーマスは大きく遅れたため、フルームはチームメイトからマイヨ・ジョーヌを譲り受けることになった。

「マイヨ・ジョーヌを獲得したけど、本当の戦いはこれから先だ。パリまですべてをコントロールできるとは思わない」と、過去3回の優勝経験があるフルームはその先の激闘を予感していた。

 レースはピレネーの第12ステージで動いた。AG2R・ラ・モンディアルのロマン・バルデ(フランス)がこの山岳ステージを制するのだが、18秒遅れの総合2位につけていたアルが首位のフルームに20秒差をつけたことと、区間3位のボーナスタイム4秒を獲得したことで首位に立ったのだ。

「世界中の自転車選手が憧れるマイヨ・ジョーヌを獲得できた。僕はすでにジロ・デ・イタリアやブエルタ・ア・エスパーニャのリーダージャージーを持っているが、それにも増してうれしいものだ」と語るアル。

 このステージのフルームは肝心のゴール前で疲れを露呈して、わずかに遅れた。

「あの日は調子が悪かった」と後日回想しているが、フルームにとってピンチだったのはこの1回だけで、続くアルプスでは完全に復調してきた。

 第14ステージ。この日のゴールであるロデーズは山岳ポイントでないながらも、ゴール前が急坂となっていた。そして今度は、マイヨ・ジョーヌのアルが最後の上り坂で力尽きる。

 フルームはこのとき6秒遅れの総合2位にいて「まったく期待していなかった」というが、チームからの無線で「プッシュ! プッシュ!」という指示を聞いた。アルが脱落しているのでダッシュしろ、という意味だ。激坂を全力で駆け上がってアルに25秒差をつけ、結果、フルームがふたたびマイヨ・ジョーヌを獲得した。

 アルプスの山岳ステージでは、フルームはほぼ完璧なレース展開を見せつけた。自分から攻撃を仕掛け、総合2位以下のライバルに付け入る隙を与えなかった。そして最終日前日の個人タイムトライアルでも実力どおりのタイムを記録し、パリにマイヨ・ジョーヌを着用したまま凱旋することになる。

「こんな接戦は初めてだ。ツール・ド・フランスはいつも困難なレース展開だが、これほどプレッシャーを感じたことはなかった。でも今の僕は、それをパワーにして走ることができるんだ」

 来年、フルームには最多勝のタイ記録がかかる。ツール通算5勝はフランスのジャック・アンクティル、ベルギーのエディ・メルクス、フランスのベルナール・イノー、スペインのミゲール・インデュラインが記録しているが、「アフリカで生まれ育った僕はそこで自転車を始めたので、過去の伝説的な選手のことは知らないんだ。僕のなかで強烈な想い出があるのは、ランス・アームストロング(アメリカ)やイヴァン・バッソ(イタリア)だ」という。来年もコンディションを合わせて、5勝目に挑むのは確実だ。

 勝つためにはダウンヒルを速く走る方法を研究したり、集団の中の適正な位置取りを考えたり、自分をチューンナップする努力を怠っていないという。

「だから最初の勝利よりも、確実に強くなっているはずだ。でも、これからも自分自身をさらに変えていきたい」

 フルームの強さは、この謙虚さなのかも知れない。

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