「ネットの投稿が“ネタ”か本気かを判断するには、「ポーの法則」が役に立つ」の写真・リンク付きの記事はこちら

米国のミレニアル世代向け新興ニュースサイト『フュージョン』のレポーターであるエマ・ローラーは2017年4月、インターネット上の極右勢力の思惑にまんまとはまってしまった。英語圏を対象とした匿名掲示板「4chan」の“ネタ記事”を信じ、“釣られた”のだ。

4chanユーザーは2月下旬から、ある“布教活動”を行っていた。たわいもないサインやマークを「ホワイトパワーの隠語で、白人至上主義者たちの使う秘密の合図」であると偽るものだ。とりわけ好んで使われたのは「OK」のハンドサインだった。親指と人差し指で輪を作り、残り3本の指を立てると、白人至上主義者を自称するジェスチャーとなるという。

もともとは、「ポリティカル・コレクトネス」(政治的な正しさ)を過剰に求める風潮を皮肉るジョークだった。しかし、これを4chanユーザーたちが面白がり、真実として定着させようと盛り上がった。これに超極右メディアも加担した。そして4月29日、ついに彼らの努力が実り、ローラーがこうツイートした。「ホワイトハウスで白人至上主義者のジェスチャーをしている人が2人いたわ」

ツイートには2つのリンクが貼られていた。1つは、フリージャーナリストのマイク・チェルノビッチと、ロシア政府系メディア『スプートニク』の記者だったカサンドラ・フェアバンクスがOKサインをし、「国家安全保障担当記者」と自称した画像。もう1つは、4chanの画像で、「OK」は白人至上主義者の使うハンドサインだと紹介するものだ。

😂👌 with @Cernovich pic.twitter.com/yI2sUg8TP6

- Cassandra Fairbanks (@CassandraRules) 2017年4月28日

いま、ローラーは名誉棄損で訴えられている(ツイートはすでに削除されている)。一方、チェルノビッチとフェアバンクスの2人は、“釣り”のための“祭り”に意図的に参加したことを明らかにしている。フェアバンクスは転職し、現在は政治を中心とした米国のニュースサイト『Big League Politics』(ビッグ・リーグ・ポリティクス、BLP)に勤めている。米国の右派ニュースサイト『ブライトバート・ニュース・ネットワーク』のOBが立ち上げたもので、ローラーの訴訟の原告でもある。

匿名掲示板やブログ、SNSのように、ユーザー同士で双方向のコミュニケーションが可能なソーシャルメディアに親しんできた人であれば、これまで次のような“戦術”を見たことがあるだろう。すなわち、ある人が不快な発言をしておきながら、それは冗談だと言う。そして、相手を過敏だと主張し、非難を逃れようとする。真の動機を隠すために皮肉を身にまとうのだろうか? いったいどういうことだろう。

“ネタ”か本気かを見分けるには

ここで「ポーの法則」を思い出してほしい。「ネイサン・ポー」と名乗るユーザーは2005年、万物は創造主なる神によって生み出されたとする「創造論」の支持者と、生物は長い時間をかけて進化してきたという「進化論」者、そしてポーのように彼らを煽って楽しむ人々が集まるウェブサイトでこう書いた。

「創造論原理主義者のネタをやるときは、顔文字や、ユーモアだってはっきり分かる表現を入れておかないと、本気で言ってるって誤解されるのは完全には避けられないよ」

インターネット上では、誰が冗談を言っていて、誰が本気なのかを見分けることは困難だ。ポーの法則は、空気を読めない人々からの“マジレス”による攻撃を防ぐうえで有効なだけではない。“釣り”の精神がネット文化を衰退させた事実を正確に表してもいる。誰も他人の本音を理解できないなら、「本気じゃなかった(冗談だよ)」という否定は、いつだってもっともらしく聞こえる。

「ポーの法則」が提唱されて以来、ネット上に投稿される“ネタ”は元のコンセプトとはかけ離れたものとなっていった。「4chanのような匿名掲示板に投稿されるものの大部分をパロディネタが占めています。集団的な空間において人々は個人的には互いを知らず、相手の真意を知ることもできません」とミルナーは言う。

「内輪ウケ」するジョークはなくなった

米国最大級の匿名掲示板で、一般ユーザーが投稿を記事として掲載するソーシャルニュースサイトでもある「Reddit」では、「/r/poeslawinaction」(ポーの法則が作動中)というタイトルのスレッドすらある。そこでユーザーたちは、ネット文化に特有の曖昧さについて書き込みし、意見を交わしている。

4chanの悪名高いスレッド「/pol/」(ポリティカリー・インコレクト、政治的に不適切)では、日常的に実に不愉快で憎しみに満ちた投稿がなされている。ユーザーがどのように自らの行動を正当化するのか、考えてみてほしい。

「ポーの法則」が公表された2005年以降、インターネットは大きな変化を遂げてきた。そして、その間ずっと拡大し、加速し続けているため、「ポーの法則」はますます多くのインターネット上のやりとりに当てはまるようになった。

「ソーシャルネットワークが特定の興味を共有する仲間内だけに閉ざされていた頃は、冗談を言う側は相手も冗談と受け止めてくれるだろうと期待できました」。こう話すのは、“釣り”とネット文化との関係性を考察した『This Is Why We Can’t Have Nice Things』の著者であるホイットニー・フィリップスだ。「いまや1回リツイートされただけで、その内容が自然発生的に世界中に広がる可能性があります。それも、あなたの仲間ウケするジョークを前後の文脈を含めて理解しない人々が拡散するのです」

「あいまいさ」が免罪符になる

一方、4chanはその勢力を拡大し続けている。4chanのスレッドに投稿された内容が話題になることもあれば、オルタナ右翼や別の“釣り”を仕掛けるグループの出現を通じて注目を集めることもある。「ポーの法則」はますます多くのろくでなしの免罪符となり、他の多くのインターネットミームと同様に“武器”として使われるようになった。

ブライトバートのテック担当記者で“荒らし”行為を行うユーザーとしても知られているマイロ・ヤノプルスは、曖昧さこそが「偏見だ」という非難から逃れるための“非常口”であるとはっきり理解している。ヤノプルスはブライトバートにこんな記事を書いた。「オルタナ右翼は本当に偏見に満ちた人々なのでしょうか? 80年代のデスメタル愛好者が、悪魔の崇拝者だったというわけではありません。デスメタルは祖父母を戸惑わせる手段にすぎません」。

ヤノプルスは、女優のレスリー・ジョーンズに対する人種差別的な嫌がらせ行為も指揮していたが、同様の論理を用いて正当化した。この行動によって、ヤノプルスはついにツイッターから追放された。そして多くの人々に、「ツイッターはジョークが分からないんだ」という印象を与えた。

4chanに「/b/board」というスレッドがある。4chanの“釣りネタ”やひどい内容の投稿でショックを与えようという戦術の元凶となっている場所だ。このスレッド内でよく見られる有名なフレーズがある。「ここに書き込まれた話と情報は、フィクションと偽りが生み出した芸術作品です。事実だと受け止めるのは、馬鹿なやつだけです」というものだ。この免責条項にもかかわらず、主流派メディアのジャーナリストだったローラーが“釣られた”ときの、4chanユーザーの喜びようは想像に難くない。

迷ったときこそ「ポーの法則」

「ポーの法則」はネット上では、まだ有効だ。フィリップスは「『トランプ政権における情報操作』といった情報や感情に訴える嘘を駆使して世論に影響を与えようとする“ポスト・トゥルース”を好む人々は、『ポーの法則』にのっとって政治について語ろうとはしません。しかし、怒るべきか、呆れるべきか判断がつかないときは、『ポーの法則』を思い出してください」と話す。

例えば、米民主党全国委員会のスタッフであったセス・リッチが殺害された事件について、内部告発サイト「ウィキリークス」を立ち上げたジュリアン・アサンジが陰謀論を喧伝したとき。トランプ大統領の顧問であるケリーアン・コンウェイが「冗談で」娘のイヴァンカ・トランプの服を買うよう国民に“指令”を出したとき。スウェーデン人のユーチューバーで、世界一の登録者数を誇るピューディパイが、人種差別を“風刺”であるかのように正当化しようとしたとき。「ポーの法則」を活用してほしい。

冗談のふりをして人々の感情を翻弄しようとする動きや、“釣り”や“荒らし”のような下らないあおりに対して、「¯\_(ツ)_/¯」という顔文字のように肩をすくめてやり過ごすこともできるだろう。しかし、前向きな姿勢とはいえない。ひとたび諦めの境地に至ってしまうと、「ポーの法則」は“釣り”を仕掛ける人々の隠れ蓑として使われ、力を失い始める。ミルナーが言うように、「あなたが見聞きしたものが人の言葉ならば、大事なのは言葉とその効果だけ」なのだから。

RELATED

極右勢力のミームが、「ユーモア」から「闘う英雄の崇拝」へと変化した理由