人と話しているとき、誰かが話すのを聞いているとき、「だから」という言葉にカチンときたことはないだろうか。

「だから」

『広辞苑』(第四版)を見ると、「【接続】そういうわけで。それゆえ。『――言わないこっちゃない』」とある。

でも、この「だから」という言葉、必ずしも本来の意味通りに使われていないケースがある。おそらく「カチンとくる」のは、そういったときだ。

「ああ……だから、2億1千万円くらい?」


例えば、自分がテレビ番組を観ていて気になったのは、こんなやりとりだ。
高級住宅街の大きな家から出てきた一般人に記者がこう尋ねる。
「お家はいくらで買われたんですか」
そもそもこの質問が失礼なのだが、対する男性の答えは、こうだった。
「ああ……だから、2億1千万円くらい?」
「だから」って、何が? カチンときてしまうのは、裕福そうな男性に対する嫉妬心なのか。いや、やっぱり違う。だって、「接続」の意味をなしていない、脈絡ない、どこともつながっていない「だから」だから。
この「だから」の意味は、「高級住宅街にあって、この家でしょ? そういうわけでやっぱり億単位にはなるよね?」といったあたりか。
でも、自慢にならないよう言葉少なに、ニヤニヤせずに、努めてクールに言う「だから」。
いっそ正面から自慢してくれるほうが清々しい気がするが、どうだろうか。
同様に、前後のつながりと関係ない「だから」には、「自慢したい。でも、自慢に聞こえないように、さりげない自慢がしたい」思いが込められているケースがある。
例:「んーだから、一応、大学は東大だったんだけどね」

「だから〜で、〇〇したわけで」


「だから〜で、〇〇したわけで」
これは上記に近い自慢系の言葉だが、圧倒的におしゃべり好きの人に多く見られる。
おそらく本人の中では「〇〇で、△△なわけだから〜であって」という長い説明や蘊蓄などがあり、話がつながっているのだろう。しかし、その前後を省いてダイレクトに「だからね」と言うことで、周りは「何が『だから』なんだよ!」と思う。一方、それを口にした当事者にとっては「そうは言っても、たぶんこいつらにはわからないだろうなあ」という思いがあったり、「本来、言わずもがなのことなんだけどなあ」という上から目線があったりする場合もある気がする。
例:ダサいデニムを友人に指摘されたくりぃむしちゅー・上田晋也が、ジーンズの革パッチを見せて「マックミランだからね」と得意げに言ったという有名なエピソードも、おそらくこのケース。
ボロボロのトレーナーを友人に指摘され、「ニコルだからね」。また、汚い革ジャンを友人にからかわれ、「ラム革だからね」。

また、森友学園問題について、「もう一度小学校を作るなら、安倍晋三記念小学校にしますか」と記者に尋ねられた籠池前理事長は、「いや、しません」。そして「それはなぜですか」と畳み掛けられると、「……だから」と言っていた。
この場合、いろいろあったことをあまり語りたくない、察してくれという「だから」だろう。

初対面でありがちな「だからっ、そうじゃなくて」


「だからっ、そうじゃなくて」
これは初対面の会話の中でありがちな、苛立ちの「だから」。
例えば、名字や出身地などについて、相手が余計な(?)気を遣ってくれて、話題をふってくる場合が多々ある。
・「ご出身は?」→「長野です」→「スキーに行ったことありますよ」「虫とか食べるんですか」→「……」
・「ご出身は?」→「福井です」→「ああ、メガネの。焼き鯖食べるんですか」→「……」
・「ご出身は?」→「宮城です」→「牛タン美味しいですよねえ」→「……仙台じゃないし、そんなに食べないです」
・「ご出身は?」→「大阪です」→「えっ、じゃあ、ツッコんでくださいよ〜」→「……」
こういったありきたりなやりとりは、人生の中で嫌というほど繰り返されてきたこと。
いずれも、相手は話題を探してくれているのだろうが、言われる側にとってはこれまで出会った様々な人に散々言われすぎて、「またこの話か」とうんざりする。
相手は初対面の人なのだから、その質問もツッコミも当然「初めて」なのだが、自分の人生の中では「嫌というほど既出」。だから、思わず「だからさぁ〜、焼き鯖まるごと食べる人、そんなにいないんだって!」「だからっ! 虫をみんな食べているわけないじゃん!」と言いたくなるのだろう。
かく言う自分も、大学時代の友人が東村山出身と聞いた瞬間、「志村けんの!」と嬉々として言ってしまい、友人にクールに「……はいはい」と返された。おそらく「だからさぁ(怒)、それ、散々言われてきたけど、別に面白くないんだけど!」くらいの気分だろう。

名字についても同様で、だいたい同じような感想や質問、ツッコミが人生の中で繰り返される。
そんなときの、ちょっと苛立った「だから」の場合、言われた側はカチンとくるというよりも、「? なんか機嫌悪そう」「?? なんか怒られた?」となる。そして、地雷を踏んだ気分になり、ちょっと凹む。

単なる口ぐせの「だから」


言葉の頭の部分で、意味なく使いがちな口ぐせもある。「えっとー」「あのー」「あ〜」などもそうだが、全然要約していないのに「要するに」と言う人と同じく、初めて言う言葉、初めて話す内容なのに「だから」と意味なくつけてしまう人。
「うん。だから、〇〇したの」「そう。だから△△で」「だから、〇〇なんだけど」
言われる側は「? 初めて聞いた気がするけど?」「もしかして察しが悪いと思われてる?」とちょっと傷つく。

たった3文字なのに、様々なシチュエーションで、様々な思いが感じられる「だから」という言葉。
皆さんはどんなときに使っていますか。
(田幸和歌子)