名門バルセロナに加入したことで能力にさらに磨きがかかった、現FC東京U-18の久保建英【写真:Getty Images】

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「持って生まれた能力は同等」でも差がつく理由「練習量で精神力が強くなると思わない」

「日本とスペインの子供たちが持って生まれた能力は同等だ。しかし、バルセロナと日本を比較した場合、環境が違いを生んでしまう」――ジョアン・サルバンス(元バルセロナ・カンテラ監督)

 FC東京U-18の久保建英が、5月3日に行われたルヴァンカップの北海道コンサドーレ札幌戦に後半途中から出場し、15歳11か月でトップデビューを果たした。

 もともと久保は幼少時から突出した才能を見せてきたが、10歳でスペインの名門バルセロナに加入したことで、その能力にさらに磨きがかかった。クラブが18歳未満の外国人選手獲得・登録でFIFA規定に抵触した影響で、2015年に帰国を余儀なくされた後は、FC東京の下部組織に入り、中学3年生の昨年11月にBチームにあたるFC東京U-23でJ3リーグに初出場、15歳5か月1日とJリーグ史上最年少出場記録を塗り替えた。

 今年4月にはJ3リーグで初ゴールも決めて、15歳10か月11日でのJリーグ史上最年少得点記録を樹立。そして、今回のルヴァンカップで、早くもFC東京のトップチームで出場を果たすなど、記録破りの成長曲線を描いている。まさに冒頭で紹介したジョアン・サルバンスの、指摘の正しさを裏づけたことになる。

日本の問題点「グローバルに見て、10分以上ボールに触れない練習はありえない」

 ジョアンは、バルセロナのカンテラ(下部組織)で、ボージャン・クルキッチ(現マインツ)やジョルディ・アルバらを育て、後に来日して東海大菅生で指導をした。

「日本の子供たちは、欧州の子供たちと比べても、持って生まれた能力に違いはない」

 裏返せば、才能豊かな日本の子供に、バルセロナの環境を与えれば、欧州のトップレベルと遜色のない選手が生まれるということになり、久保は貴重なサンプルとなった。

 では、スペインと日本の環境の違いは、どこにあるのか。ジョアンは、丁寧に解説してくれた。

「バルセロナは、欧州内でレベルの高い試合を繰り返す。飛び抜けた才能を持つ子供たちが、常に最大限に力を発揮しなければならない環境にある。ところが日本では、十分な公式戦の数が確保されていない。特に中学や高校の下級生は、出場できる試合が少ない」

「さらに日本ではトレーニングの量に凄く拘る。だがスペインに限らず、欧州で大切にしているのは、トレーニングの質だ。グローバルに見て、10分間以上もボールに触れないトレーニングは、リハビリも含めてありえない。量をこなせば精神力が強くなるとは思わない」

日本で精神力と言えば根性力、バルサの子供に染み付く「勝者のメンタリティ」

 日本では昔から、流した汗の量や、理不尽なことに耐えることで精神力が養われるとも考えられて来たが、欧州にそんな発想はない。

「バルセロナのU-14チームを率いて国際大会に出場した。グループリーグでドルトムントと勝ち点が並び、抽選で勝ち上がりを決める規定になっていた。だがバルサの子供たちは、どうしても決着をつけさせて欲しいと、大会の役員に直訴。翌朝再戦を実現させて、とうとう優勝を飾った」

 日本で精神力と言えば根性論が連想されがちだが、バルサの子供たちに染み付いているのは、むしろ「勝者のメンタリティ」、言わばプライドであり、誇りだ。

 日々効率的なトレーニングを重ね、勝ち続けることで「絶対に負けてはいけない」「負けるはずがない」という矜持や自信が確立される。そこが彼我の最大の違いなのかもしれない。

(文中敬称略)

加部究●文 text by Kiwamu Kabe

◇加部究(かべ・きわむ)

 1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。