日本の残業は国際問題!?


「給料全然上がらないし、会社はいつ潰れちゃうかわからないし、副業でも始めようかな。最近うちの会社も副業解禁になったし。うん、それがいい!――ってこんな残業ばかりじゃできるわけないじゃなか〜〜!!」

なあんて一人でノリツッコミしている人もいるかも知れませんが、日本人の長時間労働は経済協力開発機構(OECD)も問題視するいわば国際問題!

日本人の労働生産性は先進国の中で20年以上最下位であることを受け、政府も働き方改革を推進したり、電通の過労自殺やヤマト運輸の残業代未払いなどが問題になったりと、脱残業社会に向けて環境は整いつつあるはずなのに、なんでオレの残業は減らないんだ〜〜!

そんな僕たちの悲痛な叫びにあの人が答えてくれます。



残業によって成り立っている日本経済


――なんで残業はなくならいんですか?

「一言で言うと、日本の雇用システムは残業によって成り立っているからです」

そう答えてくれたのは、千葉商科大学専任講師で、各種メディアにも引っ張りダコの労働問題のスペシャリストの常見陽平さん。
常見さんは先日『なぜ、残業はなくならないのか』を出版したばかりで、この問題にもとても強い問題意識を持っています。

――「日本の雇用システムが残業によって成り立っている」とはどういうことですか?

「一言で言ってしまうと、仕事に人をつける社会なのか、人に仕事をつける社会なのか、という問題ですね」

前者は「こういう業務があるから、それに相応しいこういうプロフェッショナルを付けよう」と考える社会であり、後者は「この人はあれもこれもできそうだから、あれもこれもやってもらおう」という考え方をする社会のことだ。

「スペシャリストを求める社会か、ジェネラリストを求める社会かの違いです。欧米では前者を求め、そのため同一労働同一賃金という考え方が定着していますが、日本では古くからジョブローテーションをするなど、ジェネラリストを育成したがる傾向があります。そのため日本では一人ひとりの仕事の役割と責任範囲が明確になっていないので、じゃあこれもやってあれもやって、となりがちです」



残業減らしはムリゲ


――なるほど。そうなると早く仕事の終わる人がサッと帰るのではなく、仕事ができればできる程仕事量が多くなり、どんどん帰るのが遅くなってしまうのですね。

「そのうえ低成長の時代になり、価格競争、過剰サービスといった形で互いが互いを苦しめ合って、益々残業が誘発されている状況です。この状況の中で社員は『残業を減らせ』と命令されていますが、それはムリゲですよ」

――40代以上の中間管理職が若い頃、馬車馬のように働くのをよしとする価値観の中で育ったことは関係ありますか?

「若手社員が愚痴も兼ねて、管理職が無能だからだというような言説をすることはありますが、彼らを吊るし上げるような犯人捜しはナンセンスです。決して彼らの頭が悪いというわけではなく、世の中が急激に変わり過ぎているのに、売上げ目標も変わるわけではないので対応しきれていないだけです。人がそんなに素早く変われるわけはないのですから、システムを変えた方が早いです」

――最近政府は「働き方改革」を提唱していますが、そのことによってシステムは変わっていきますか?

「働き方改革というと聞こえはいいのですが、問題の把握の仕方がずれていて、結局代わり映えのしない古い議論で終わってしまっています」

――労働生産性の向上やらワークライフバランスだとか、比較的大切な議論もしているようですが?

「もちろんそうしたことが改善につながることもあるとは思いますが、どうやったら労働時間が減るのかという発想だけで考えていると、結局サービス残業だけ増えてしまう結果になりかねません」



経済成長 or 成熟社会?


――ではどのような発想で考えるべきなのでしょうか?

「究極的な問いかけになってしまうのですが、経済成長をどこまで求めるんですか? ということが問われるべきなのだと思います。これから少子超高齢化を迎え、低成長、労働力不足の時代に入り、仕事が回らなくなってきます。その中で無理やり経済成長を求めるのか、成熟を求めるのかを国も企業も真剣に考えないといけないです」

――私たち国民はどうすればいいのですか?

「給料が下がっても仕事を分かち合うということを受け入れるのか、という問題がありますよね。さらに具体的な答えを言うなら、仕事を断る勇気を持てるか、値上げする勇気を持てるかという話です」

――多少給料が下がっても人間的な働き方をするという選択肢もあるよということですね?

「結局、私たちも一人ひとりどうやって働きたいのかをきちんと考えるべきなんです。5年後、10年後、自分がその分歳を取った時にどういう働き方をしていたいのか、どういう生活をしていたいのかを考えて会社との関係を見直していけばいいのではないでしょうか」

5年後、10年後には残業をしたくても、AIに仕事を取られてしまって残業のしようがない社会になっているかも知れません。そういう状況の中、私たちはどう働き、どう生きたいのかを一度真剣に考えてみる必要があるかもしれませんね。
(鶴賀太郎)