日本海と京都を結ぶ鯖街道


日本海に面し、古くから海の幸が豊富だった福井県の若狭地域。律令時代には朝廷へ食べ物を献上する「御食国(みけつくに)」のひとつだった。若狭と京都を結ぶ道を通って、海産物や塩などさまざまな食材が京都へ運ばれたが、代表的な鯖(さば)にちなんで「鯖街道」と呼ばれる。



鯖をこよなく愛する若狭の人たち


現代でも若狭の人たちは鯖をよく食べる。食べ方はいろいろあるが、地元の人に話を聞いてみると、よく名前が挙がったのが「焼き鯖」だ。スーパーにも売られており、一年中食べられるが、とくに夏のイメージが強く、「ご飯と合わせるのはもちろん、そうめんに入れて食べることもある」のだとか。


そして、家庭の冷蔵庫に必ずといってよいほど入っているのが、鯖に塩をふって糠漬けにした「へしこ」。「子どもはご飯のお供に、親父は酒のアテに」するそう。


ほかに「冬は鯖のなれずしを食べる」とか「マーメイド印の鯖缶が大好き」なんて声もあった。

大人気の鯖グルメ「サバサンド」


昔ながらの定番料理だけでなく、新しい鯖グルメも生まれている。そのひとつが「サバサンド」。昨年秋に開催された、全国の鯖グルメが集合するイベント「鯖サミットin若狭おばま」でも大人気だった一品だ。

提供しているのは、若狭町にある「Saba*Cafe(サバカフェ)」。2013年4月にオープンした鯖グルメがウリのオシャレカフェである。


メニューは鯖を使った料理が中心で、一番人気がサバサンドだ。


カリッとしつつもふんわりやわらかなフランスパンに、香ばしく揚げた鯖フィレがサンドされている。ソースはマヨネーズに、ゆずとトウガラシを使った若狭の万能調味料「柑なんば」を加えたオリジナル。タマネギにレモンを絞ってほおばると、レモンの酸味にトウガラシのピリ辛、それに鯖のうまみが口いっぱいに広がる。鯖はジューシーだが、しつこくなく、これは毎日でも食べたい味!

店を営むのは兵庫県出身の反田良子さん。もともとは夫である大阪府出身のカメラマン反田和宏さんのアトリエ探しをきっかけに、自然が豊かでのんびりしたこの地に惹かれて夫婦で移住したという。しばらくは母屋の隣の離れを撮影スタジオとして利用していたが、「飲食店をやりたい」という良子さんの希望でカフェへと改装したそうだ。

「鯖街道沿いで食べられる鯖料理は、鯖寿司が大半。せっかくなら違うものも味わってもらいたいと思い、メニューを考えました」(和宏さん)

撮影等で海外へ行くことも多かった和宏さんはトルコの名物グルメである「サバサンド」にヒントを得て、若狭の調味料を使ったオリジナルのサバサンドを考案。ちなみにメニューは近く刷新予定で、サバサンドに並ぶ新たな鯖グルメも登場するというから楽しみにしたい。

店の場所は、道の駅「若狭熊川宿」の向かい。鯖街道のルートはいくつかあるが、よく使われていたのが、宿場町「熊川宿」を通る若狭街道だ。


立地柄、「Saba*Cafe」も観光客の利用が多く、とくに土日は忙しいが、バイトやパ―トの人がなかなか見つからないのが悩みだとか。
「このあたりの人はのんびり。休日はみんなお休みで、なかなか働いてくれる人が見つからないんです(苦笑)」(良子さん)

ちなみに和宏さんは一年前に、店の裏にロードバイクのレンタサイクルショップ「Sabakaido Cycling Hub(鯖街道サイクリングハブ)」をオープンさせた。和宏さん自身もサイクリングが趣味で、若狭町での移動はもっぱら自転車。週末には仲間とのサイクリングも楽しんでいるそう。大阪在住40年とは思えないほど、すっかり若狭のスロウな空気になじんでいた。



大学の学食でも鯖グルメが充実!


もうひとつ、ユニークな鯖グルメに出会えたのが、小浜市にある福井県立大学小浜キャンパス内の「Kitchen Boo(キッチンブー)」だ。ランチバイキングのレストランで一般の人でも利用できる。


地産地消にこだわり、野菜を多用したヘルシーなメニューが中心だが、やはりここでも鯖グルメが目を引いた。

ユニークなのは「鯖おでん」。一見すると普通のおでんのように見えるが、ダシには福井県立大学が開発した特製の鯖醤油が使われ、具には焼き鯖フレークを練り込んだつみれ入りの「鯖きんちゃく」が入っている。

「鯖料理はどれも人気がありますが、とくに鯖おでんはずば抜けて人気があり、毎日仕込みに追われるほど(笑)。静岡や小田原でのおでんサミットでも長蛇の列ができていました」(Kitchen Booオーナー高野滋光さん)


ほかに、珍しいところでは「鯖こうじ」なる調味料も。鯖魚醤と麹をブレンドしたもので、福井県立大学と小浜中央青果の共同開発。うまみと甘味のバランスが絶妙で、ご飯にのせてもおいしい。


ほかに、鯖の醤油漬けや鯖の天ぷらもあった。なお、バイキングなのでメニューは日替わりだ。


若狭地域は昔から、豊かな食材と自然に恵まれてきたせいか、流れる空気も人の雰囲気もどこかのんびりムード。観光地然としておらず、なんだか妙に居心地がいい。2015年には福井県の小浜市と若狭町にまたがる鯖街道を中心とする「海と都をつなぐ若狭の往来文化遺産群 〜御食国若狭と鯖街道〜」が、文化庁により日本遺産にも認定された。数々の鯖グルメと美しい自然を心ゆくまで堪能したい人は、ぜひ一度訪れてみては。
(古屋江美子)