ベティス戦で得意のヘディングを決め、年間二桁ゴールを達成したS・ラモス。FWさながらの決定力だ。(C)Getty Images

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 セルヒオ・ラモスがまた決めた。
 
 3月12日、ベティス戦(リーガ・エスパニョーラ27節)の81分。S・ラモスはトニ・クロースがゴール前に送った右CKのボールを頭で押し込み、2-1とする勝ち越しゴールを奪う。これが決勝点となり、レアル・マドリーは同日にデポルティボに敗れたバルセロナから首位の座を奪回することに成功した。
 
 5日前のナポリ戦(チャンピオンズ・リーグ決勝トーナメント1回戦セカンドレグ)でも、セットプレーから2発を叩き込んだS・ラモスは(2点目はドリース・メルテンスのオウンゴールが公式記録に)、これでとうとう今シーズンの公式戦得点数を二桁の大台に乗せた。
 
 これまでの自己最多だった13-14シーズンと14-15シーズンの7ゴールを超える10得点。しかもそのほとんどは、同点もしくはリードされている状況で決めた重要なものばかりなのだから、大したものだ。
 
 ベティス戦のそれが7ゴール目となる今シーズンのリーガでは、3節のオサスナ戦で決めた1発を除く6得点が計5試合の勝敗を左右してきた。中でも14節のエル・クラシコで決めた90分の同点弾、翌週の15節デポルティボ戦で決めた92分の逆転ゴールは、優勝争いにおける決定打となりえるものだ。
 
 ここまでチームに勝点8をもたらしてきたS・ラモスのゴールがなければ、現時点でマドリーは首位バルサと勝点6差、2位セビージャとは同3差の3位に付けていた計算になる。4位アトレティコ・マドリーとの差もわずか2ポイントであり、優勝争いどころか3位の座すら危ぶまれていたことになるのだ。
 
 改めて言うまでもなく、これまでS・ラモスが決めてきたゴールのほとんどはセットプレーから生まれている。その意味では、今シーズンここまでCKから8アシスト、FKから3アシストを記録しているクロースの重要性も浮かび上がってくる。
 
『マルカ』紙の統計によれば、今シーズンのマドリーがここまで戦った全公式戦43試合で決めたチーム総得点122のうち、PKや直接FKを除いたセットプレーからのゴールは19に上る。これは52試合で18ゴールだった昨シーズンをすでに上回っており、同得点率では近年の最多記録である2014-15シーズンの59試合・24ゴールも凌いでいる。
 2015年1月のジネディーヌ・ジダン監督誕生以降、マドリーはプレー内容でライバルを圧倒することは滅多にないながらも、極めて安定した結果を出してきた。セットプレーからの得点数の増加は、内容と結果の間にある矛盾を解き明かす1つのキーファクターだと言える。
 
 何より窮地のたびにチームを救うゴールを決めてきたS・ラモスは、もはや自陣より敵陣のゴール前での存在感のほうが際立つと言っても過言ではないほど、マドリーの攻撃に欠かせない存在となっている。
 
 すでにUEFAスーパーカップ、クラブワールドカップという2つのタイトルを手にしている今シーズン、S・ラモスがこのままDFとは思えない決定力を発揮し、マドリーが2011-12年シーズンのリーガ優勝と大会史上初のCL連覇を実現するようなことになれば――。
 
 S・ラモスが年末に、DFとしては2006年のファビオ・カンナバーロ以来、リオネル・メッシ、クリスチアーノ・ロナウド以外では2007年のカカ以来となるバロンドール受賞者となっても不思議はない。
 
文:工藤拓
 
【著者プロフィール】
1980年、東京都生まれ。桐光学園高、早稲田大学文学部卒。三浦知良に憧れて幼稚園からボールを蹴りはじめ、TVで欧州サッカー観戦三昧の日々を送った大学時代からフットボールライターを志す。その後EURO2004、W杯ドイツ大会の現地観戦を経て、2006年よりバルセロナへ移住。現在は様々な媒体に執筆している。