鉄人・室伏の教えを胸にオリックス吉田正尚が究める「超人スイング」
キャンプでの見慣れたフリーバッティングの風景は、吉田正尚(オリックス)の登場とともに空気を変えた。”フルスイング”という言葉では物足りない強烈な振り。腰をねじ切れんばかりに回し切り、軸足の拇指球を蹴り上げフィニッシュ。フリーバッティングで「そこまで振るか!?」という強烈なスイングを繰り返した。吉田のバッティングを見ながら、かつて”フルスイング”を代名詞としていた中村紀洋の言葉を思い出した。
「練習で振らんヤツは、試合でも絶対に振れない」

今季はチームの中軸として期待が集まる吉田正尚 吉田は”フルスイング”より”強いスイング”という表現を好んで使うのだが、その理由はこうだ。
「フルスイングっていうと、少し軽く聞こえる感じがするのと、なんでも振るイメージがあるじゃないですか」
その吉田に、このキャンプでのテーマを聞くと、「日に日に感じるものが変わるので、テーマは決めてないです。新たに出てくるものを発見して、感じながらやっていく。トータルでは見てないんです」という答えが返ってきた。グラウンドでは早くも貫禄を漂わせるプロ2年目の23歳は、取材の場でも予定調和な答えではなく、自分の言葉で伝えてくる。
ルーキーイヤーの昨年、吉田は開幕スタメンの座をつかみ、1981年の原辰徳(巨人)らに並ぶ6試合連続安打の新人タイ記録をマーク。しかし、4月23日に腰痛で登録抹消となり、再登録されたのは8月12日。結局、63試合の出場に終わったが、それでも打率.290、10本塁打、34打点を残した。新人野手としては合格点を与えられる数字にも思えるが、それで納得するような男ではない。
「やれなかったですね。63試合しか一軍にいなかったわけですから。プロはお金になる世界。二軍でいくら打っても意味がない」
あらためて振り返ると、3、4月の21試合は打率.263、0本塁打、4打点。それが復帰後の42試合は、打率.305、10本塁打、30打点と別人の活躍を見せ、最終戦では4番を任された。この差を見て、「もしかして開幕時から腰の不安を抱えていたのでは……」という思いが浮かんだが、吉田は否定した。
「それはなかったです。それよりも慣れです。(2月上旬に右わき腹を痛めて二軍調整が続いていた影響で)京セラでのオープン戦最後の3試合に出ただけで開幕でしたから。ビジターの感覚とか、ホテルでの生活とか、慣れないことばかりでした。それが復帰後は、球場の雰囲気や移動、生活のリズムにも慣れて、落ち着いて野球ができるようになりました。そこが大きかったと思っています」
さらに、12月には台湾で行なわれたアジアウインターリーグにも参加し、全18試合に出場し、打率.556、6本塁打、29打点と驚異的な記録を残した。しかし、このことについて聞いても、「ひとつひとつ見ていったら、いいものもあったし、悪いものもありました。特に、あそこ(台湾)で打てたからどうというのはないです」と素っ気ない。
やはり1年目に関しては、シーズンを通して戦いきれなかった”悔い”の方が大きい。そこでオフから吉田が懸命に取り組んでいるのがコンディショニングだ。特に、あの強いスイングを支えている腰の負担は気になるところだ。
「ただ、バッティングが腰にどれだけ影響するのかはわかりません。いちばんは普段の生活からの蓄積だと思うので、私生活での体の動かし方、守備のときにも腰に負担がかからないようにとか、トータルで考えるようにしています」
同時に、肉体強化の意識も高まり、1月25日には東京医科歯科大で教授を務める室伏広治氏のもとを訪ねた。そこで室伏氏が吉田のために考えた16種類のトレーニングを伝授され、コンディション維持に関する話も聞いた。
昨年の秋季キャンプ中に直筆の手紙を書き、その思いが伝わっての実現だったわけだが、あまたいるアスリートの中からなぜ室伏氏だったのか。
「バイオメカニズムもしっかり勉強されていて、体を知り尽くしている方。それに、単に指導者という立場ではなく、教授としていろんな研究もされている。最初からこれを学ぼうというのではなく、実際にお会いして感じたもの、得られるものは全部持って帰ろうと思って行ってきました」
オリンピックの金メダリストに手紙を書き、ひとりで飛び込んでいく。このあたりに吉田正尚という選手の、プロの世界で生き抜く強さを感じた。そして室伏氏に惹かれた理由もわかる気がした。
吉田は子どもの頃から体が小さく、今も身長173センチと大男が集うプロの世界では小柄な部類に入る。だが、この体で「もっと飛ばしたい。どうしたら飛ばせるのか」と考え続けてきた。対して室伏氏も、世界の大男たちとの圧倒的なパワーの差を埋めるため、徹底して体の使い方、鍛え方を学んできた人物だからだ。
「体の使い方を極めていけば、もっとすごいパワーが出るイメージは持っています。だから、まだまだ自分の力を引き出したい。自分で考えられることはやりながらも、誰かの手を借りることでもっともっと力を引き出したいんです」
そして吉田が、室伏氏との会話のなかで強く印象に残ったのが、「感覚を磨け」という言葉だった。
「昨日の自分をわかっておかないとダメだと言われました。投てきでも、昨日の自分と比べてどうなのか。そこがわかって、『じゃあ、何をすべきか』ということが見えてくる、と。バッティングも同じ。意識と実際の間にズレが生じることでミスショットにつながる。イメージ通りに体を使い切ることが究極の目的で、そのために練習を重ねて、感性を磨かないといけない。ゴールはないので、一喜一憂することなく積み重ねていくしかない」
吉田の”強いスイング”の原点は、子どもの頃にBS中継で見ていたメジャーリーガーだ。なかでも、夜に放送されるMLBのダイジェスト版を見るのが日課だった。ちなみに、日本のプロ野球で興味があった選手は、ヤクルトや巨人などで活躍したロベルト・ペタジーニ。そして今、憧れている選手はワシントン・ナショナルズの強打者、ブライス・ハーパーだ。
年齢を重ねるごとに体の使い方への関心が高まり、いかに持っているパワーを無駄なく最大限出し切るかを考えながら、バッティングをつくり上げてきた。
そんな吉田のプロの世界での”飛び”を感じさせるひとつのデータがある。それが昨年、札幌ドームで放った3本のホームランだ。札幌ドームは広い上にフェンスが高いという、言わずと知れたホームランの出にくい球場だ。ここを本拠地として戦う日本ハムの選手を除いて、札幌ドームで3本以上ホームランを放った選手は、エルネスト・メヒア(5本/西武)、糸井嘉男(3本/オリックス→阪神)、そして吉田の3人しかいない。吉田は言う。
「札幌ドームは空気が乾燥しているから飛ぶんじゃないですか。ただ自分の場合は、広くてフェンスも高いから、逆にフラットな気持ちで打席に入れるのかもしれないですね。球場が狭いと、逆に力が入ってしまうかも。でも、球場を意識したことはないですけどね」
ちなみに、日本ハムの主砲・中田翔は「広いからこそ力む」と、本拠地を苦手(札幌ドームで3本塁打)にしている理由を挙げていた。
強烈なスイングや飛びに注目が集まる吉田だが、それだけではない。”強いスイング”を意識しながら、確実性も求めているのだ。それを実践するため、打席のなかで3つのスイングを状況や場面によって使い分けている。
? テイクバックをゆったり取り、相手投手が投げるボールのラインにバットを入れるスイング
? 高めの球をさばくときなど、ボールに対して最短距離で極端なぐらい上からバットを出すスイング
? 長打を意識して、やや下からバットを出すスイング
昨年、あれだけのフルスイングをしながら、三振数は258打席で34個。ただ強く振るだけでなく、しっかりミートすることも意識していたことがわかる。
とにかく理想のバッティングを追求するため、細部にまでこだわりを見せる吉田だが、使っているバットもそのひとつ。昨シーズンは、900〜910グラムのバットを使っていたが、このキャンプでは915グラムのものを使用していた。
「重いバットの方が飛びますから。今は自分に合うのかどうかを試しながら、試合で使えるか決めていきたい」
こだわりは重さだけではない。木製バットの材質は、アオダモ、ホワイトアッシュ、メイプルと主に3種類あるが、材質も使い分けていきたいと話す。
「昨年の後半、ホームランが出ていたときはホワイトアッシュとアオダモ……。メイプルでホームランはなかったはずです。ただ、速い球は柔らかいバットだと負けるので、硬い材質の方が”弾きがいい”というのはあります。でも、それも感覚です。相手投手や自分の状態、そのときの感覚も含めて考えていきたいですね」
こだわりの男は、過去の慣習や型にとらわれることなく、変化も恐れない。
「自分がいいと思えば試して、ダメならやめる。役に立つと思うものは何でも試します。それが向上心じゃないですか」
23歳にしてヒシヒシと伝わる高いプロ意識。すっかりチームの中心選手となった今、どんな目標を掲げて2年目のシーズンに挑むのか。数字自体に興味はないと言う吉田だが、「タイトル争いはしたい」ときっぱり言い切った。
「今年だけじゃなく、毎年そこに食い込める選手になっていきたい。獲れるなら、打撃部門のタイトルは全部獲りたいですし、出塁率やOPS(※)にもこだわっていきたい。昨年、筒香(嘉智/ベイスターズ)さんや大谷(翔平/日本ハム)のOPSは1点台だったんですよね(筒香1.110、大谷1.004、吉田.854 )。1点台の打者は、常に打って、塁に出て、得点に絡んで、試合を動かしているイメージがありました。とにかくピッチャーに恐怖心を与えられるバッターになりたい」
※OPSとは、出塁率と長打率を足し合わせた数字で、打者の総合的な得点能力を表した指標。一般的に.900以上で主力打者、1.00以上で球界トップクラスと言われている
シーズンを通してコンディションを維持し、143試合に出場できれば……173センチの体から放たれる強烈な一打に、野球ファンは新たな衝撃を受けるだろう。
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