日本は同人ゲームで完結しているのか。東京インディフェスティバルの成果
約5ヶ月間でゼロから立ち上げた
イベントを主催したのはIPCアドバイザーズで、日本のインディゲーム開発者をサポートしています。展示会が一段落した今、チーフ・オーガナイザーのアレキサンダー・デ・ジョルジョに全体を振り返ってもらいました。
──イベントを終えての率直な感想を教えてください。
今ちょうど「ふり返り」をやっている最中です。自己採点で言えば75〜80点くらい。初めてのイベントだったにもかかわらず、いろいろな点で想像以上にうまく行きました。出展者数は92団体で、一般来場者は1400人くらい。メディアなども含めれば、合計で2000人近くが参加してくれましたしね。規模もさることながら、開かれた感じのイベントにしたくて、そこが良かったです。
──ゲームイベントは東京ゲームショウをはじめ、いわゆる「クール」な雰囲気を演出する傾向にありますが、TIFは会場の特性か、あっけらかんとして明るかったですね。
そうそう。そこはまさに狙い通りでした。通りすがりの方がふらっと覗いてくれるようなイベントにしたかったんです。
──日本のイベントにもかかわらず、国際色が豊かでしたね。
そうですか？ 海外出展者は29団体で、中にはQ-Gamesや17bitのように日本在住の外国人による出展もあったので、そんな風に思えたのかもしれませんね。あとはボランティアスタッフで外国人が多かったのも、そういった雰囲気を醸し出していたのかもしれません。実はみんな、フリーランスのゲーム翻訳者で、イベントを手伝ってくれたんですよ。
──なるほど、合点がいきました。メディアの露出も多かったですね。自分もパネルディスカッションを取材させていただきました。
おかげさまで、全部で36媒体に取材してもらえました。最初は問い合わせが少なくて不安なところもありましたが、会期が近づくにつれてメディアから取材申込みが増えて安心しました。
──いつから準備を始めたんでしたっけ？
企画が上がったのは去年の東京ゲームショウの直前です。東京ゲームショウで併催された「インディストリーム」パーティで構想を発表して、パンフレットも少しだけ配布しましたが、実際はほとんど決まっていませんでした。それが今年に入ってから少しずつ形になり始めたんです。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンからの協賛が決まったり、だんだんメディアに取り上げられるようになったり・・・。でも正直にいって、約5ヶ月間でゼロから立ち上げたのは大変でしたね。
──準備はどのように進めたのですか？
最初は自分1人でした。そこからコアチームが3人に増えて、直前になって6人まで増えました。もっとも弊社の人間は自分1人です。イベント会社で働いた経験のある知人がいて、彼らに声をかけて手伝ってもらいました。また前述の通り、フリーランスのゲーム翻訳者の方に運営を手伝ってもらったり・・・。いわゆる「代理店」は使っていなくて、すべてコミュニティで固めました。
──本当ですか？ これだけの規模で、しかも企業が主催するイベントで珍しいですね。
できるだけ業界の人と協力して、みんなの力で成功させたかったんです。ゲーム翻訳者の方はみなゲームが好きですし、スタッフ参加を通して、出展者とビジネス的な交流も期待できます。下手にアルバイトを雇うよりも、そっちの方がお互いに良い関係が築けるし、ゲーム好きが集まってやっているイベントという雰囲気が出せると思ったんです。知人で、ゲーム翻訳者のまとめ役みたいな方から提案を受けて、それはいいと考えました。
ふたをあければモバイルが一番
──宣伝はどのように行ったのですか？ 初めてのイベントということで、かなり大変だったと思いますが・・・
まずは出展者を集めることに注力しました。海外の出展者はIPCのネットワークも活用しました。国内向けにはインディゲーム開発者のコミュニティなどに自分から積極的にアプローチしていって、一緒に盛り上げてもらえるようにお願いしました。一番効果的だったのはFacebookやTwitterなどのSNSですね。もっとも最初はなかなか難しくて、募集開始時は海外の出展者からの応募が中心でした。それが3月くらいになって、メディアでの露出が増えたこともあり、急に100団体近くまで増えたんです。そうなるとスポンサー企業も注目してくれるようになりました。最終的に130団体近くまで応募があったんですが、そこからキャンセルがあったりして、92団体に落ち着きました。
──出展者には大きくPC・モバイル・コンソールがあったかと思いますが、それぞれの割合はどうでしたか？
最初はもっとPCが多いかなと思ったんですが、ふたをあければモバイルが一番でしたね。日本の現状を良く表していると思いました。一方でコンソールはもう少し多いかなと思ったんですが、低調でした。その中でもニンテンドー3DS向けのゲームが1社だけあったのは嬉しかったですね。
──スポンサー講演やパネルディスカッションが豪華だったのも驚きました。
当初から業界向けのセッションと、一般来場者向けの展示会の両方を併せ持つイベントを想定していました。というのも我々は単にインディゲームに露出機会を提供するのではなくて、インディゲームを核としたエコシステムを構築する手助けをしたかったからです。会場が秋葉原UDXになったのも、この両方が一度にできる施設を探した結果でした。
──ただ、初日は8Fでスポンサー講演が行われていましたが、二日目は2F（展示エリア）に移行しましたね。
実は協賛企業に講演をお願いする中で、「展示会会場で講演しても誰も聞かないと思うので、会場を分けた方が良い」という声が多かったんです。ところが蓋をあけてみると、出展者はみな展示するのに精一杯で、むしろ講演を聞きに来る人の方が少なかった。そのため二日目は急遽、パネルディスカッションを展示エリアで行うようにしました。結果的に来場者も含めて、いろんな人に聴講してもらえて良かったです。
──情報発信という意味では今回、動画配信サイトのTwitchとコラボされましたね。
日本のインディの状況を海外に向けて発信して、海外のファンとつながりたいという想いがありました。再生回数は18万回で、日本だけでなく世界中から視聴がありました。
──イベントを終えて、改めて日本のインディゲームシーンをどのように見ますか？
今の日本のインディは6-7年前のアメリカのシーンに似ています。ちょうどApp Storeがスタートして、まだ海のものと山のものともつかなかったころです。むしろアメリカのインディシーンが活性化するキッカケになったのは2005年に始まったXbox Live Arcadeでした。そこでインディゲームがヒットして、一躍ヒーローが生まれたのです。そんな風に注目が集まったところで、App Storeがスタートして、さらに活性化した経緯があります。
──日本のインディゲームはまだ発展途上だと。
もちろん日本には同人ゲームの歴史があり、ユニークなゲームがたくさんあります。でも海外ユーザーからすると、日本だけで閉じている印象を受けるのです。今でも「日本は同人ゲームで完結している」という見方をする人がいます。同人ゲームが悪いわけではありませんが、海外からすれば気軽に入手できず、楽しめません。一方で「自分の好きなゲームを作って、世界中に発信したい」というのが欧米人が考える「インディーズ」です。だんだんと日本でも、そういった人々が増えてきているのではないでしょうか。
──日本でもApp Storeがスタートしたことで、さまざまな展示会が生まれてきました。
少しずつ状況が変化してきています。VRでのコンテンツ開発をはじめ、さまざまな技術やプラットフォームも出てきました。そういった新しい技術に対して、いち早くリスクをとってチャレンジできるのがインディの強みです。ただし、コンテンツを作る人だけじゃなくて、そこに対してさまざまな形でサポートする人たちが出てきて、一緒になって盛り上げていく必要があります。それがエコシステムです。アメリカでインディが急速に成長したのは、そうしたエコシステムが生まれて、一緒になって支えていったからです。
──そこは日本では、まだこれからかもしれませんね。
ステップバイステップです。日本のインディーズゲームはまだ、開発チームが自分たちで全部抱え込んでいます。ホントにゲームを作って生活したいなら、そこから次のステップに踏み出すべきです。アメリカでもそういう人たちが一杯いて、少しずつ広がっていきました。一方で日本のインディゲームのクオリティはすごく高いです。それはTIFを通して、多くの人がそう感じたのではないでしょうか？ ゲームが素晴らしいことが一番重要です。そうしたゲームがたくさんあれば、そこにいろんな人々が集まってきます。その手伝いが今回できたとしたら、よかったと思います。
日本人だったら、もっと楽だった
──IPCはスタートアップをサポートすることをミッションとしていますが、すでに日本のインディで提携を結んだ企業や出展者はありますか？
いま、まさに交渉を進めているところです。IPC全体としては30社との提携を目標に掲げていて、粛々と進めています。
──振り返ってみて、何が一番大変でしたか？
うーん・・・何もかもが大変でした。実際、前日までホントに成功するか不安でしたしね。なにしろ自分はマルタ島生まれのイタリア人で、日本のゲーム業界で何の実績もありませんでしたから。スポンサー、講演者、出展者と少しずつ日本語で説明に回って、やっとここまでたどり着きました。正直にいって、自分が日本人だったら、もっと楽だったのに・・・と思ったこともありましたよ。でも、おかげさまで何とかうまく行きましたので、今後はもっともっと広げていって、定着させていきたいですね。他のイベントや団体ともコラボを進めていって、毎週のようにインディ向けのイベントが開催されるくらい盛り上げていきたいです。
──これまではアウトサイダーだったのが、これで晴れてコミュニティの一員になった、ということでしょうか。
そう思ってもらえれば嬉しいです。来年もっと良いイベントにできるようにがんばりますので、楽しみにしていてください。
（小野憲史）
