自己アピールに有効な「フレーム理論」3つの基本

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■まずは自己分析。アピールするポイントを定める

この連載では、たびたびにわたり「パフォーマンス心理学」の技法は「相手に自分のことを上手に伝える」うえで非常に有効である、ということをお伝えしてきました。

今回はその総仕上げとして、パフォーマンス心理学の原理原則であり、出会った人を必ず自分の味方にしてしまう、強い自己アピールの仕方をご紹介します。

それは「フレーム理論」です。

「フレーム」とは額縁、枠組みです。モナリザの絵を思い出してください。ルーブル美術館で観るとわかりますが、モナリザは意外に小さいのです。もしあの絵が額縁なしで、そのまま廊下にピンナップされていたら、人々の注目を集めるには時間がかかってしまうことでしょう。

人は皆、フレームに収められたところだけに注目し、フレームの外は忘れてしまいがちです。人間には、そんな受け止め方の傾向があるのです。

それを利用したのが、パフォーマンス心理学の「フレーム理論」。あなたが持っている長所や実力の中で、特に強調して見せたいと思う部分をフレームに入れてクローズアップし、あとの部分はちょっとフェードアウトしておくことです。

相手はまず、あなたがクローズアップしたフレームの中だけを、強いインパクトで受け止めます。そこで注意したいのが、フレームに入れるということは、自分にとって長所でもない部分をアピールしたり、不相応な実力があるように見せたりすることではない、ということです。

例えばあなたが、判断力は人並みで、協調型の人間だったとしましょう。ただ、新たに会うクライアントには、自分の中のありったけの決断力を最大限にアピールしたい。そんなときには、髪形をビシリと決め、キリッと口元も引き締め、アイコンタクトを最大に。声のトーンは、文末を「……」と尻切れトンボで終わらせずに完結させ、イントネーションも下降調で区切ります。

ここであなたがフレームに入れたのは、「決断力があり、キリッと引き締まった自分」です。

ただし、実際のあなたの売りは協調性だけで、実は決断力がスルリと欠如している場合、あなたにないものをフレームに入れてしまうと、どこかで自己表現の統一性を欠きます。ふとした弾みに、「本当の自分」が露呈するからです。

そうなると、「本当は何も決められない人」だとバレます。なんとかごましてきた姿とのギャップが大きければ大きいほど、相手の失望も大きく、うまくいかなくなってしまいます。

「信用を失う」とは、パフォーマンス心理学で言えば、自己表現の統一性がないこと。ありもしない能力をあるかのように見せることは、「フレーム理論」とはかけ離れているのです。

では「フレーム」を決めるときに、何が決定的な依りどころとなるのでしょうか? まずは、自分の性格、長所、売りをとことん確認することです。そして、「これが売りだ!」というイメージを常に強調して見せることができるように準備しておきます。

先ほど例に挙げた協調性が第1の長所であっても、今は判断力をアピールするならば、スーツやシャツの選び方から髪形、メガネの形まで、シャープさが重要です。「見せたい自分」に徹底的に焦点を当てて表現していくことができる人が、リーダーになれるのです。実際、これまで私が直接会った多くのビジネストップは例外なく、皆一様にこれができています。

自分の売りとなる部分をよく分析して理解していれば、その売りをどのようにフレームに入れるかがわかります。自分の性格、実力、魅力を統合した売りを決めておきましょう。

■相手のニーズに合わせてフレームを決定

続いて、どこをフレームに入れるかを決めるにあたっての作戦です。

あなたがフレーム用に選んだイメージが「相手のニーズに合っているかどうか」、これを忘れてはいけません。

例えば、景気変動や社会動向に合わせ、常に変化を求められる職場において、「のんびりおっとり型のゆるキャラ」といったイメージをフレームに入れ、雑談のときだけ周囲の注目を集めているようでは、間違いなく仕事も人間関係も失敗します。肝心なときに「今忙しいから、あっちに行ってて」といった扱いになってしまうでしょう。

では、職場では自分のどこをフレームに入れるか。持てる能力の中から、ニーズに最も合っているイメージを統一して発信していくことが大切です。

セールスマンとして、初めてのクライアントに提案しにいく場合もそうです。例えば、ご年配の資産家で話をよく聞いてから車を買いたいと思っている相手であれば、フレームに入れるのは、「テキパキ」ではだめです。落ち着いた物腰で、「親切」などといったイメージを入れることになります。

第1に、自分の長所と合っていること。第2に、相手のニーズに合わせること。これがフレームの決め手です。

■第3のポイントは「相手を欺く」コンシート技法

こんな自分を、常に発信し続けていくと、相手からの信用と好意が集まり、職場の人間関係がまず安定します。その信頼関係の上に立って、さらにもう一段階上の技法を使ってみましょう。

人間は元々不完全なものであり、「unfinished(未完)」であるのが、その本質です。そのため、いつもテキパキ仕事ができて、手際もよく賢いイメージをフレームに入れていると、相手にまったく隙を与えず、緊張させてしまうことがあります。特に、同期入社の同性の同僚同士や、お互いに大学トップクラスのエリート同士などの場合、起こりやすい現象ですね。

ここで、次なる「フレーム理論」の出番です。

何かの拍子に随分とおっちょこちょいで失敗をして頭をかいていたり、難問を目前に悩んでいる。そんなあなたをくっきりと見せることが、人間的魅力の演出につながります。

いつもの「できすぎる」イメージを意図的に外して見せる「コンシート技法」(=欺き)は、日頃は優れたイメージをフレームに入れている人が、自分以上にテキパキと有能な上司や「俺が1番」といった自己顕示欲求が強い自信家の上司、またこのタイプのクライアントに会うときにおすすめです。

ちょっと心細げな若い女性社員が、年上のうるさ型の男性上司に妙に気に入られるのも、この原理です。少し前に時の人となった理化学研究所の小保方晴子氏などは、わかりやすい例でしょう。

自分の長所と相手のニーズによって「フレーム」を決め、時に意表をついて相手を惹きつける「フレーム変え」をすること。この2つが職場で成功する自己アピールの決め手となります。

「人」を表す「person」という言葉と、「仮面」を表す「persona」は、語源を同じくします。人間はいくつもの仮面を持つわけです。これぞまさにパフォーマンス心理学の基本。強調するペルソナをフレームに入れるのです。

さて、ここでまとめてみましょう。

(1)自分の良いところをフレームに入れて強調する
(2)相手に応じてフレームを選択する
(3)フレームを変えることを恐れずに、時にはいつもと違うフレームで自分を見せて、相手をハッとさせる

この3つの「フレーム理論」の基本をしっかりと覚えれば、しっかりと自己アピールができます。

これらができたとして、あなたが発信したイメージに、相手が瞬時に惹きつけられたと仮定しましょう。その次の瞬間からまた、相手との会話は続きます。時に30分、数時間も話してから、相手はあなたを信用するかどうかを決めることもあります。1度の面談では足りず、再び会う機会を設けるといった状況も充分ありえます。

■本物の深い知識、理念あってこそのフレーム理論

ここで、私の実際の経験を例に挙げてお話ししましょう。私の「パフォーマンス学」(パフォーマンス心理学)は、1979年までは日本には影も形もなかった学問です。80年にニューヨーク大学大学院のパフォーマンス研究科で修士号を取って帰国した私が、日本で初めて開始したものです。当然ですが、当初はまったく周囲からの信用を得られませんでした。

私はパフォーマンス学の話をする相手に、大概2回勝負を挑みます。

第1段階は、初対面の1秒から2秒。私がフレームに入れた「日本人のためにパフォーマンス学を広めている熱心で誠実な創始者」というイメージを、まず彼らは見ることになります。

そのうえで、私から「共にこの研究をしましょう」だとか、「パフォーマンス教育のための学会を創設するので、寄付をお願いします」という第2段階の話に入ります。そこで大金あるいは人手を出すか否かを決定するために、彼らは私のフレームの“奥”を見ようとします。

これは当然の欲求です。

心理学で言えば、まず相手が何者かを知りたいと思う、「不確実性解消の欲求」が働くのです。次に「この相手と組んで大丈夫か?」「この相手と共に快適にうまくやれるか?」「この相手を好きか嫌いか?」という「不安解消の欲求」が働きます。いろいろな質問やその後もさまざまなやり取りが展開していきます。この時間は、相手の多忙さにもよりますが、1時間以上が一般的です。

彼らは私のフレームの深さをはかろうとする、ここが一番の問題なのです。私という人間に、どのくらいの専門知識や社会的情報、思想や理念、志、経済や社会に関する認識があるか。これらに次々と応えていくことで、相手がこちらのフレームを「本物だ」と認識してくれるわけです。

私にとって92年に「国際パフォーマンス学会」を立ち上げたときが、まさにその正念場でした。結果、60名ほどのトップ経営者に、私のフレームを信用していただいて、当時の金額で2億円近くを出資していただくことができました。

現在もさまざまな組織にパフォーマンス学を新たに導入し続けていますが、やはり初対面で必要なのは、こちらが自分のアイデンティティーをはっきり持っていること。それを相手に合わせてフレームに入れること。そして、その場の自分の「顔」、すなわち、強調して見せる部分と関連する多くの情報を仕入れ、猛烈に話せるくらい事前に勉強し、自分の引き出しをできる限りたくさんつくることです。

こうした「自分の見せかた」の基本を覚えておけば、仕事の実力をつけていくと同時にどんな仕事も必ず取ることができる、ということを、私はパフォーマンス心理学のデータと実体験に基づいて、確信をもって読者の皆様にお伝えします。

(日本大学教授 佐藤綾子=文)