【著作権】どこからNG?「歌ってみた&踊ってみた動画」の違法ラインを弁護士が解説

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動画配信サイトにおける「歌ってみた」「踊ってみた」動画は、いまやWeb上の人気コンテンツとなっている。ただ、たびたび議論されるのが『著作権』の問題だ。

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配信者や配信に興味ある人も気になるところだと思うが、法律的に何がセーフで、何がアウトになるのか、神田のカメさん法律事務所の弁護士・太田真也先生に伺った。なお、法律的な結論は状況により異なる可能性があるため、あくまでも一つの参考として捉えていただきたい。

今回は「歌ってみた」及び「踊ってみた」関連動画で「どこまでやったら権利者からの警告や削除要請、損害賠償、刑事罰などの問題が発生するか」という点についての考察をまとめた。そのため、当記事中では、著作権法上の問題が発生しない「権利者の許諾がある場合」について、また包括的な許諾がある場合などについては触れていない。

■1.著作権とは何か?

著作物にあてはまるモノ
基本的には『創作性を持って表現されたもの』が当てはまります。もともと目に見える形のないアイデアを何らかの形で具現化したものですね。著作権法の第十条には具体例が示されていますが、例えば、小説や脚本などの『言語の著作物』や、音楽、舞踊や無言劇などの振り付け、プログラムなども含まれます。

著作物に著作権が与えられるタイミング
世の中に形として生み出された瞬間から成立します。特許などと異なり、登録などの手続きは必要ありません。ただ、果たして著作物かどうかという部分で争われる場合もあります。

著作権に含まれる細かな分類
大きな意味での著作権の中に、著作者人格権と財産権としての著作権が含まれます。著作者人格権とは、モノを生み出した人の権利を保護するためのきまりです。例えば、氏名表示権というものでいえば、著作者は「誰が作ったのか」を明示させることができます。また、同一性保持権というのもあり、勝手に内容を改変されたりするのを防ぐことができます。

一方、財産権としての著作権とは、生み出されたモノ自体の財産的な価値を保護するものですね。具体例としては、複製権があります。著作物を勝手にコピーして販売されたりするのを防ぐための権利ですね。また、テレビやインターネットなどで勝手に配信されるのを防ぐための、公衆送信権などがこれに当てはまります。

もう一つのきまり「著作隣接権」
音楽を考えてみると、例えば、作詞や作曲を手がけた人自身に関わるのが著作権。生み出されたモノを歌う人や、販売するレコード会社などに関わるのが、この著作隣接権になります。これを「実演家の権利」と呼んでいます。

■2.「歌ってみた」「踊ってみた」動画に関わる著作権の考え方

「インターネット上に動画を送信する行為」は、許諾がなければ「公衆送信権」「送信可能化権」といった権利を侵害する行為となる。それをふまえ、「歌ってみた」「踊ってみた」動画は、法的にどう扱われるのだろうか。

「歌ってみた」「踊ってみた」動画についての法律的見解
個人使用の範囲という捉えられる可能性はあります。じつは、著作権には、例外的に規定されている「私的使用のための制限」が設けられています。

第五款の第三十条には、「個人的に又は家庭内その他これらに準ずる限られた範囲内において使用する」場合には、複製が認められているんですね。ただその先で、問題としては『投稿』という行為が当てはまるかどうかですが、直接、著作権を侵害しているとは言いがたいかもしれません。

ここで関わるのは著作物の財産的価値ですが、例えば、歌っていたり踊っていたりする動画を何らかのメディアに焼くなどして販売する。つまり、利益を得てしまえば法律にふれる可能性はあります。だから、配信サイトでただその動画を配信するというだけならば、それぞれの個人が自宅などでやっているかぎりでは問題にならないと思われます。

動画により広告収入を得る場合は?
広告収入だけで『利益を得ている』と解釈される可能性は、低いかもしれません。極端な例ですが、はなっから『広告収入を得るためにやっています!』と公言していれば法律にふれるかもしれませんが、自分の歌っている姿や踊っている姿を見てもらった中で、自然に広告収入を得ている場合は『利益』と判断するには微妙だと思います。

ただ、例えば、「踊ってみた」動画を通して、踊っている本人ではなく、振り付け自体が内容の中心になっている場合には、振り付けのビデオを売っているのと同じだと解釈される可能性はありうると思います。あくまでも、動画に映っている本人が目立っていると解釈されるときは、法律にふれる可能性は低いでしょう。

■法律的な見方にもとづきいくつかの事例を考えてみる

個別的ないし包括的に許諾を得ている場合は著作権法の違反とはならないが、許諾を得なければ、「公衆送信権」「送信可能化権」を侵害してしまう動画配信。では動画の内容によって、法的ラインはどう変わるのだろうか。著作権を侵害しないようにするためにどうすべきか、聞いてみた。

<ケース1> カラオケの音源を元に「歌ってみた」動画を配信
音源を流しているという部分から、著作権にふれる可能性は多少みられますが、単純にカラオケで歌っている姿を配信しているだけというのであれば、適法だと解釈できると思います。

一般的にカラオケ店は、店舗の利用料金へ著作権に関わる使用料が加算されているので、あくまでも『個人が歌っている』のみならば問題はないと考えられます。ただし、オリジナル楽曲そのものを流してしまえば財産権としての著作権に関わりますし、歌を途中で編集して配信した場合には、著作者人格権に関わるかもしれません。

<ケース2> 楽器を使用した弾き語り
まず、作曲そのものについて振り返っていきますが、ドレミファソ……などの『音符を羅列』した作業により生み出されたのが楽曲と定義づけられますね。例えば、本来はピアノで構成されたものをギターで弾いたとしても、生み出されたモノ自体は変わらないので法律にふれる可能性はありうると思います。

また、楽曲を改変してアレンジした場合には編曲とみなされ、『翻案権』の侵害に当てはまる場合もあります。ちなみに、打ち込みでの楽曲作りや音源のサンプリングについては、原曲を想起できるかどうかで判断が分かれます。

<ケース3> アカペラで歌う
少なくとも、作詞の部分にはふれると思います。音源が流れていないぶん、作曲の部分に引っかかっているというのは判断しづらいですね。また、少し変わった事例とはなりますが、アカペラで歌詞を引用してメロディをアレンジした場合も同様です。

<ケース4>音源を流しながらまったく異なる歌詞で歌う
音源を流しているので、作曲の部分が著作権にふれる可能性はあります。ただ、内容にもよると思いますが、歌詞が一字一句ちがう場合は作曲の部分のみかかる可能性はありますし、先ほどの弾き語りの事例とも重なりますが、原曲をどれほど想起できるかで解釈は分かれます。

■3.インターネット配信にまつわる現状

利益を目的としない場合には、第三十八条に規定される『営利を目的としない上演等』にかかる可能性が強いため、配信自体は現状、違法とされたケースはほぼありません。よほど悪質に歌詞を変えたり、あからさまに莫大な広告収入を狙っているなどがみられる場合には、法律にふれる可能性はあります。

また、著作権法には刑事罰が規定されていますが、基本的には親告罪といって、例えば、作詞した人、作曲した人から『勝手に使うな』というように訴えられてから、違法だと認められれば処罰されるかたちになっています。

今のところ(2014年5月時点)では、違法だとされる事例はあまりみられません。 ちなみにインターネットでいえば、今は『違法ダウンロード』についての関心が強く、事件としてしかるべき処罰をされる可能性がきわめて高いです。

■4.「歌ってみた」「踊ってみた」動画の配信者が注意すべきポイント

現状、インターネット上ではきわめて数多くの動画が掲載されており、許諾を得ずに「公衆送信権」「送信可能化権」を侵害しているものも数多く存在する。

ただ、著作者や著作権者が警告や削除要請、損害賠償等を行う場合の多くは、動画の内容自体の著作権侵害に対するものであり、また、「公衆送信権」「送信可能化権」の侵害があっても、動画の内容自体に「著作権の侵害がない」、あるいは侵害があっても軽微なものについては「著作物を愛好するファンによるもの」という面から、事実上、放任されている側面もある。

本来は許諾を得るのが最善の方法であることは当然だ。そのうえで、事実上「どの程度までであれば、著作者や著作権者から、警告や削除要請、損害賠償等がくることはないか」「動画を制作する上で、動画の内容はどのような点に気を付ければよいか」という点について、聞いてみた。

現在の環境を考えるかぎりでは、配信自体で違法性が認められるケースは少ないと思います。やはりいちばん気をつけるべきなのは『営利事業にしない』という部分ですね。

例えば、認知度が高まるにつれて、動画の内容にもとづいた有料イベントを開催するなどは、法律にふれますね。また、有名になってくれば映像作品として販売できるかもしれませんが、それも著作権法に照らし合わせると違法になります。著作物を利益に変える行為をしないというのが、大きなポイントだと思います。

さて、著作権法について整理すると共に、「歌ってみた」「踊ってみた」動画に関わる法律的な考え方をいくつか紹介してきた。現状でいえば、配信そのものが違法と判断されるケースはよほど悪質でないかぎりはみられないようだ。しかし、あたまから利益を目的とした場合には、法律にふれる可能性がある。

日本国内だけではなく、日本の誇るアーティストやアイドル、アニメなどの文化が海外へ広まるきっかけにもなる「歌ってみた」「踊ってみた」動画だが、しかるべき部分はきちんと守りつつ、一人ひとりの配信者が自分のパフォーマンスをWeb上で発信してもらいたい。

取材協力 神田のカメさん法律事務所
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※記事配信後、各方面より記事に関して様々なご意見をいただきました。特にご意見の多かった「権利者の許諾」「公衆送信権」「送信可能化権」等を中心に、太田真也弁護士への追加取材を行い、改めて補足としての見解を追記いたしました。今回は「歌ってみた」及び「踊ってみた」関連動画で「どこまでのことをやったら権利者からの警告や削除要請、損害賠償、刑事罰などの問題が発生するか」という点についての考察をまとめたものです。そのため、当記事中では、著作権法上の問題が発生しない「権利者の許諾がある場合」「包括的な許諾がある場合」については記載しておりません。配信時はその点の説明が不十分だったため、この度補足・修正を行いました。