生涯独身という生き方もアリになりつつある時代、しかし老後を考えると不安になるという人は多い。「孤独死が怖い」というのは、独身者からよく聞かれる台詞のひとつでもある。そんな“老後”について考えさせられる、ある書籍が最近話題になっている。『86歳ブロガーの毎日がハッピー毎日が宝物』(繁野美和著・幻冬舎)は、86歳のリアルな暮らしぶりや毎日の苦労、感傷、悩み、楽しみや喜びまで、思慮深い言葉で綴られている人気女性ブロガーのエッセイだ。今回はウートピ読者世代向けのメッセージを抜粋してご紹介する。

    「若い時思い描く以上に高齢期は厳しい」

繁野さんは10年ほど前に夫に先立たれているが、子供もおり、親戚や知人との交流も多い。しかしそんな彼女でも、昔からの親友や知人に次々と先立たれ、自身の体力の衰えを感じる日が続くと、動揺し、理屈ではない“寂寞たる思い”が募ると綴る。「無縁死は、個人の自由を追い求めた結果のひとつではないか」と彼女なりの分析もしつつ、でもだからこそ、普段ちょっぴりでも顔を合わせる近所や病院の人、時々電話ができる知人の存在の大切さを日々実感するそうだ。

孤独な老後を避けたいならば、しがらみも含め、人間関係には前向きでいること。周囲との交流への“積極性”を生涯忘れないこと。配偶者がいるかどうかということよりも、もしかして大切な資質かもしれない。

    「若いときに真面目に真剣に勉強をすればよかった」「好きなことでいいからプロになれるくらいまで取り組むことの大切さを今思う」

繁野さんは寿退社組。それが当たり前の時代だった。しかし同窓会で集った折、音楽の道に進んだ友人の話を聞いて、自分は逃げてばかりいた人生だったと反省したそうだ。彼女も医者などを志した瞬間があったが、結局は親の決めた進路を進んで遊んでいたと綴る。

現在の趣味である絵画についても、「もっと早く取り組んでいれば、満足いく絵が描けたかも」と何度も書いている。あくまで「継続は力なり」「少しでも高みを目指すのが楽しい」と前向きな繁野さんだが、若い頃についてははっきり後悔だとも書いている。
皆さんには今、一生懸命に取り組んでいることがあるだろうか。身体は必ず衰えるし、時間は思いのほか有限だということは、日々忘れずにいて損はなさそうだ。

    「とりあえず自分でやってみる」

繁野さんは基本、何でも自分でやる。60歳からパソコンを始め、現在86歳にしてインストール、接続、修理手続きまで自分で行う。うまくいかず「しんどい」と愚痴ることもあるし、逆に周囲に迷惑をかけているとも省みつつ、しかし「自分で何でもしたがる性質はささやかなアイデンティティー」とも述べる。テレビで91歳のピアニストの自立した暮らしぶりと演奏を見れば、「歳に甘えていた自分が恥ずかしい」と反省し、帯を締め直す。

しんどさの向こうに、人生の充実感はある。たとえ一人でできないことが増えても、「とりあえず自分でやってみる」という姿勢は、老後も自尊心を持ち続ける秘訣なのだろう。

老後に極楽や“ボーナスステージ”を求める人もいれば、無為で孤独な日々を想像し、落胆する人もいる。でもおそらく、老後は「今の自分」の続きでしかないのではないだろうか。好奇心を持ち、人間関係を大切にし、自分の世話はできる限り自分でする。そのように自立した生き方と心持ちを今から育てておくことが、辛い変化も多い「老後」を強く支えてくれるものになるのかもしれない。

(文=外山ゆひら)