メジャー3000本安打を記録した選手

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このまま開幕すれば出場機会は限定的に

 運命の分かれ道となるのだろうか。ヤンキースイチロー外野手(40)にトレードの噂が絶えない。日米両国の報道を見ると、すでに複数のチームが移籍先の候補に浮上しているが、成立には至っていない。イチロー自身の希望も明らかになっておらず、去就は不透明なままだ。

 このままヤンキースに残れば、メジャー通算3000本、日米通算でのピート・ローズ超えなど、安打記録の偉業達成に黄信号がともる。一方で、イチローほどの実力者が志半ばで名門球団を去ることには、寂しさもある。それぞれの選択肢には、どんなメリット、デメリットがあるのだろうか。

 まずは、現在のイチローが置かれている立場をまとめてみたい。ヤンキースは今オフ、積極的な補強を続けてきた。特に、外野手の獲得には大金をかけ、ジャコビー・エルズベリー(レッドソックスFA)と7年1億5300万ドル(約160億6600万円)、カルロス・ベルトラン(カージナルスFA)と3年4500万ドル(約47億2600万円)で契約。地元紙などでは、この2人とブレット・ガードナーで外野のスタメンを形成し、アルフォンソ・ソリアーノがDHに回るとの予想が多い。しかし、ベテランのデレク・ジーター、マーク・テシェーラらは負傷がちで、DHはローテーションで使われる可能性も十分ある。つまり、ソリアーノも定期的に守備に就くため、イチローは外野手で5番手という位置付けになる。

 このまま開幕すれば、出場機会はかなり限定的となる。スタメンに名を連ねる回数は極端に減り、試合終盤での守備固めという役割が主になるはずだ。となると、2つの偉業、残り258本に迫っているメジャー通算3000本安打と、同じく236本を残す日米通算安打でのピート・ローズ(4256本)超えが遠のいてしまう。

 2010年に214安打を記録してから、イチローの年間安打数は下降線をたどっている。2011年は184本、2012年は178本、そして昨年は自己最悪の136本に終わった。特に昨年は不可解な起用法もあり、出場機会の減少に苦しんだが、今季はより出番が減る可能性が高いとあって、安打数がさらに伸び悩むことが考えられる。

 仮に昨年と同じペースを維持できたとしても、2つの記録までは2年近くを要することになる。全盛期には1年で到達することも可能と思えた数字が、非常に困難なものになっている。と同時に、これまでイチローがいかにとんでもないペースで安打を積み重ね、偉大な記録に迫ってきたかが改めて分かる。

過去28人しか到達していないメジャー3000本安打

 過去28人しか到達していないメジャー通算3000本安打は何としても達成しておきたい記録だ。数々の偉業を成し遂げてきたイチローの日本人初の米野球殿堂入りは、大台に届かなくても濃厚と見られている。ただ、資格初年度での殿堂入りを狙うとなると、3000本は必要な数字。日米通算とはいえ、ピート・ローズ超えも前人未到の偉業であることは間違いない。

 昨年8月に日米通算4000本安打を達成したときに、本人は「明日出られるかどうかは今日決まる、みたいな日がずっと続いているので、そんなところ(ローズの記録)に現段階でフォーカスすることはできないです」と話していた。ヤンキースにいればより遠い数字となってしまうことは、本人が十分に分かっているのかもしれない。

 では、移籍が成立したらどうなのか。ヤンキースの首脳陣は、イチローのトレードに動いていると報道されている。ここまで名前が挙がっているのは、ジャイアンツ、パイレーツ、レッズといったナ・リーグ球団。最近ではダイヤモンドバックスも候補として急浮上している。

 どのチームの戦力事情を見ても、ベテランやメジャー経験の少ない若手と併用となる可能性が高く、初めはレギュラーポジションを保証されないだろう。それでも、春季キャンプからイチローが本来の力を発揮すれば、定位置奪取が近付く可能性は十分にある。もちろん、ヤンキースでもエルズベリーやガードナーは負傷が多く、ベルトラン、ソリアーノのベテラン組も1年を通して稼働できるか分からない。いざというときにイチローほどの選手がいれば、これほど心強いことはない。だが、昨年のやや偏った起用法を見る限り、そういったアクシデントがなければジラルディ監督がイチローをレギュラーに据える可能性は低いと言わざるを得ない。

 一方で、ヤンキースというメジャー随一の名門球団の魅力も捨てきれない。ピンストライプのユニホームでプレーすることに、イチロー自身、強烈なプライドを感じている。「(ヤンキースの)ふさわしさというのは、数字だけではない。もちろん結果は大事なことだけど、出ている雰囲気や空気が全く合わない人がいる。このピンストライプが似合わない人がいるじゃないですか。僕は似合うかどうかは別として。そういう人は結果を出しても無理だと思う。そういうことが僕にとっては大事」。4000本安打を達成した夜の言葉だ。

 イチローにとって最良の答えは何なのか。それを考えるのはナンセンスなのかもしれない。シーズン後に語られることはあくまで結果論であり、あらかじめ決まっていた運命を変えるほどの力を、イチローというプレーヤーは持っているからだ。ただ、どのチームであっても、イチローがヒットを打つ姿を出来るだけ多く見たいというのが、ファンの本音でもある。残留か、移籍か。いずれにせよ、結論が出る日までそう遠くはない。