テキサス・レンジャーズ=TEXのダルビッシュ・有がWBCへの参加を見送ったことが、球団側から発表された。「とても難しい決断だった。今の自分にとって、来季へ向けて十分な休養を取ることが最も重要」という理由だった。

球団は彼の意見を支持した。球団のせいにせず、自分の意志としてはっきり表明したのは立派だ。前回、2009年の第2回大会以来、最も成長した日本選手は、ダルビッシュ有だ。前回では、先発だけでなく、救援投手としても起用され、それなりのパフォーマンスを見せはしたが、若さ、未熟さを感じさせる場面も散見された。

しかし、今のダルビッシュは堂々たるマウンドさばきで、相手を見下ろし、悠々とアウトカウントを取っていく。今年夏までは、MLBの打者に対して臆する部分も見られたが、9月以降にはNPB時代のように、相手をのんでかかるような登板も見て取れた。
「侍ジャパン」としては、当然エースとして考えていたはずで、皮算用は大きく狂うだろう。

しかし、ダルビッシュが参加しない事態は十分に予見できた。

日曜日のNHKスペシャルでダルビッシュは、MLBがNPBとは「別の競技だ」と思えるほど違っていたと話し、16勝をあげてからも「まだ何も(実績を)残していない」と語っている。
長いシーズンをかけて、ダルビッシュはMLBで通用する投球方法を独自に編み出した。彼にしてみれば、それに磨きをかけて、来季はもっとすごい成績を上げたいという一心になっているのだろう。WBCは、眼中にないのではないか。

過去2回のWBCの記録を見ていると、WBCで活躍した選手には、ある「共通点」がある。それは「満たされぬ思いをぶつけたい」という情念だ。

NPBでトップクラスの選手たちは、評価の上でも年俸でも「これ以上は望めない」状態にある。それで満足する選手もいるだろうが、年が若い選手は「さらに上を目指したい」「もっとエキサイトしたい」という思いを抱いている。その実現の場としてWBCを選んだのだ。
2006年、2009年の主力選手の多くは、WBCを経てMLBへと転身している。WBCは世界に通用するかどうかの「手ごたえ」を得る場所でもあったのだ。

MLBからWBCに参加した選手もいるが、彼らの多くもMLBで満たされなかった部分を埋めようとしていた。
イチローがまさにその典型だ、シアトル・マリナーズ=SEAの「お山の大将」となって、ポストシーズンに進出できないままマンネリ化していたイチローにとって、WBCは「満たされない何か」を満たしてくれる場となったのだろう。

MLB選手でも、「目の前に取り組むべき目標」が明確にある選手は、WBCには出ないだろう。来季にさらなる飛躍を期すダルビッシュや、ニューヨーク・ヤンキース=NYYに移籍して優勝争いの味を知ったイチロー、好成績によって来季の契約がまとまりそうな、黒田博樹、岩隈久志、青木宣親などは、本音を言えば「MLBに専念させてほしい」というところではないか。

また2回のWBCでわかったことは、この大会に出場することによるダメージ、疲労感は予想外に大きいということ。前回大会でもイチローや松坂大輔をはじめ、多くの選手がレギュラーシーズンに対して影響が出てしまっている。そのこともあって、有力なMLB選手は、出場に二の足を踏むのだろう。



MLB選手で積極的に出場しそうなのは、立場が不安定で、アピールをする必要がある選手。松坂大輔、上原浩治、高橋尚成、福留孝介らの顔ぶれになるのではないか。田澤純一はそのどちらに属するのか微妙だが、彼も出場の可能性はあると思う。また、松井秀喜も引退しないのであれば、チャレンジすることは考えられよう。

山本浩二ジャパンは、こうしたMLBの「満たされない組」に加えて、これから世界を志向しようと考えている田中将大、前田健太、内海哲也、年は食っているが攝津正、杉内俊哉などの投手を軸に考えていくべきだろう。

今回のメンバーを眺めても、打者は実に貧相で、2番バッターと7番バッターしかいないような状態だが、ここはNPB流のつなぐ野球で勝負するしかないのではないか。

短期決戦に強い、日本野球の持ち味でを発揮するしかないだろう。