米アップル社の新型スマートフォン『iPhone5』の発売をカンフル剤に、業界の覇者をもくろんでいたソフトバンクが、一転して逆風にさらされている。物見高い市場筋からは「これで孫正義社長はメッキが剥がれ落ちたに等しい。今後どう立て直すか見もの」と突き放すような感想さえ漏れてくる。

 まずケチがついたのは警視庁からの横ヤリだった。鳴り物入りで始まったiPhone5商戦は、ライバルのKDDIも参戦しており、両社が激しい販売合戦を展開するのは事前に予想できた。そこでソフトバンクはKDDIへの顧客流出を阻止すべく、昨年販売したiPhone4Sなどを最大2万円で下取りするプランを開始した。下取りした端末は中古品として海外に転売する仕組みで、業界初の試みである。
 ところが、この顧客囲い込みを狙った奇策に警視庁が「古物営業法違反(無許可営業)の疑いがある」として中止を指導。慌てたソフトバンク側は古物免許を持つグループ会社が下取りする方式に改めている。これが新聞、テレビなどに大きく報道されたことで「抜け目がない商魂」を天下に見せ付けた格好だ。

 実はiPhone5を発売する直前、孫社長は記者会見で「(2012年4〜6月期の)営業利益はKDDIの2倍。今の流れでいけば、数年先にはNTTドコモを抜く。だから当社が通信業界3位という印象はそろそろ変更して欲しい」とぶち上げた。これを伝え聞いたライバル社首脳は、露骨に不快感をあらわにしたと、関係者は打ち明ける。
 「それはそうですよ。後に警察が目をむく荒業に打って出ただけではありません。iPhone5は現在主流の3G(第3世代ネットワーク)回線よりも通信速度が速い高速無線通信のLTEに対応しているのですが、ソフトバンクがiPhone5で利用できる周波数帯は2.1ギガヘルツ帯だけ。ところがこの帯域は3Gの利用者で混雑している。新たな帯域を捻出するのは容易ではなく、とりわけ電波の切迫度が高い東京では難航しているのが実情。これではソフトバンクの代名詞だった“つながりにくさ”が簡単に解消されるわけがなく、下手すると顧客から見放される。だからこそ『どこまで強気ラッパを吹けば気が済むのか』と冷ややかなのです」

 ソフトバンクは今年の7月、900メガヘルツ帯のプラチナバンドを利用できるようになったが、この帯域の整備が完了するのは3年後。その間は綱渡りのやりくりを強いられるだけでなく、せっかく手に入れたプラチナバンドにしてもiPhone5のLTEサービスには使えない。要するに孫社長が上げる怪気炎とは裏腹に、ソフトバンク商法が怪しく見えるのは業界では常識なのだ。