ロンドン五輪男子マラソンのカンボジア代表に選ばれたお笑い芸人の猫ひろし(34歳)。3月26日の記者会見では、「代表に選んでいただき感謝しています。内定したと聞いたとき、最初は信じられなくてドッキリかと思った(笑)」と喜びを爆発。さらに、「五輪でいろいろな選手と走るのが楽しみです」と抱負を語った。

 ここで気になるのが、五輪本番で猫がどんな走りを見せるのかということ。スポーツジャーナリストの折山淑美氏の見方は厳しめ。

「市民ランナーとしてはかなりの実力者ですが、アスリートとして見ると、五輪参加標準記録B(2時間18分0秒)にも達していない。しかも、彼が自己ベスト(2時間30分26秒)を出した今年2月の別府大分毎日マラソンは冬のレース。五輪は夏で暑いし、かかるプレッシャーも全然違う。コース自体は平坦で走りやすいものの、調整に失敗すれば3時間を超えてしまう可能性だってある。いずれにしても、持ちタイムを考えれば最下位争いになるのでは」

 実際、前回の北京五輪では日本の佐藤敦之が調整に失敗し、2時間41分8秒で最下位(76位)に。

「日本を代表するアスリートでさえ、ふとしたことで急激にタイムを落としてしまう。ましてや猫さんは芸人だから……」(折山氏)

 もちろん、本人も実力不足を自覚しており、こう話していた。

「今のタイムだと五輪で通用しないことはわかっています。これから世界一練習して、最低でも自己ベストは更新したい」

 五輪本番まで約4ヵ月。果たして、どれだけ記録を伸ばせるのか。猫のトレーナーを務める城西大学経営学部の平塚潤准教授に聞いた。

「カンボジアでトレーニングをしているので、暑さ対策はできているでしょう。五輪までに基礎スピードを磨いていけば、あと5分はタイムが縮まると思いますよ。ぜひ頑張ってもらいたい」

 どうやら“ランナーとして”の伸びしろはまだありそうだが、実はそれよりも不安なのが五輪後の“芸人として”の活動。そもそも、カンボジア国籍のまま日本で芸能活動を行なうことは可能なのか。猫の国籍取得を支援してきた団体「カンボジア・ドリーム」の担当者が説明してくれた。

「奥さまが日本人なので、猫さんにはビザを取得できる在留資格があるんです。なので、日本で芸能活動するにあたっての支障はありません。五輪後に国籍を日本に戻せるかは、日本国の判断になるのでなんとも言えないですね。今後、大変になると思われるのは、カンボジア以外の国への渡航。複雑な手続きが必要になるんです」

 ということは、海外ロケの仕事には気軽に行けなくなる……。民放キー局の局員はこう語る。

「猫さんはお笑い芸人としては立ち位置が曖昧(あいまい)で、使いづらいというのが正直なところ。もちろん、ロンドン五輪までは注目の存在ですし、需要はいくらでもあるでしょうが、それ以降はけっこう厳しいと思いますよ。猫さんにしかお願いできない仕事なら面倒な渡航手続きも喜んでやらせてもらいますが、普通の海外ロケなら別の芸人さんで対応できますしね」

 一方で、芸能評論家の二田一比古(ふただ・かずひこ)氏は「大丈夫。むしろ仕事は増えるでしょう」と予測する。

「五輪で必死の走りを見せれば好感度は上がる。スポーツ系バラエティ番組やドキュメンタリー番組はもちろん、もしかしたらCM出演オファーが殺到するかもしれない。ただ、レース中につまらないギャグをしてスベったら、世間の反感を買いかねない。タイミングは間違えないでほしいですね」

 会見で「ゴール後に最高の一発ギャグをやります!」と豪語していた猫。五輪ではどんな走りとギャグを見せてくれるのか。

(取材・文/高篠友一)

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