今季冬の移籍市場が間もなく締め切られますが、この冬にも何人かの日本人選手が本場欧州への移籍を果たしました。注目のハーフナー選手はオランダのフィテッセに移籍し、早くも初ゴールを決めましたし、若手DFの酒井高徳選手もシュツットガルトに移籍を果たしました。また、李忠成選手もプレミアシップ昇格最有力候補のサウサンプトンに大きな期待を持って迎えられています。また、あいにく実現はしませんでしたが、日本代表の駒野選手と前田選手もこの冬は欧州移籍を目指してトライアルに参加しました。色々な要素があるかと存じますが、それらのニュースを耳にすると、日本人選手の価値が大きく跳ね上がっていることを実感する今日この頃でございます。

これで欧州の舞台で勝負を挑む日本人は25名となり、その中でもレベルの高いリーグで先発出場を果たしている選手達が日本代表の中核を担うという構図がしっかりと出来上がったかと存じます。具体的に申し上げると、インテルの長友選手、ドルトムントの香川選手、ヴォルフスブルグの長谷部選手、リールスの川嶋選手、VVVフェンロの吉田選手、シュツットガルトの岡崎選手、そして監督との折り合いでレギュラーではないもののCSKAモスクワの本田選手とシャルケの内田選手の8人が揃ってピッチに立った時の代表チームはがっしりと芯の入ったチームになる、少なくともそのような印象を受けるということでございます。

2010年の8月に「どんどん出て行け!」というタイトルで、フットボール選手と生まれたからにはやはり本場を目指せなければならないという趣旨の文章をこのブログに掲載させて頂きましたが、その想いはいささかも揺るがないどころか、益々強くなっている次第です。
本場欧州では、日本とは何もかもが大なり小なり違うのですが、やはり日本男児がまだ髷を結って刀を振りかざしていた頃から、協会を組織し、カップ戦を開催していたという歴史と伝統に裏打ちされた風土には、まだまだ学ぶものが転がっています。また、人々の生活の中にはフットボールが脈々と生きており、現場は言うまでもなくメディアやサポーターがフットボールを熟知していて、何を評価し、何を批判するかというしっかりとした基準を備えているので、そんな環境の中で選手達が鍛えられないはずがないのです。

現在の香川選手を見ていると、元来持っていた素質に加えて、本場のサポーターが望んでいるものを敏感に察してプレーに反映させていることが良くわかります。チームメートの信頼もしっかりと勝ち取っている様子がプレーを見ていると伝わってきますし、奥寺康彦、中田英寿、中村俊輔に続く欧州で成功した選手として、今後もどんどんと成長して行って頂きたいと希望致します。それが日本のフットボールを牽引する大きな力となりますし、フットボール選手として最も理想の姿だと確信するからです。

一方で槇野選手、阿部選手等のように本場で出場機会に恵まれず、活躍の場を求めて帰国することになったグループも存在しますが、本場に移籍を果たしても試合に出られなければその価値は激減してしまいますので、致し方のないところでしょう。選手の人生は運に大きく左右されるとはいえ、移籍先のクラブがその選手に何を求めているのか、誰がオッファーを主導しているのかを代理人はしっかりと見極めてことを運ばねばなりません。特に監督がその選手に対してどのような印象を持ち、何を期待しているかは重要なポイントになります。

また、かつてのように企業戦士と呼ばれたビジネスマンが地の果てまで行って仕事を開拓した時代と打って変わり、今の日本の若い世代は高度成長後の内需に力を入れ始めた1980年代後半以降に生まれています。そんな彼等は国内には物が溢れ、物質的には何不自由なく生きてきた世代、また一方でIT普及の恩恵でパソコンに向かってさえいれば多くの情報を手に出来る世代なので、海外にまで出掛けてまで何かをしようという気概に欠ける傾向があることにも気を付けるべきでしょう。ただ単にフットボールが上手いから、ただ単にフットボールの素質があるからという理由だけで送り出してしまうと、後々本人が苦労することになりかねなません。ハングリーであるのかどうか、コミュニケーション能力が高いのかどうか、セルフコントロール及びライフマネージメントに長けているのかどうか等を見分けないと、過去に決して少なくない海外移籍の失敗例を増やしてしまうことになります。