■混戦が続く今季のJFLを見る

西が丘サッカー場は素晴らしいスタジアムだ。目を閉じても、色鮮やかにフットボールを感じることが出来る。選手の息遣い、ピッチ上を跳ねるボールの音、そして――。

心臓の痛くなる大混戦の続くJFL。各クラブが足並みを揃えて一進一退を繰り広げるなか、それでも“JFLは今季で卒業、来季はJ2”を心に秘めている筆者は、JFLを楽しみつくすためのアウェイ旅に今月も赴いた。10月のアウェイ遠征に訪れたのは、東京である。

先月の香川県に比べると、観光を楽しむという意味での高揚感はない。何しろ松本から東京までは高速を使えば、車で3時間程度である。しかしJFLを楽しむという意味でこの場所ほど相応しい地はない。JFL後期第11節、横河武蔵野FC対松本山雅FC。会場は西が丘サッカー場。

■1939年創部の、横河武蔵野FC

横河武蔵野FCは、長らく横河電機サッカー部として活動してきた。創部は何と1939年で、現在のJFL加盟クラブの中では最も長い歴史を刻んできた老舗である。2003年から東京都武蔵野市を拠点に、現在の名称に変更された。今年で13年目を迎える“JFLの雄”。トップチームの活動はもちろん、下部組織での選手育成にも力を入れ、日本代表にまで上り詰めた李忠成や、東京ヴェルディで目下売り出し中の阿部拓馬などを輩出してきた。

JFLは「長くいる場所ではない」という意見を耳にする。金銭面でシビアな戦いを強いられるだけに、「JFLでの戦いは消耗するだけ。早く卒業した方がいい」というわけだ。

しかし、J2に昇格した多くのクラブが理想と現実の乖離に苦しむなかで横河武蔵野を見ると、果たして何が正解なのか分からなくなる。自問してみても、結局は堂々巡りのまま、回答は提示されずに終わるのが常である。

先日の天皇杯2回戦で横浜FCに快勝して、見事3度目の“ジャイアント・キリング”を成し遂げた松本山雅だが、リーグ戦ではそう上手くいかないのは予想出来た。J2のクラブという格上が相手だからこそ、リアクションサッカーがはまったのであって、JFLの、その中でも残留争いを繰り広げているクラブはまずは失点しないサッカーをしてくることは誰でも理解出来る。ゴール前を固めてくる相手の守備をこじ開け、勝ち点3をものにするのは容易いことではない。

とはいえ、この日の松本山雅の苦戦の要因は自分たちにあった。試合開始5分で相手ディフェンダーのパスミスを拾った船山がきっちり決めて先制。これで弛緩したわけではないだろうが、歯痒い展開となった。20分過ぎから横河武蔵野がリズムを作り出し、最後の精度の部分でゴールこそ割られなかったものの、松本山雅は運動量が明らかに少なく、完全に後手に回ることとなった。後半に飯田真輝のセットプレーでの追加点で2-0の勝利となったものの、不完全燃焼の感が最後まで拭えなかった。

■リーグ戦も残り10試合、昇格へ向けたラストスパート

試合後の記者会見での加藤善之監督の様子は、まるで敗者のそれであった。「やられてもおかしくない展開」と断言するのも理解出来る内容に終始。「苦しいゲーム。サンドバッグのように耐えて、耐えて……」(鐡戸裕史)、「ふわっとした状態で入ってしまった」(船山貴之)と選手たちの表情も冴えない。

ただ、エクスキューズはある。「(横浜FC戦のように)失うものがないゲームと、もう負けられない中で戦わなければいけないゲームとでは、プレッシャーが異なる」と加藤監督が評するように、挑戦者のメンタルで負けても失うものがない試合ではなく、もはや一つの負けでJ2昇格から大きく後退してしまう崖っぷちの状況で、冷静にやれというのは無理がある。リーグ戦もあと残り10試合を切り、長い戦いも遂にラストスパートとなる。