「地球に到来する宇宙線」が増大:太陽活動と関連

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Lisa Grossman


グレーの矢印が宇宙線。これを一部はね返している、大きな楕円形のもやが「太陽圏」(ヘリオスフィア)。より詳しくは、文末で紹介。Image: NASA

2009年に地球に降り注いだ宇宙線の量は、記録的に多かったという。米航空宇宙局(NASA)の『ACE』(Advanced Composition Explorer)やその他の探査機による計測結果から、ここ数年間に銀河から内太陽系に侵入した高エネルギー粒子の量は、「宇宙時代」が始まって以来、最高レベルに増えていることが明らかになった。[宇宙時代(Space Age)は通常、スプートニク衛星(1957年)から始まったとされる]

今回の宇宙線の増加には、直近の太陽活動低下にみられた、通常とは異なる要素が作用していることはほぼ間違いない。また、現在の増加した状態は今後、到来する宇宙線量の新たな標準となる可能性もある。

宇宙線とは、銀河を起源とする高エネルギー粒子のことで、あらゆる方向から光速に近いスピードで地球に衝突してくる。そのため、守ってくれる地球の磁場の外で長い時間を過ごす探査機や宇宙飛行士にとって、危険となりうるものだ。しかし、これら粒子のほとんど、特にエネルギーがそれほど高くない粒子は、太陽風によって弾かれる。太陽風は、太陽系の周囲に「太陽圏」と呼ばれる泡のようなシールドを形成して保護しているのだ。

この太陽系のシールド効果は、11年ごとに変動する。つまり、太陽は規則的な活動周期によって、黒点や太陽フレアが増える時期[太陽活動極大期]と、比較的穏やかな気象状態の時期[太陽活動極小期]とを繰り返している。[太陽系外からの銀河宇宙放射線の流入量は太陽活動と相関があり、太陽活動極大期に銀河宇宙線量は最小になり、太陽活動極小期には銀河宇宙線量は最大になる。これは太陽風が、太陽系外から流入する銀河宇宙線をブロックするためと考えられている」

直近の太陽活動低下は2006年に始まり、2008年に終了するとみられていたが、太陽活動は2010年になっても活発にはならなかった。カリフォルニア工科大学の宇宙科学者Richard Mewaldt氏らは、1997年から太陽の周囲の軌道を回っているACE探査機のデータと、短命に終わった複数の探査機が残した1965年までさかのぼる過去のデータをもとに、2009年の宇宙線量が、過去の[宇宙時代が始まってからの]すべての太陽活動低下期と比べて、20〜26%多かったことを明らかにした。この研究成果は、10月7日付で『Astrophysical Journal Letters』誌に発表された。

天文学者たちはすでに、この宇宙線増加が探査機に及ぼす影響を認識しており、宇宙線の衝突によって探査機に生じる特定種類のエラーが25%増えたと、Mewaldt氏は述べている。

宇宙線のレベルは、2010年はじめから、低減する傾向を示し始めたが、Mewaldt氏は、より長期的なパターンの一部である可能性もあると指摘している。地球両極で採取した氷床コアに含まれる放射性物質を測定した結果、過去500年間の宇宙線量は、1970年代初めの時点の測定値に比べて、40〜80%多かったことが明らかになっているからだ。その時期は、もっと長い期間で太陽活動が低下していたと考えられる。


画像はWikipedia

[太陽圏(太陽系圏、ヘリオスフィア)は、太陽風の届く範囲のこと。末端衝撃波面とは、太陽系の外縁部に達した超音速の太陽風が、星間物質や星間磁場によって亜音速にまで急減速される領域。低速度の太陽風と星間物質とが混ざり合うヘリオシースという領域を経て、太陽風が完全に星間物質に溶け込むヘリオポーズに至る。ボイジャー1号は2005年、末端衝撃波面に通過し、ヘリオシースに到達した最初の惑星探査機となった(日本語版記事)]

[日本語版:ガリレオ-高橋朋子]

WIRED NEWS 原文(English)

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