1日24時間。それは誰もが同じだが、使い方はさまざま。高所得者と低所得者でどんな違いがあるのだろうか。アンケート調査を実施し、時間術のプロに年収アップのコツを伺った。

▼起床・就寝編
仕事の質に直結する睡眠は“休日”が分かれ道

■いつかではなく、いまから始める

「高収入の人は遠い将来を見ながら直近の問題を解決するのに対し、収入の低い人は足元しか見ていない点が一番大きな違いです。3年後に絶対に管理職になるのだと思えば、今年、来年とやるべき目標が見え、それに向かって努力する。『いつかは管理職になりたい』というような漠然とした考えでは目標達成は難しいでしょう」と語るのは、マーケティング・コンサルティング会社を経営し、大学院でも教鞭をとる理央周氏だ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/pick-uppath)

『奇跡体験!アンビリバボー』などのテレビ番組を手がける放送作家で、企業のPRコンサルタントとしても活躍する野呂エイシロウ氏も同様に指摘する。

「時間術というのは投資と一緒で、最短で物事を達成するということ。一日でも早く部長になりたい、役員になりたいといった明確な目標が必要。だから年収の高い人は『いつかは』なんて言いません。『いまから』『今日から』とすぐに始めます」

時間短縮の意識は高所得者ほど徹底している。野呂氏は、「高所得者は『時は金なり』で、1分いくらということを常に考えている人が多い」と言う。

「以前、ライフネット生命保険の創業者の出口治明氏に厳しく言われたのが、『昨日1時間かかった仕事は、今日はなにがなんでも59分でやれ。1分短くして、それが6分短くなると、10%粗利が伸びたのと同じ効果がある』と。それからは仕事一つひとつの時間を測定し、分単位で考える習慣をつけています」。

では、高所得者と低所得者の時間の使い方の違いを具体的に見ていこう。まず、睡眠。高所得者のほうが平日と休日のリズムの差が小さく、常に早寝・早起きの習慣が身についているようだ。低所得者は休日は夜更かししがちで、寝だめする傾向がある。理央氏と野呂氏も決まった時間に睡眠を取ることが重要だという。

「私は23時ジャストに寝ると決めています。仕事で最も大事なのは判断力だと思いますので、脳の整理整頓をするために、きちんと寝ます。そのために数年前からお酒は飲まなくなりました。仕事の飲み会も1次会だけ参加。朝は5時半起床ですが、お酒をやめてから頭の爽快感が違いますね」(野呂氏)

「私は睡眠時間を必ず6時間以上取ると決めていて、朝も6時頃に起きます。会食も多くお酒も飲みますが、23時以降の飲酒は控えています」(理央氏)

良質な睡眠には、アルコールの摂取量も注意が必要のようだ。

▼通勤編
通勤時間がコストになるか自己投資になるかは自分次第

■スキマ時間は、スマホで情報収集

高所得者と低所得者では通勤時間の過ごし方にも顕著な違いが表れた。高所得者はスキマ時間を活用して新聞やニュースサイトで情報収集にいそしむ一方、低所得者の約3割が何もしていない。

野呂氏は、「私は毎日、読書をしています。基本的に通勤時間や移動中に、スマホで電子書籍を読んでいます。私にとって移動時間は読書タイムで、むしろ読書時間に移動している感じです」と話す。

理央氏も移動時間などのスキマ時間の活用をすすめる。

「出張や遠めの外出のときなどはルートや時間によって、前日に情報源を全部カバンに入れています。電車や新幹線などある程度長い時間移動するときはビジネス誌や専門誌、本を読みます。一方、地下鉄で5〜6分の移動というときにはスマホのアプリで情報をチェックします。1日たった5分でも100日だと500分です。その時間を無為に過ごすのはもったいない。スマホでニュースサイトでも何でもいいから有益なメディアに触れるほうが有意義です」

また、通勤は高所得者ほど出社時刻が早い。

「仕事のデキる人ほど早く出社します。これはモチベーションの違いです。モチベーションが高いと、『ちょっとでも早く行こう』という気持ちになりやすい。また、朝のほうが、仕事がはかどります。ひとりでじっくり考えるような仕事は午前中にやる。午後は眠くなりやすいので、会議やクライアントとの打ち合わせなど会話をする仕事にあてる。そういう自分なりの勝ちパターンをつくることが大切だと思います」(理央氏)

高所得者は残業時間も長い。理央氏は「外資系は特にそうですが、トップ・エグゼクティブをはじめ、デキる人は他の人よりも内容が濃い仕事をしています。パフォーマンスを重視した結果、残業が増えることもあります。これは、残業がよいということではなく、成果につながる価値のある仕事をした結果、残業になったという意味です」と説明する。

▼食事編
稼ぐ人はランチも飲み会もビジネスチャンスにつなげる

■多忙でも家族と食事を取る方法

食事に関しては、ランチで大きな差が見られた。低所得者の5割弱が自分または家族が作った弁当を食べるのに対し、高所得者は6割超が外食だった。仕事の一環として社内外の人とランチミーティングをするケースが多いものと思われる。野呂氏も、「私も仕事関係者とのビジネスランチが多いですね」と言う。「その場合は、目的意識を持って仕事の話をします。単なる情報交換ではなく、結果に結びつくようにしています」。

平日の夕食については、低所得者ほど家族と一緒に取る割合が高かった。これは残業時間が短いことの裏返しでもあるだろう。家族と食事ができるのは理想的だが、特に多忙な高所得者は難しいのが現実。そういうときは、中食や宅配サービスを積極的に活用したほうがよいと野呂氏はアドバイスする。

「うちではよく宅配サービスの『Uber Eats』を使っています。いまはいろいろな選択肢があるので、できる限り家事の負担を少なくし、家族と一緒にご飯を食べる時間などをつくる努力をしたほうがよいと思います」

飲食に関しても、顕著な違いが表れた。飲み会に参加する頻度は高所得者ほど高かった。高所得者はビジネスの延長として会食などの機会が多いからだと考えられる。理央氏も飲み会への参加を推奨する。

「飲み会は意味があるかどうかを意識して参加したほうがいいと思います。たとえば、愚痴や悪口など後ろ向きの発言が多いダラダラ飲み会は絶対にやめるべきです。私の経験からいうと、いい会社ではみな発言が前向き。『いまこういうこと考えているのだけど、どう思う?』『面白いね、一緒にやろうよ』とか。特に外資系は年功序列がないし、流動性も高いから、情報収集などに積極的です。『今度、米国のMBA時代の友達とご飯に行くけど、君も一緒に行く?』など、こういう前向きな話ができる飲み会にはできる限り参加し、新しい風を自分に入れるほうがいいですね。刺激になるし、自分も楽しいですから」

▼仕事編
リッチな人は相手の時間を奪わないように電話は緊急時だけ

■迷惑にならないメール術とは

ビジネスでの連絡手段は、高所得者ほどメールの利用が多い。ただ、電話派が多い低所得者でも、受け手の立場になると、メールのほうがありがたいと感じている割合が増える。電話とメール、どう使い分けるのが理想的なのか。まず、基本姿勢として相手への配慮が大切だと2人は指摘する。

「年収の高い人は、本当の緊急事態やスケジュール調整以外で電話をかけることはまずありません。電話は相手の時間を奪うので、自分も奪われたくないから配慮します。年収の低い人は、そうした配慮に欠ける傾向があります」(野呂氏)

「内容がきちんと伝わるかどうかでいうと、ニュアンスなども含めて電話のほうが伝わります。ただ、電話は相手の都合を考え、どの時間なら迷惑にならないのかなど、デリカシーが非常に必要です。緊急のとき以外は基本的に電話はかけない。要は使い分けです。私は相手との親密度が高まるまでは電話はあまりかけず、メールです」(理央氏)

メールは文面も大切だ。ダラダラと要領を得ない長い文章は相手に迷惑だし、仕事のデキない人という印象を与えかねない。

「私は一文字でも短くすることを意識しています。以前、外資系の人と仕事をしていたときに、返信メールがあまりにそっけない文面なので、嫌われているのではないかと胃が痛くなった経験があります。企画書を送っても、『承知』『採用』『感謝』など返信はひと言だけ。不安なので相手に真意を確認したところ、メールは単なるビジネスの連絡ツールだから悪気などぜんぜんないことがわかり、ひと安心しました。いまはそれを見習い、まったく同じにはいきませんが、一文字でも短く、相手の時間を一秒でも奪わないように工夫しています」(野呂氏)

「簡潔さはもちろんですが、細かいテクニックとしては、アポ取りの候補日などは箇条書きを使っています。その際、間違いを防ぐためにも、1月18日(金)のように必ず曜日を入れます。また、24時間表記で13時、15時とも書いています」(理央氏)

▼自分磨き編
まとまった時間よりスキマ時間の使い方で差がつく

■本は全ページ読まなくてよい

仕事のスキルアップには自己投資や自己研さんが重要だ。ところが、というか、やはりというか、低所得者の半数以上が自分磨きをしておらず、高所得者との差がはっきり出た。

読書は基本的かつ最も簡単な自分磨きの手段だが、低所得者の過半数が月に1冊も本を読んでいない。理央氏は「高収入の人、仕事のデキる人は間違いなく本を読んでいます」と言い切る。「経営者の大事な仕事は、考えぬいて知恵を絞ることです。他社ではやっていないこと、新しい事業やサービスをいかに見つけるかという粘り強さが必要です。そのためには読書が最適。それは一般のビジネスパーソンにとっても大事なことだと思います」。

とはいえ、読書に慣れていない人はどのように本を読めばよいのか。ビジネス書を中心に月50冊以上を読破するという野呂氏は次のように助言する。

「最初から最後まで全部読まないことですね。『あ、これ知っている』『自分もやっている』といった話は飛ばす。新しいこと、発見があったページだけをじっくり読みます。全部読むのは時間のムダです」

理央氏も、「私も全部は読みません。以前は一言一句理解しようとしていましたが、すべてが自分にとって重要なわけではないと気づきました。面白そうなもの、心に響く言葉などを1つでも自分の仕事に生かせれば、それで十分です」と話す。

読書の時間もわざわざつくる必要はなく、空いた時間を利用すればよいという。実際、読書習慣のある高所得者はスキマ時間を活用している。

「この日のこの時間に読書しようと考えるのではなく、5分、10分の電車の移動時間などを利用する。読書とは直接関係ないですが、高層ビルなどでエレベーターがなかなか来ないときがありますよね。そのときにボーッと階数表示を見ているのではなく、その2〜3分を使ってスマホでメールを返信したりすればいいんです。ああいうスキマ時間を生かさないのは本当にもったいないですよ」(野呂氏)

▼私生活編
趣味や家族との時間は仕事の成果にもつながる

■スマート家電や家事代行の活用を

質の高い仕事をするうえで、プライベートの充実も大切だ。事実、高所得者ほど趣味に多くの時間を割いている。

「私もそうですが、仕事は好きだけど、仕事だけだと擦り切れてしまいます。アウトプットするにはインプットが必要。そのためには趣味や好きなことをする時間が大切で、それによって心に余裕ができ、いい考えやアイデアが浮かびやすくなります。それが仕事の成果に結びつき、キャリアや収入アップにつながるのだと思います」(理央氏)

家族とのつながりも大事だ。子育てに関しても、まったく関わらない割合は高所得者のほうが低く、平日忙しい分、週末(週に2日)に積極的に関わる姿が浮かび上がった。

「子どもが家に居たころは掃除や料理などの手伝いを一緒にすることで、家族みんなで分担するように意識していました。ただ、物理的にそれがきちんとできるかどうかよりも、そういうふうにやろうよという意識が大事でしょう。家族が互いに思いやれるかどうか。家族関係がギクシャクしていると、仕事にも影響しますからね」(理央氏)

忙しくて家のことに手が回らない場合は、野呂氏のように家事代行サービスやスマート家電などをうまく活用するのも手だろう。「私は自分の下着類以外はすべてクリーニングに出しています。食洗機やお掃除ロボットなどもあるので、自動化できるものはどんどん自動化すればいい。また、家計の問題はありますが、家事代行に頼めるものは頼んだほうがいいでしょう」。

私生活面では、コンビニや飲食店での支払い方法にも差が表れ、高所得者の約80%がクレジットカードや電子マネーを使うのに対し、低所得者は約45%にとどまった。野呂氏は、「極端な例でいうと、タクシーの支払いを電子マネーでするのと、現金では1〜2分の差がある。わずかな時間ですが、チリも積もれば山になるのでバカにできません。そういう小さな習慣を変えていくことで時間を有効活用できます」と話す。

調査方法:NTTコム リサーチで実施。個人年収500万円未満158人、個人年収1500万円以上153人から回答を得た。調査日は2018年12月11〜13日。

----------

理央 周
マーケティングアイズ代表取締役
関西学院大学経営戦略研究科准教授。著書に『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(日本実業出版社)など多数。
 

野呂エイシロウ
放送作家
PRコンサルタント。著書に『成果につながる!仕事と時間の「仕組み術」』(明日香出版社)など多数。
 

----------

■▼ひと目でわかる! ビンボーな人とリッチな人

(ジャーナリスト 田之上 信 撮影=石橋素幸 写真=iStock.com)