技能実習生はすでに工場などの現場ではなくてはならないものになっている。しかし、人手不足の解消策として安易に拡大するのでなく、国民的な議論が必要だ(写真:共同通信)

事実上は「移民法」といえる出入国管理法改正案(略称・改正入管法)が11月27日、自民党、公明党と日本維新の会などの賛成で衆議院を通過した。同改正法案は今国会で最重要法案とされ、衆議院での議決は最大の山場になると思われた。

しかし実際にはあっけなく同改正法案は通過した。本会議で可決されたのは午後9時45分。29日からの安倍晋三首相のG20出席など南米外遊出発まで粘り、会期延長に持ち込むつもりだった立憲民主党など野党の抵抗は空しいものだった。

「なんといっても圧倒的に自民党の議席数が多いことが原因だ。数の力で押し切られたら、なすすべもない」

同日午後1時半から開かれた衆院本会議で、山下貴司法相の不信任決議案の趣旨説明に立った国民民主党の山井和則衆議院議員は悔しそうにこう述べている。

「本来なら出入国管理法改正案は重要広範議案として、総理大臣が答弁に立ち、審議時間も十分にとらなければならないはずだった。しかし実際には21日に審議入りして、わずか1週間で衆議院を通してしまった」

同改正法案が衆院法務委員会で審議されたのは11月21日、22日、26日と27日の4日間のみ。法務委員会の定例日は火曜日と水曜日と金曜日だが、22日と26日は定例外で委員長職権でたてられた。

当初、16日の審議入りを職権でたてようとした葉梨康弘委員長の議事運営に対し、立憲民主党は解任動議を出して抵抗。しかし同動議は20日の本会議で自公と維新などが反対して否決されている。

27日には山下法相に続く高市早苗衆議院議院運営委員会委員長の不信任案も野党が検討したが、見送られた。理由は野党の国対委員長が夕方に大島理森衆院議長に申し入れた際、大島議長が異例の「議長あっせん」を行ったからだ。

大島議長は改正法を施行する前に政府が全体像を説明すべきであること、そして法務委員会で質疑ができるようにすべきだと提唱し、与野党の国対委員長に伝えた。

政府もごまかし、野党の追及も既出の論点のみ

「中身はスカスカだ」

立憲民主党の辻元清美国対委員長は改正法案についてこのように不満を述べつつも、野党の抵抗について自画自賛している。

「強行採決は残念だが、外国人技能実習生の実態等について一定の監視機能を果たせたのではないか」

しかしながら、同改正法案についての野党の追及は本質を突くものになっていない。法務省の技能実習生の失踪のデータミスや技能実習生の悲惨な労働環境が明らかになったのは、疑惑追及の手段として恒例になった野党ヒアリングの副産物だ。ただし、2010年3月16日の参議院法務委員会で共産党の仁比聡平参議院議員が、2008年度に死亡した技能実習生について、心疾患の発症率が日本人の2倍であった問題を取り上げるなど、過労である実態はすでに国会でも審議されている。

そもそも「特定技能1号」(不足する分野の人材確保を目的として5年を上限に滞在を許可する)と「特定技能2号」(熟練技能を持ち家族ぐるみで移住も可能)という在留資格を新設する出入国管理法改正を審議する際にまず考えなければならないのは、新制度導入によって日本社会がどのように変化するのかという点ではないか。

中でも最も重視すべきは治安の問題だ。移民受け入れの態勢が不十分な中で衝突が頻発するおそれがある。だからこそ自民党の法務委員会理事の平沢勝栄衆議院議員が、「この問題は議論してもきりがない。いくらでも問題が出てくる」と思わず本音を漏らしたのではなかったか。元警察庁キャリア官僚の平沢氏は、治安問題に精通している。

2017年末現在で、日本に中長期に滞在する外国人は223万2026人。新制度では5年間で最大34万人の外国人労働者を受け入れる予定だが、それに伴う混乱は予想されないのか。ヨーロッパではアラブの春をきっかけに難民が押し寄せ、ドイツのアンゲラ・メルケル首相がいちはやく2015年9月に移民受け入れを表明するなどの流れを作ったが、今ではこれを制限する方向に転換しつつある。

ドイツでは2017年9月の総選挙で移民受け入れに反対する右翼政党「ドイツのための選択肢」が初めて議席を獲得し、94議席も獲得して第3勢力に躍り出た。かろうじて政権を維持したメルケル首相自身も、今年7月2日に移民受け入れ政策を事実上撤回している。連立政権を維持するため、かねてから移民問題で対立していたキリスト教社会同盟党首のホルスト・ゼーホーファー内相と妥協したためだ。

またフランスでは2017年4月の大統領選で、極右政党である国民戦線のマリーヌ・ル・ペン党首が躍進し、第1回目の投票で「共和国前進」のエマニエル・マクロン氏(現大統領)に次いで2位につけた。オーストリアでも昨年12月、移民政策に厳しい31歳のセバスチャン・クルツ・オーストリア国民党代表が首相に就任している。

一方で日本は、政府が「移民ではなく外国人労働者の受け入れ」と主張し、問題の本質をごまかそうとしている。強気の理由は内閣支持率が高いことだ。11月25日に公表されたNNNと読売新聞の共同調査では、内閣支持率は前回から4ポイント高い53%で、不支持率は41%から5ポイントも減って36%。11月13日のNHKの調査でも、内閣支持率は4ポイント高の46%で、不支持率は3ポイント減の37%だった。

世論調査が国民の法案への不安を物語っている

しかし外国人労働力受入れ法案については、いずれも「成立を急ぐ必要はない」との回答が最多で、NNNと読売新聞の調査では73%にも上っている。国民は新制度の実態が移民制度の導入であることを見抜いているのだ。

さて衆議院を通過した出入国管理法改正案は11月28日、参議院に舞台を移した。与党は10時からの本会議に首相が出席し、出入国管理法改正案の審議入りを目指したいが、「衆議院通過の翌日に審議入りした前例はない」と野党が反発。午後4時からの開会をめぐり、対立した。

なお来年には議員の半数が改選を迎える参議院では、この法案に対する世論の動向が気になるところだろう。とりわけ2013年の参議院選で65議席獲得と勝ち過ぎた自民党は、実際には危機感が非常に大きい。官邸の思惑に従わざるをえない中でブレが見えかくれする。だからこそいたずらに近視眼に陥ることなく、何よりも参議院の「理の政治」にふさわしい審議内容を期待したい。