鉄道車両は少しでも軽くするため、材質、組み立てなどあらゆる方面から厳しいチェックが入ります。鉄道車両のダイエットは、もしかしたら人間のそれより過酷かもしれません。

軽い車両は乗客にも利益

 鉄道は旅客や荷主から運賃を受け取って輸送する交通機関です。従って一度に多くの乗客や荷物を運べばそれだけ大きな利益を得られます。


これまでのステンレス車の造りを根本から変えた東急8090系電車。モーター付きの車両で31.5tという数字は登場当時、驚異的なものだった(児山 計撮影)。

 乗客や荷物をたくさんのせるとそれだけ車両は重たくなりますが、線路は受け止められる最大重量が路線ごとに決まっているため、それを超えた列車は運転できません。

 決められた重量の範囲内でより多くの人や荷物を運ぶには、車両を軽く造るのが効果的です。たとえば1両の重さが1t軽くなれば、それだけ人や荷物を多く運べます。また、これまでと同じ人数を運ぶのであれば、車両が軽くなる分スピードアップがしやすく、電気代や燃料代も削減できる上に線路の傷みも減ります。ひいてはダイヤや運賃に反映され、鉄道会社のみならず利用者にとっても利益になります。

 こういった理由から、新型車両を製造する際は安全を脅かさない範囲で可能な限り軽くなるように設計されます。

アルミ・ステンレスで軽量化

 軽い車両を造るための要素として、素材が見直されました。

 かつて鉄道車両の車体は木製がありましたが火災リスクなどから鋼鉄製に。しかし近年は大部分がステンレスかアルミ製に変わり、軽量化につながりました。


山陽電鉄3050系の場合、鋼鉄製の3062号車(左)よりアルミ製3070号車(右)は4.5tも軽くなった(児山 計撮影)。

 たとえば山陽電鉄の3050系電車は、鋼鉄製の車体とアルミ製の車体がありますが、アルミ車の方がおおむね4.3〜4.5t軽くなっています。かつてアルミ車は高価格で導入に踏み切れない鉄道事業者もありましたが、新工法により価格は下がり、現在では多くの会社がアルミ車を導入しています。

 ステンレスはアルミのように素材自体が軽いわけではありませんが、腐食の心配が少ないため板を薄くし、塗装を省略することで軽量化ができます。

 1980(昭和55)年に東急電鉄が投入した8090系電車は、有限要素法という方法で強度計算し、徹底的な軽量化を試みた結果、モーター搭載車両の比率を減らしても以前の車両タイプと同等の所要時間で走れるほどに軽くなりました。軽量化が省エネルギーに貢献した例と言えます。

 ステンレス車はアルミ車よりも低価格で塗装不要のメリットもあるため、通勤形を中心に爆発的に普及しています。

徹底的な見直してグラム単位の軽量化

 ボクサーが計量をパスするために過酷な減量を行うかのごとく、鉄道車両も乾いた雑巾を絞るように細かなところまで材質や部品などを検討し、軽量化を進めています。


徹底的に軽量化を指向した209系の連結部分。台車の位置を300mmほど内側に寄せて台枠を軽量化した(児山 計撮影)。

 たとえば1993(平成5)年に登場したJR東日本の209系電車は、「価格半分・重量半分・寿命半分」というコンセプトのもと、ありとあらゆる部材が見直されました。

 そのひとつに、台車(車輪のある部分)の位置をこれまでの車両より内側に寄せ、台枠(自動車でいうシャシー)にかかる重量のバランスを見直すことで軽量化を図っています。こうすることで台車から連結部分のあいだの乗り心地がやや低下するリスクがありますが、京浜東北線の運転速度なら問題ないとして、軽量化を優先しました。

 また、大部分の窓を開閉できない固定窓としたのも軽量化の一環です。窓を固定すれば窓ガラスをスライドさせる機構を省略でき、ガラスが動かない分補強も簡易なものにできるため、軽量化につながります。1枚あたりの軽量化はわずかでも、10両分60枚の窓となれば疎かにできません。

それほど軽量化をがんばってない車両も

 新幹線もスピードアップのためにギリギリまで軽量化が要求される車両です。たとえばN700系の窓は700系に比べてひと回り小さくなっています。これは窓を小さくすることで車体の補強を簡易にしたり、構体の厚みを減らしたりといった軽量化を可能にするためです。また、窓ガラスの材質も合わせガラスからポリカーボネイトにして軽量化しています。

 このほか、座席1脚1kg、ブレーキ1両分で143kg……という具合にありとあらゆる部品を見直し、16両編成の場合、700系に比べてモーターを搭載した動力車が2両増えたにもかかわらず編成重量の増加を7tに抑えました。

 そしてN700SではN700系では実現できなかった「さらなる軽量化」が図られ、16両編成で700tを切ることを目標としています。


「ななつ星in九州」はどの車両も比較的重い42.5〜47.5tの「マ」級。しかし定員が極端に少ないため、トータルの重さは満員の通勤電車と大きく変わらない(児山 計撮影)。

 一方で例外として、豪華寝台列車「トランスイート四季島」や「ななつ星in九州」といった車両は、快適性を優先して軽量化にはそれほど注意が払われていません。もっともこれらの車両は乗車定員が極端に少ないため、車両+乗客の総重量で言えば、満員の通勤電車と大きくは変わりません。

 軽量化は鉄道車両にとって大変重要な課題ですが、一方で安全性を低下させることは絶対に許されませんし、軽量化のために乗り心地や騒音で乗客らを不快にさせることがあってもいけません。

 それでも「ダイエットを挫折」することは鉄道車両ではあり得ません。それは技術者が日夜、軽量化と快適性をはかりにかけながらグラム単位で検討し、鉄道事業者にも乗客にも喜ばれる快適で省エネルギーな車両の実現を目指しているからです。

【写真】新幹線は軽量化で「車窓」も変わる


700系(上)よりN700系(下)の方が、軽量化の一環で窓が小型化されている(児山 計撮影)。