実際に結婚した夫婦のそれぞれの年収形態はどうなっているでしょうか?(写真:kohei_hara/iStock)

「金がないから結婚できない」

これは、結婚意思はあるのにできないままの未婚男性がよく言うせりふです。

男性の収入と結婚との関係は?

前回の記事(東京は高給女と低収入男の「未婚アリ地獄」だ)でもお伝えしたとおり、確かに、男性の場合、未婚率と収入の低さとは高い相関関係があります。しかし、相関があるからといって、そこに因果関係があるとは言い切れません。


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実際に結婚した男性の収入との関係はどうなっているのでしょうか? 平均初婚年齢を含む30代有業男性だけを抽出して、未婚と既婚(データ上は総数から未婚を引いたもので厳密には離死別を含む)の年収分布を比較してみました。


まず、未婚男性の場合、200万円台が25%、300万円台も24%存在し、200万〜400万未満の範囲でほぼ半分を占めています。以前、当連載で、年収400万円以上稼ぐ未婚男性(20〜50代)はたった25%しかいないというお話を紹介しました(収入重視女と容姿重視男に未婚が多いワケ)。あの時のデータは2012年時点のものでしたが、最新の2017年データにアップデートしても、その構成比は28%程度です(30代だけで見ると、400万円以上は33%)。

一方、既婚男性はどうでしょうか。最大層は400万円台の22%ですが、300万円台も20%と次に多く、300万〜500万円未満のゾーンで半分近くの42%を占めます。つまり、未婚と既婚とを分ける境界線には、年収100万円分の差があるとも言えます。

男性の婚活における「年収300万円の壁」

男性の婚活においては、俗に「年収300万円の壁がある」という説があります。男は、年収300万円を超えてはじめて、候補としての第一関門を突破するということらしいのです。30代既婚男性の84%が300万円以上なので、その説はあながち間違ってはいないのかもしれません。

未婚男性の4割が年収300万円未満なのですから、これだけを見てしまうとやはり「金を稼げない男は結婚できない」ということになってしまいます。とはいえ、年収300万円未満でも結婚できている男が16%も存在することも事実です。16%という比率だけを見ると少ないように思えますが、たとえば200万円台の年収の30代既婚男性は約49万人います。同じ年収の未婚者が約66万人ですから、それほど大きな差異はありません。年収の低い男性でも結婚している人はいるということです。

「一人口は食えぬが、二人口は食える」といわれるように、結婚とはもともと生きるうえでの経済共同体でした。かつて農業が主であった日本では、結婚や出産とは、労働力を増やすことでもあり、共同生活は1人当たりの支出を減らす目的でした。今も、共働き夫婦の比率が増加していますが、もともと明治期以前までの日本庶民の夫婦は、ほとんどが共働きで、それは、夫婦合算で必要な世帯所得を確保するという考え方が主流だったのです。消費支出においても、家族と単身とで比較すると、食費や住居費、光熱費などは世帯人員の多い家族のほうが1人当たりの費用は当然安く抑えられます。

では、実際に結婚した夫婦のそれぞれの年収形態はどうなっているでしょうか?

同じく30代の夫婦だけを抽出(夫婦のみ世帯と夫婦と子世帯)して、夫の年収を横軸に、夫と同等か、夫より年収が上か下か、という区分で夫婦の分布をグラフ化しました。収入ゼロという位置づけで無業者(専業主婦・主夫)の数もカウントしています。


これを見ると、夫の方が多く稼いでいる夫婦の比率が圧倒的に多く、夫の年収が100万円台の夫婦ですら過半数が妻は稼いでいないという状況でした。結婚の壁といわれる夫の年収300万円では、84%が「夫>妻」という夫婦形態であるということも驚きです。意外にも、同額程度稼ぐ夫婦が極端に少ないことがわかります。こうみると「女の上方婚、男の下方婚」というのは、結婚に対する「志向」ではなく、現実に結婚した夫婦の実情を表しているという証拠だと思います。

もちろん、これには配偶者控除という制度の影響もあります。いわゆる「103万円の壁」と言われるもので(2018年の改正により150万円まで引き上げ)、妻が思い切り働けなくなるというジレンマを生んでいます。さらには、30代夫婦と言えば、出産や子育ての影響もあり、離職や休職によって妻が無収入となる可能性も高いでしょう。

では、より、新婚の状態に近い「30代子どものいない共働き夫婦」だけに限定するとどうでしょうか?

子なし夫婦の場合、収入同額および妻が夫の収入を上回る比率が、子有り夫婦よりは多少高いですし、夫より妻の収入が高い場合も見受けられます。が、だとしても、「夫>妻」の比率は73%であり、子あり夫婦と10%程度しか違わない差です。夫婦共働きが増えたと言っても、その内実を詳細に見れば、世帯所得のメインは夫であり、妻はあくまでサブ的な位置づけの夫婦が多いという現実が見えてきます。


しかし、30代共働きで子なしの夫婦のパターンをより詳細にみてみると、別の問題も見えてきます。それは、共働き夫婦の増加に伴う「夫婦間所得格差の拡大」です。

グラフ化すると一目瞭然ですが、30代子なし共働き夫婦の年収別グラフのシルエットは、1ページ目の夫の年収グラフとはまったく異なる形になります。夫の年収が増えるごとに世帯所得が比例して上昇するわけではなく、夫の個人年収ではたった3%しか存在しなかった1000万〜1500万円の世帯所得が、一転してボリューム層になるわけです。

これは、同じ年収レベル同士の結婚が増えると、低所得同士の夫婦と高所得同士の夫婦との間に大きな世帯所得格差が必然的に生まれてしまうという現象です。以前、大卒同士が結び付く「学歴の同類婚」が進んでいるというお話をしましたが(結婚できない男を阻む「見えない学歴の壁」)、同様に、「所得の同類婚」も進んでいるといえます。


かつて専業主婦形態が大半を占めていた時代までは、夫の収入=家計の収入でした。妻がパートなどで共働きといっても、配偶者控除の面から妻の年収は100万円程度に抑えられていました。よって、夫の所得に格差があったとしても、世帯間の所得格差というものはそれほど広がらなかったのです。

「所得の同類婚」の進行で起きていること

しかし、同じ共働きでも、「所得の同類婚」が進むと、低所得者同士の夫婦と高所得同士の夫婦との夫婦間の所得格差はますます広がり、グラフに示したような二極化が促進されてしまいます。かつては、300万円夫+パート妻100万の400万夫婦と、600万夫と専業主婦妻の600万円夫婦では、夫婦間所得格差は200万円差で済んだものが、「所得の同類婚」が進むことによって、下手をすると400万円夫婦vs.1200万円以上夫婦という、3倍も所得差のある夫婦が増えていくことになります。

もちろん、こうした格差は、子どもの有無や居住エリアによっても大きく左右されます。グラフの赤点線で示したように、30代が世帯主である世帯の総数の年収分布は400万〜600万円がボリューム層で、これは結局出産・子育てによって共働きを辞めざるをえない夫婦が多いことを示唆しています。皮肉な見方をすれば、結婚時点の夫婦間格差は子育て時期による妻の離職によって、結果的に解消されているとも言えます。

以上のように、結婚した夫婦の実態を探っていくと、現実的には、必ずしも男側に「金がないと結婚できない」わけではないことがわかりますが、一方、「所得の同類婚」の進行で、夫婦間の格差が広がっていたことや、子育て時の妻の離職によって結局夫の収入に頼らざるをえない現実などいろいろな問題が浮き彫りになります。むしろ「結婚したあとも金が問題になる」のです。結婚とはやはり経済問題なのです。