早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄氏

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■新聞の見出しを、毎日チェックせよ

勉強しよう、知識を身につけようと思ったら、いろいろと準備をしてから始めようとするのではなく、「とにかくやってみること」――、これが何より大事です。そこで、40代が情報弱者にならないために、すぐに実行でき、習慣づけてほしい2つの方法をお伝えしましょう。

1つ目は、「毎日、新聞の1面から3面までの見出しをチェックすること」。世間が何に関心を持っているかを知ることが目的です。本文まで読む必要はありません。本文は必要なときにWebを探せば、ほぼ確実に見つかります。切り抜きをする必要もないのです。

「それならテレビのニュースでもいいのではないか?」という人もいるでしょう。しかしそれだと、30分から1時間もの間、テレビの前に拘束されることになるので非効率。またテレビによるニュース提供は、発信者が選択した情報を一方的に受け取るという意味で、受動的です。情報を自分で取りにいくためには、新聞や雑誌のほうが適しています。

習慣化したい2つ目は、「わからない言葉を必ず検索すること」。上司や取引先と話をしていてわからない言葉が出てきたら、すぐにインターネットで検索をするのです。新聞や雑誌などで目にする「わからない言葉」も同様です。

今やパソコンを使わなくとも、スマートスピーカーに話しかければ検索できる時代です。いつも身近にあるスマートフォンでも音声検索が可能です。音声検索ができるようになったことの意味は非常に大きいと思います。パソコンを起動して、検索サイトにアクセスし、キーボードを叩いたりする面倒な手間がなくなったのですから。なお、私は原稿執筆にも音声入力を活用しています。朝、公園で1時間くらいスロージョギングする間に、音声入力で雑誌記事1本分くらいの原稿を書き上げられます。

検索を始めるとネットサーフィンに興じてしまうことがあります。知的好奇心が高じるという点ではいいことですが、知識の体系を知らぬままに個々の言葉を調べていると、森に迷い込んだようになり、出口が見えなくなることがあります。これが、カリキュラムがない中で独学する際の問題です。この点は注意するよう心がけておきましょう。

■YouTubeで情報を体系的に学び直す方法

さて、検索サイトを前にして、次のような状況に陥ったことはないでしょうか。「検索ワードがわからない」――。

インターネット検索が使えない時代には、どうしていたでしょうか。おそらく何でも知っている物識りを頼り、「3年前のアメリカ映画に出ていた主演女優について知りたい。でも共演者の名前も全く思い出せなくて。ただ、舞台はこんなところで、ストーリーやラストシーンは、なんとなくこんな感じ」といった具合に伝えれば、教えてくれたでしょう。

検索エンジンを相手にする場合も、物識りに尋ねたのと同じ文章を入力したり、関連する語句をつなげて調べていけば、知りたかった検索ワードにたどりつけることがあります。後者を私は「八艘飛び検索」と呼んでいます。源義経が船から船へと飛び移ったように、次々に飛んでいって目的のところへたどりつく方法だからです。

「わからないこと」を調べるために、「YouTube」を活用することも有効です。例えば「sharingeconomy」「AI」という言葉について知りたいというときに、YouTubeで検索して動画を見る。海外発のコンテンツも多く、英語の勉強にもなります。また、数分程度の動画から2時間程度の動画までありますので、ニーズに合わせて選択することが可能です。

YouTubeの動画の優れている点をもう1つ挙げると、学校の講義と同じことをやっていること。黒板を使いポイントが示されたり、図形やグラフを用いて説明されていることです。最近ではさまざまな大学が有益な動画を発信しています。情報を体系的に学びたいときに活用できます。

■Google Earthで、表の顔と裏の顔を知る

地理的な情報がわからない場合には、「Google Earth」や「Googleマップ」を活用しましょう。例えば、かつて自動車の街として繁栄したデトロイトの今を知りたければ、Google Earthを見ればよくわかります。現在は工場が使われていない様子など、興味深い光景を目の当たりにできます。

あるいはロシアなら、Googleマップを使えば、シベリアからサンクトペテルブルクまで、町の隅々まで行くことができます。立派な駅舎の裏に泥だらけの道があったりして、表の顔と裏の顔があることに気づかされます。

新聞の見出しを追うにせよ、「わからない言葉」を検索するにせよ、興味を失わず勉強し続ける工夫が大切です。学校であれば、同じ目的を持って勉強し、議論し合う仲間を見つけることができるでしょう。独学ではそれができないので継続するのが難しい。独学の場合は、「誰かに教える」ことが一番のインセンティブになります。知っていることを「自慢したい」という欲求も満たされるからです。

例えば、会社の出張で部長のお供をして海外の取引先と面談する機会があったら、積極的に参加しましょう。誰かの前で外国語を操る場面を見てもらえると思えば、大いに励みになるでしょう。

「誰かに教える」「自慢したい」という願望を満たすために、ブログを作って自分の勉強成果を書いていくのもよいでしょう。いろんな人が目にするため、「間違ったことやいい加減なことは書けない」という気持ちが働きます。その結果、きちんと調べ、本格的に勉強する姿勢につながるでしょう。

また、ブログは見た人から指摘や反応をもらえます。このことは大変重要です。私自身、大学で公開講座をするときなどは、時間の半分だけ講義をし、残り半分の時間は受講者から質問を受け付けるようにしています。質問を受けることは大変な勉強になります。それが、次の勉強テーマへとつながっていくのです。

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情報弱者にならないための「5つの習慣」
(1)1面から3面までの新聞の見出しを毎日チェック!
(2)会話の中で知らない単語が出てきたら、すぐインターネットで検索
(3)地理的な情報がわからない場合、「Google Earth」で現状を知る
(4)勉強をしたら、成果を「ブログ」にまとめる
(5)友人などに得た知識を教え、「質問」をしてもらう

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野口悠紀雄
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問
1963年、東京大学工学部卒業。64年、大蔵省(現財務省)入省。72年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授。11年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問。一橋大学名誉教授。17年9月より現職。近著に『「超」独学法AI時代の新しい働き方へ』(角川新書)。

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(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口 悠紀雄 構成=小澤啓司 写真=Getty Images)