三井住友フィナンシャルグループ 会長 宮田孝一氏

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これからビジネスマンはどう変わるべきか。「プレジデント」(2018年4月30日号)では、特集「いる社員、いらない社員」で、大企業のトップ29人に「人材論」を聞いた。今回は、三井住友フィナンシャルグループの宮田孝一会長のインタビューをお届けしよう――。

■AI導入は「人件費削減のため」ではない

単純な事務作業をコンピュータに記憶させて自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIを導入し、2020年3月までに4000人分の業務量を削減すると発表した三井住友フィナンシャルグループ(FG)。宮田孝一会長は「人件費削減のための導入ではない。創造的な組織になるための布石だ」と力を込める。

近年、顧客のニーズは二極化しています。「スピード・低コスト・利便性」を求めるニーズと、「より丁寧なアドバイス」を求める層です。特にデジタルネーティブ世代は、ネットバンキングや電子マネーなどに慣れ親しみ、銀行窓口やATMに並ぶ手間に煩雑さを感じています。入金や送金などはいちいち店舗に来たくない、自宅のパソコンや出先のスマホで簡便に済ませたいと。

実際、ここ10年間で来店客数は4割減少しました。一方で預金残高や投資信託等の預かり資産残高は増加しています。実店舗に足を運ぶ人が減少する代わりに、インターネットトランザクション(取引)が増加している証拠です。この新たな層に向けて、より利便性を高めたサービスを開発するのが1つ目の課題です。

その半面、これまで以上に親身で丁寧なアドバイスを銀行に期待する層も増えています。個人資産をどう運用していくか腰を据えて相談したい富裕層や、事業継承サポートなど細かいアドバイスを望む経営者も多く、「テーラーメード」のサービスも充実させていくべき課題です。

小売業界では「モノ消費からコト消費へ」消費者のニーズがシフトしてきましたが、金融業も同様。さまざまな金融商品を提案するモノ消費から、顧客の人生に寄り添い丁寧にプランニングするコト消費の場へとシフトチェンジすることが必要になるでしょう。顧客が抱える問題を解決し、心にフィットする提案をすることで「この金融機関と付き合ってきてよかった」と思われる存在にならなければ、われわれの銀行としての存在意義は薄れていきます。

■これから求められる、精神力・洞察力

──具体的にはどのような改革を計画されていますか。

今後2年間かけて全国400以上の支店をすべて「次世代店舗」に切り替えていきます。その旗艦店とも呼べるのが商業施設「ギンザシックス」内の銀座店です。従来型の銀行では当たり前だった出入り口付近に並ぶATMや、順番を待つ顧客の待合コーナー、行員が並ぶ長細い窓口をなくし、すっきりした空間に個別の相談ブースを充実させたのです。

今回の大改革は約500億円の投資以上に、AIやRPA技術革新があってこそでした。これまで人海戦術で処理していた大量の事務処理作業を、これら技術の登場で大幅に削減することができたからです。

たとえば従来の銀行窓口の奥には、さらに広い事務スペースが広がっており、1対2の割合で事務行員の作業空間のほうがお客様スペースよりも大きかったほどです。広大なバックヤードでは、銀行業務につきものの膨大な紙の書類を処理する事務職員が大量に働いていました。しかし、紙の書類をデジタル化し、全国数カ所にあるデータセンターで作業を集約し、それらの事務スペースを支店からなくすことが実現できました。

もっとも、だいぶ前から通常業務のペーパーレス化は進んでいましたし、インターネットバンキングなどで口座番号や基本情報などはデジタル処理されていました。しかし、銀行にとって最後のネックは「印鑑」の存在だったんです。みなさんも数枚つづりの書類に何カ所も押印を続けるアナログな作業にうんざりされたことがあると思います。「印鑑をなくそう」という案も出ましたが、日本の文化、慣習として深く根付いており、当行だけで実現できることでもありません。結果的に印鑑をデジタル化する方法を模索し、印鑑専用のパッドに押印すれば、そのままデジタル処理できるようにしました。

今後の銀行支店は、各種手続きにおける「事務の場」ではなく「相談の場」に変化していきます。

──三井住友銀行では17年秋、3年間で4000人分の業務量削減を発表しました。多くの人員が不要になるということでしょうか。

肝心なのは「4000人」削減ではなく「業務量」削減だという点です。よく誤解されますが、単に人件費削減のためのAI導入ではありません。むしろこれまで膨大な事務作業で忙殺されてきた行員の負担を減らすため、そしてより創造的な業務についてもらうための布石なのです。

たとえば営業担当が翌日住宅ローンの提案に行く場合、現在は前日の顧客訪問前準備業務に相当な時間がかかっています。顧客口座からの情報、現在の金利からはじき出されるローンシミュレーション、それらをパワーポイントに落とし込む作業……。それがRPAの導入で、翌日には自動的に準備されているようになるのです。これで本来の業務である顧客のアフターフォローや、新たな提案を考える時間ができます。

AI分野では、すでに数年前からコールセンターで人工知能の質疑応答システムの試用を始めています。クレジットカードの不正使用やマネーロンダリング、詐欺などの犯罪行為検知も、これからはAIの領域になっていくでしょう。

──いま、銀行が求める人材とは。

これまで以上により人間的な洞察力・教養・好奇心・共感性・コミュニケーション能力があるバンカー、AIにはできない仕事をできる人間です。ITリテラシーが高いに越したことはありませんが、どこまで時代が進んでも、私たちの仕事の相手は感情を持った人間なのです。ビジネスでは過去の積み重ねだけでなく、誰も知らない未来を予測し、答えのわからないなかで重要事項を決断し実行していく精神力や忍耐力も求められます。泥臭いかもしれませんが、目の前の人がどのような人生を歩みたいと思っているのか、課題や喜びを共有し合える人間力こそが、私たちが求めるものなのです。

▼QUESTION
1 生年月日、出生地
1953年11月16日、徳島県徳島市
2 出身高校、出身大学学部
徳島県立城南高校、東京大学法学部
3 座右の銘、好きな言葉
日に新た
4 座右の書
『坂の上の雲』司馬遼太郎、『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ
5 尊敬する人

6 私の健康法
運動、特にウオーキング

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宮田孝一(みやた・こういち)
三井住友フィナンシャルグループ 会長
1976年、旧三井銀行入行。三井住友フィナンシャルグループの取締役、社長を経て、2017年4月より現職。ソニー取締役、三越伊勢丹ホールディングス社外監査役も務める。大学生時代はボウリングの競技をしていた。

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(三井住友フィナンシャルグループ 会長 宮田 孝一 構成=三浦愛美 撮影=村上正吾)