15分ほどの出場だったが、様々な想いを噛み締めながら矢島はピッチに立った。写真:山崎賢人(サッカーダイジェスト写真部)

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[J1リーグ16節]柏0-1FC東京/7月18日/柏

 7月18日、中央大からFC東京に戻ってきて約半年。J1・16節の柏戦でFC東京の矢島輝一がついにJ1リーグ戦デビューを飾った。

 出番は1-0でリードをしている74分。富樫敬真に代わって投入されると、1トップの位置に入って身体を張ったプレーでチームの勝利に貢献した。

 矢島は中学年代からFC東京で育ってきた生え抜き選手。U-15むさしからU-18に進んで活躍を見せていたが、トップ昇格は叶わずに中央大へ進学した。

 186センチの大型ストライカーは大学1年生から出場機会を掴むと、その才能を如何なく発揮。5月の関東大学リーグでは途中出場ながらチームを救う豪快なオーバーヘッドを叩き込み、チームに勝点1をもたらした。残したインパクトは強烈――。今後の成長が待ち望まれるタレントだった。

 その後も順調に力を付け、大学3年生の頃にはFC東京の特別指定選手に登録。U-23チームでJ3デビューも果たし、4試合の出場ながらJ3・2節の琉球戦ではJ初ゴールも奪った。
 
 しかし、大学4年生の3月。トップ昇格を逃した悔しさをバネにし、大きな飛躍を遂げようしていた最中だった。全日本大学選抜のドイツ遠征中に左膝の前十字靭帯を損傷し、全治8か月と診断されたのだ。

 目標としていたプロ入りに暗雲が立ち込めるほどの大怪我。「昨年は思い出したくないような日々で、プロに行けるかどうか、FC東京に近づけるかどうかの不安と戦っていた」という矢島は、大学サッカーのラストイヤーも棒に振る格好となった。しかし、将来性を買われ、夢だったFC東京入りが実現した。
 そして、迎えたルーキーイヤー。コンディションが整わず、春先のキャンプから出遅れた。紅白戦にも参加できず、フルコートのピッチで駆け回る先輩たちを横目に5、6人でのパス回しに励む日々。それでも、矢島は腐らなかった。
 
「自分はFC東京でプレーをしたくて入ってきたので、腐っている暇はない。自分は夢の中にいる。その夢を良い状態で進みたいという想いがあった。そんなに苦しみばかりではなかったです」
 
 FC東京の一員に迎えられた喜びをモチベーションに変え、矢島は再び自らの足で這い上がった。そして、矢島はこの柏戦でついに夢舞台に辿り着いた。
 
「いつもテレビで見ていた選手たちと(試合後に応援歌の)眠らない街を(サポーターの前で)一緒に歌っている。本当に幸せでしかなかった」
 
 試合後に見た風景を胸に刻んだ矢島の挑戦はまだ始まったばかりだ。

取材・文●松尾祐希(サッカーダイジェストWeb編集部)