12月13日、国の鉄道事故調査官らが東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」の13号車の台車付近を調べた。この列車は11日、走行中に異常音や異臭の不具合が生じ、名古屋で運転を中止した(写真:共同通信社)

年末年始の帰省やレジャーで鉄道を使う機会が増えるが、その安全性に今、黄信号が灯っている。


12月11日の運行中にトラブルを起こした東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」の13号車の台車。後の調査で台車には14センチメートルの亀裂が生じていたことが判明。台車の高さは17センチのため、残り3センチの亀裂で破断のおそれがあった(写真:JR西日本)

12月11日、博多発東京行きの東海道・山陽新幹線「のぞみ34号」が走行中に異常音や異臭の不具合が生じ、名古屋で運転が打ち切られた。その後の調査で台車に14センチメートルの亀裂が生じていたことが判明。あと3センチの亀裂で破断のおそれがあった。国土交通省は、「鉄道事故が発生するおそれがある事態」と重く見て、このトラブルを「重大インシデント」と認定した。鉄道の重大インシデントは過去10年で31件起きているが、新幹線では初の事態だ。

現場は「列車を止めて調査すべき」と提案

台車に亀裂が生じた原因については現在、国の運輸安全委員会により調査が行われているが、当該車両を保有するJR西日本(西日本旅客鉄道)によれば、走行中の異臭と異音を調べるために岡山から乗り込んだJR西日本の保守担当者が「次の駅で列車を止めて調査すべき」と懸念を示したものの、最終的には新幹線総合指令所に詰めていたJR西日本の指令員が、「走行に問題なし」と判断し、その後も3時間以上走り続けた。


12月16日にJR京浜東北線で起きた架線切れトラブルで、停車した車両から線路に降りる乗客。このトラブルでは6時間以上にわたって運転見合わせとなり、約22万人に影響が出た(写真:共同通信社)

在来線でもトラブルが相次いでいる。12月16日、JR京浜東北線で架線が切れ、6時間以上にわたり運転を見合わせた。92本が運休し、約22万人に影響が出た。架線切れの原因は単なる作業ミス。同日未明に行われた架線工事の際、本来接触すべきでない金具と架線が近づきすぎてしまい、列車の振動で金具と架線が接触したことがトラブルを招いた。手順どおり工事を行っていれば起きることのなかったトラブルだ。

通勤などの鉄道利用時に列車が止まったり、大幅に遅れたりするといったトラブルは誰もが経験しているだろう。こうしたトラブルの中には、公表されないままで済まされるものもある。京浜東北線の架線切れに関する説明もJR東日本(東日本旅客鉄道)のホームページには見当たらない。

大きなトラブルになると、国交省への報告が必要なものもある。上記の重大インシデントのほかに、列車衝突、脱線、踏切事故、人身事故といった「鉄道運転事故」、旅客列車が運休または30分以上(旅客列車以外の場合は1時間以上)遅延した事態である「輸送障害」がある。特に輸送障害は鉄道運転事故や重大インシデントと比べて格段に件数が多い。

JR自体に起因する輸送障害を独自分析

輸送障害をもたらす原因は、暴風、豪雨、洪水、地震、津波などの「災害」、係員の取り扱いミスや車両・設備の故障といった「部内原因」、線路立ち入りや自殺など「部内原因でないもの」の3つに分類できるが、今回はJR旅客6社について、JR自体に起因する部内原因だけを抜き出し、直近5年間(2012〜2016年度)の発生状況について独自に分析してみた。


5年間で部内原因による輸送障害の件数が増えたのはJR四国(四国旅客鉄道)(14件→15件)のみ。JR北海道(北海道旅客鉄道)(190件→172件)、JR東日本(401件→338件)、JR東海(東海旅客鉄道)(50件→43件)、JR西日本(281件→149件)、JR九州(九州旅客鉄道)(83件→75件)と、各社とも減らしている。

JR西日本の減少ペースはとりわけ速い。12月1日に開催された同社の決算説明会の席上で、「部内原因による輸送障害が大きく減ったのはなぜか」という記者の質問に対して、来島達夫社長は、「一定数のヒューマンエラーはまだ起きている」と答えた。そのうえで、輸送障害が減ったという過去の事象よりも今後、輸送障害をさらに減らすことに力点を置いていることを強調した。だが、新幹線の重大インシデントが起きたのはその10日後だ。経営理念が会社全体には浸透していないことが浮き彫りとなった。


2016年度における部内原因による輸送障害件数を多い順に並べると、JR東日本、JR北海道、JR西日本、JR九州、JR東海、JR四国という順になる。しかし、各社の営業距離が違うので、直接比較するのは難がある。そこで、同件数を各社の営業距離(営業キロ)で割って算出したところ、100営業キロメートル当たりではJR北海道7.6件、JR東日本4.5件、JR九州3.3件、JR西日本3.0件、JR東海2.2件、JR四国1.8件という順になった。

経営難が輸送障害にもつながる

営業キロ比で最も多かったJR北海道について、部内原因による輸送障害をさらにブレークダウンすると、車両を原因とするものが最も多い。JR北海道は現在、老朽化が激しい車両を廃車して新車に置き換える取り組みを進めている。経営難が続く中、新車購入のために捻出できる資金は乏しいが、安全にかかわる問題だけに避けては通れない。


営業キロだけでなく、年間の列車走行距離の合計である列車走行キロでも比較してみた。この数値が大きいほど、1列車が障害を引き起こす、または出くわす可能性が高いことを意味する。列車走行100万キロ当たりの部内原因による輸送障害は多い順に、JR北海道5.2件、JR東日本1.3件、JR九州1.1件、JR西日本0.8件、JR四国0.7件、JR東海0.4件という結果だった。

JR北海道は輸送障害の件数自体が比較的多いうえに、運行本数も少ないので、高い数値になった。JR東日本は100営業キロ当たりの輸送障害はJR北海道の6割程度だったが、列車走行キロで比較すると、4分の1程度まで減る。つまり、JR北海道の列車に乗っているときに輸送障害に遭遇する可能性はJR東日本の4倍ということになる。JR東海は断トツに低い0.4件。同社の列車走行キロは東海道新幹線が大半を占めており、新幹線が日頃、高品質の運行を重ねていることを如実に示している。


トラブルの遭遇確率が低いからといって、安心は禁物だ。首都圏、あるいは新幹線でひとたび輸送障害が起これば、影響を受ける人数はJR北海道の比ではない。各社の1日平均輸送人員を部内原因による輸送障害の件数で割り、1回の輸送障害が影響を与える人数を計算してみた。

影響人数は輸送障害の回復に要する時間など諸条件に左右されるため、あくまでも参考値ではあるが、JR東日本5万1000人、JR東海とJR西日本がそれぞれ3万5000人、JR九州が1万1000人、JR四国が8000人、JR北海道が2000人という結果になった。JR東日本とJR北海道の差は実に25倍を超える。

「首都圏で輸送障害が起きると影響が大きい。だからこそ首都圏でいかに輸送障害を減らすかが課題である」と、JR東日本の深澤祐二副社長は11月30日の決算説明会で記者に語っていた。だが、それからわずか2週間ほどで京浜東北線の架線切れトラブルが起きてしまった。

コミュニケーション不足が問題?

JR西日本は2005年のJR福知山線事故を契機として、安全性向上に全社的に取り組んできた。実際、部内原因による輸送障害は目に見えて減っている。その努力をすり抜けて、今回の重大インシデントが発生した。

JR東海の柘植康英社長は12月20日の会見で「新大阪で床下点検をしてほしかった」と述べた。とはいうものの、新幹線の新大阪駅はJR東海の管轄だ。JR西日本が無断で列車の点検をするわけにはいかない。列車に乗っていたJR西日本の保守担当者が新大阪で下車したのも管轄が変わったからだ。今回のトラブルでは、JR西日本の保守担当者と指令員とのコミュニケーションの不備が明るみに出たが、はたしてJR西日本とJR東海のコミュニケーションは適切に行われていたのだろうか。


東京の新幹線総合指令所。JR東海やJR西日本の指令員が共同で仕事をしている(2010年筆者撮影)

東京の新幹線総合指令所ではJR東海とJR西日本の指令員が隣り合わせで仕事をしており、緊密な情報交換をできる仕組みは整っている。JR西日本の指令員と保守担当者のやり取りをJR東海の指令員が聞いていても不思議はない。新大阪で乗務員は交代し、保守担当社員も下車したので、事態は振り出しに戻ってしまったが、新大阪という会社間の境界を越えて両社の指令員が情報を共有していれば名古屋の手前で適切な対策を打てたかもしれない。両社の意思疎通の状況については運輸安全委員会の調査で明らかにされるだろう。

また、JR東日本の架線切れ事故は、原因こそ違うものの2015年にやはり京浜東北線で(「JRの架線切断が再発するかもしれない理由」)、2007年には宇都宮線で起きている。両事故では再発防止策が講じられていたが、今回は別の原因によって三たび事故が起きた。網の目をかいくぐるかのように事故が起きる。それでも事故撲滅に向けて突き進むしかない。