残業は「上司の視界」から消えて回避せよ

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残業を減らすにはどうすればいいのか。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は「会社では、昼間の平均年齢よりも深夜の平均年齢のほうが若い」という表現で、「『若者は残業をするもの』という妙な価値観がある」と指摘する。そして上司の“むちゃぶり”から身を守る方法として、中川氏は「出社するな」と提案する。その意味とは――。

■早く帰れるのに帰らない若手

やれ「働き方改革」だ、「残業削減」だと、日本の労働環境に関する話題が頻繁に取り沙汰されている昨今。メディアを見れば、識者が改善策や将来的などについていろいろな意見を述べている。

詳しいことは彼らに任せるとして、私が残業について違和感を持っているのは、この一点である。

「会社では、昼間の平均年齢よりも深夜の平均年齢のほうが若い」

私はこれまで、さまざまなオフィスで現場作業員として働いてきた。そして多くの職場で、オッサンやオバサンの社員は18時あたりを過ぎると次々に去っていく一方、若者の社員は彼らに「オツカレサマッシタァ〜」などと声をかけて送り出す──そんな光景を目にしてきた。そのまま若手社員は業務を続け、当たり前のように深夜まで居残るのだ。

こちらは下請けの業者としてその場に身を置き、入稿作業やら編集作業をしているわけで、山場となる作業日に深夜までいるのは普通のことだ。が、ふと隣の編集部や別の班に目をやると、明らかに入稿や校了など長時間拘束されるような業務は終わったであろうタイミングにも関わらず、若者が居残りをしているのである。「もう校了作業は片づいたんでしょ? さっさと帰れば?」なんて思うのだが、それでも彼らは会社にいる。まだやることが山積みなのだという。

さらに付け加えると、これは私の会社員時代を振り返ってみても同様なのだが、深夜に残業をしているのは大抵「いつもの面々」なのである。たとえば、私がいた局(部署)の場合、23歳〜38歳くらいの部員しかいない部(局の下の単位)の人間は軒並み残業をしていたが、平均年齢55歳ぐらいの人々が集められた部は18時には誰もいないなんてザラだった。完全に「残業する部署」「定時に帰る部署」が分かれていたのである。

■「残業するか、しないか」は属人的な問題

また、無職の時代に某週刊誌の編集部で電話かけのバイトをしたことがあるのだが、とにかくオッサンの編集者がヒマそうなのである。編集長よりも年上の推定年齢53歳というオッサンなのだが、若手が取材に出向いたり、忙しそうに電話でやり取りをしていたりするなか、悠々とヤフオクに精を出していた。そしてときおり、思い出したかのように旧知のメーカーの広報に電話をして「最近どーよ? そろそろ情報交換でもしない?」なんてやっているのだ。彼は何があろうと、17時になったらどこかへ消えていった。

これまで長年にわたって付き合ってきた人々が、何回か転職をしたりもする。すると、これまた不思議なのだが、前の会社で長時間残業をしていた人は、新しい会社でもまた長時間残業をするようになる。そして、逆も然りであることは、たとえばこんな会話からも見て取れるだろう。

私:「今夜の飲み、何時からにする?」
彼:「18時スタートでどう? 早いかな?」
私:「いや、大丈夫だけど……新しい職場、残業ないの?」
彼:「オレ、いままで通りのペースで仕事をしているから定時に終わるのさ」
私:「へぇ〜。じゃあ、18時からににしよう」

……こんな調子だ。つまり、「残業をする人は、どこに行っても残業をする」「残業をしない人は、どこに行っても残業をしない」という属人的な話になってきてしまうのだ。

■究極の残業回避は「出社しない」

残業をめぐる風景は、1990年代も、2010年代も後半に近づいた現代も、そう大きくは変わっていない印象だ。そして、「若者は残業をするもの」という妙な価値観は、いつまでも根深く残り続けてしまっている。それはいったい、なぜなのだろう。

何が問題なのか、この20年間ほど考え続けてきた。そして、「向き合うべきは仕事」という一点のみを追求し、「人間とは向き合わない」という姿勢を明確に持つことにより、残業を回避できるのでは、という考えに至った。そこで、私の提案する最終的な解決策は「出社しない」ということだ。

相当な極論であることは承知している。しかし、残業が発生してしまうケースの多くは、私が見聞きするかぎり、要するに「こいつは残業させやすい」と上司や先輩から思われてしまうことに大きな原因があるように思えてならない。

先にも挙げたように、50歳過ぎのオッサンがひーこら言いながら残業をしている図というのはあまり見たことがない。それは、周囲がそのオッサンのことをもはや戦力として捉えていないとか、昔の武勇伝を聞かされるだけで面倒くさいから仕事を振らない、といった判断をしている場合もあるだろう。あるいは「これまでさんざん貢献してくれたし、これからはもうゆっくりさせてあげよう」という妙な配慮もあるかもしれない。また、もはや成長意欲も失い、新しい仕事に取り組まない人もいる。かつて、オッサンは「ワシはアナログ人間ですからなぁ、ガハハハハ」といい、「カタカタはキミに任せたよ。エクセルの資料作っといて」などと仕事から逃げていた。「カタカタ」とはキーボードを打つ音で、要するにパソコンのことだ。

技術者であれば、年齢を経るにつれ熟練の技が磨かれていくことはあるだろうが、ホワイトカラーの場合、ある一定のレベルに達するとそれ以上はなかなか成長しづらくなる。年を重ねて人脈が増えまくり、まわりの人を巻き込んでバシバシと仕事をこなしているように見えたとしても、ひとりの作業者として見た場合はすでに頭打ち状態……そんな「成長の踊り場」といった時期はいつか必ず迎えてしまうものである。

■管理職は「仕事の内容」ベースで部下に業務を差配せよ

となれば、管理職やリーダーが残業をお願いする人材として、オッサンはもはや対象外。オッサンからしても「とりあえず、あと何年か波風立てずに働き、淡々と給料だけもらって定年まで逃げ切りたい」なんて考えているから、必死に仕事に取り組む姿勢など、まったく期待できない。そんななか、「なんとか頑張らなくては社内での居場所がなくなる」と危機感を抱いている若手が、残業押し付けの格好のターゲットとなってしまうのだ。

そして若手のなかでも、とかく押し付けのターゲットにされてしまうのは、親切で配慮ができる人物だ。そういった人が、その場しのぎをしたいだけの上司や先輩から安易にロックオンされてしまう。さらに、忙しい若手のサポート役を担わなければならないはずのヒマなオッサンたちも、逃げ切ることに頭がいっぱいで、まったく役に立たない。そんなこんなで、真面目で気配りのできる若手が、本来であれば背負う必要のない業務までも引き受け、長時間残業をし、疲弊していく。

こういった状況は「上司とたまたま目が合った」程度でも実現されてしまうもの。上層部から新しい仕事を命じられた部長は、「さて、誰にアサインするか……」と考える。たまたまその場にいたのが若手社員・A君だ。A君は入社3年目。「早く一人前として認められたい」「これからもっと活躍したい」といつも前向きであり、残業も厭わない爽やかナイスガイである。「そうだ、コイツがいたわ。けっこう忙しそうだけど、やる気はあるし、イヤとは言わないだろう」といった適当さで、部長はA君の仕事量を増やしてしまうのだ。

そして、A君は頑張って長時間残業をこなしながら、何とか業務を終わらせようと無理を重ねていく。次第に心身のバランスを崩し、最終的には心を病んで休職に追い込まれたりするのだ。さらに最悪のケースだと、うつ病をこじらせて自殺をしてしまう可能性すらある。

こういった状況を本気で回避するには、仕事を乱暴に振られがちな若手は「同僚と会わない」という対策を講じるしかないだろう。

もっとも、そんな振る舞いを若手がするのはなかなか難しいもの。であれば、管理職のほうから「人間関係」ではなく「仕事」ベースで業務の差配を考えるべきだ。そして、年齢や声の掛けやすさとは関係なく仕事を割り振らなければならない。もちろん、きちんと業務をこなして、然るべき成果を出したらボーナスや出世という形で、ちゃんと処遇することも重要になる。

■「直に会うのは週に一度」でも高収益経営

ちなみに、私が経営する会社のメンバーは、社長である私と、従業員のY嬢の2人だけである。Y嬢も私もそれぞれオフィスを構えており、同じ空間で仕事をするのは週1日だけだ。そのときに最近の悩みを打ち明けたり、問題点を共有したりする。そして、一緒に仕事をする日は「あの原稿、早く書きなさい!」とY嬢から怒られたりもする。この日だけは互いに仕事ぶりを監視し合い、業務をできるだけ推進していく。だが、他の曜日はまったく別行動である。

こうした仕事のスタイルによって、「コミュニケーション不足に陥った」「報連相が滞り、売り上げが落ちた」みたいなことがあるかといえば、そんなことはまったくない。我々はとんでもない長時間労働で消耗することもなく、それなりの高収益企業を運営している。互いに残業を強要したこともない。とにかく2人がやらなくてはいけないことを、地道にやり続けているだけだ。

しかし、いつも一緒にいた場合、もしかしたら私はY嬢に「明日、千葉まで取材に行ってくれ」などと言ってしまうかもしれない。電話取材でも済む話なのに、「いちおう現地も見ておくか」と思い付いて、わざわざ彼女を派遣してしまうかもしれないのだ。

「たまたまその場にいた」というだけで“むちゃぶり”されてしまうような環境をなくせば、長時間労働・過重残業は、それなりに減らせるのではないだろうか。少なくとも「とりあえず、資料をつくっておいてよ」「念のため、整理しておいて」といった、思いつきの業務、必要性を吟味しないまま「やらせる」ことを目的にしたような業務の数は、激減するだろう。

ちなみにこの7年間、Y嬢と2人で会社を経営してきたが、弊社も社員どうしが適度に距離を置いているからこそ、無駄な残業は回避できたのかな……とつくづく感じている。

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【まとめ】今回の「俺がもっとも言いたいこと」
・残業がクセにならないよう、とっと仕事を終えて、とっとと帰れ。
・仕事は「振りやすい人」に集中する。苦しければ、身体を壊す前に逃げろ。
・「仕事を振りやすい部下」にばかり業務を押し付ける管理職はゴミだ。反省しろ。

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中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。

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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎)