鈴木 右をやっていましたが、真ん中も左も割と全部やりました。
 
岩政 どこのポジションでも、大事なのは、状況に合わせたポジショニングですよね。
 
鈴木 それは監督にもよく言われます。
 
岩政 最近、よく考えるんです。育成年代から取り組んでいかないと、ポジショニングの感覚は育たないなと。スペインでのプレーする鈴木選手は、どういう伝え方をすれば、日本人にも感覚が身につくと思います?
 
鈴木 自分もそうでしたが「マークに付きなさい」と指示されたら、日本人は相手選手とゴールの間に立ちます。でも、相手の前に立ってパスコースを切るのもマーク。そう言われたのが新鮮でした。日本には、その感覚があまり無いかなと。
岩政 選手に言われたんですか?
 
鈴木 そうです。賢い選手ほど、ポジショニングで勝負しています。それで縦パスを通されることはありますが、「仕方ないでしょ。一番厄介なコースは消してたし」みたいなリアクションをします。
 
岩政 ヨーロッパは1対1を重視すると言いますが、良いチームのDFは個人での対応だけでなく、上手く連係していますね。
 
鈴木 コミュニケーションをすごく取りますね。例えば、自分が右のセンターバックに入っている時に、左のセンターバックがプレスに行ってかわされたとします。そこで自分が少しでも遠くにいると、「お前が遠くにいるからやられた」みたいなことを言われます。だから、1対1だけではないです。
 
岩政 日本は組織での守備を大事にしているようで、センターバックには純粋な1対1の強さを求めますよね。Jリーグでも、そうした場面が多いと感じています。
 
鈴木 確かに極端かもしれません。日本人は言われたことを確実にできるけど、自分で判断する力はスペイン人のほうが長けていると思います。
 
岩政 欧州の選手は、育成年代から自分で判断する習慣がついているんでしょうね。
 
鈴木 日本の育成年代は、「コーチの言うこと聞かない」と言って外しがちかもしれません。でも、スペインは自分で考える選手を残す傾向なのかなと。ナスティックは2部ですけど、言われたことを完璧にこなす選手は少ないですからね。その分、逆に自分のプレーが目立つので、「与えた仕事を絶対にこなす」と評価されている気はします。
 
岩政 先日、別の連載で対談した東京大学大学院の柳川範之教授が「日本の『考えろ』は、用意された正解が何かを『考えろ』になってしまう」と言っていました。サッカーで言えば、指導者になんて答えたら「正解」と言ってもらえるか、ですよね。つまり、日本と欧州では「考える」という言葉の意味が違う。そこから修正しないと判断できる選手は育たないのかもしれないと思うんです。
 
鈴木 海外を相手に戦える選手の育成なのか、日本で評価される選手の育成なのか。前者を育てたいなら変化は必要ですね。
岩政 現状のままでは、ここからの大きな伸びが期待できないのかなと。自分で考える選手を育てるには、やはり育成の改革ですよね。ショートパスやハイプレスといったような”やり方”を一貫してしまうと、それに沿った子しか育たない。
 やり方を一貫する必要は無くて、簡単に言うと"考える"選手を育てましょうというのを一貫してもいい。日本人の"考える"の意味を掘り下げた上でね。それができれば、日本の底上げにつながるのではないかと考えているんです。
 
鈴木 スケールの大きな話ですね。そういう教育を受けた人であれば、サッカー界だけでなく、どこに行ってもワールドワイドに活躍できそうです。
 
岩政 先に話した教授も、「自分で考えて行動しなければいけない時代になっているのに、そういう子どもが育っていない」と言っていました。もし、サッカー界がサッカーを通して世界に通用する人材の育成ができるようになったら面白いですよね。
 
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【プロフィール】
鈴木大輔(すずき・だいすけ)/1990年1月29日、石川県出身。各年代の日本代表に選出され、数々の国際大会に出場。2012年のロンドン五輪では、センターバックのレギュラーとして吉田麻也とコンビを組み、ベスト4進出に貢献した。13年に新潟から柏に移籍し、16年にスペインへ。トライアウトでヒムナスティック・タラゴナとの契約を勝ち取り、現在もスペイン2部でプレーしている。
 
岩政大樹(いわまさ・だいき)/1982年1月30日、山口県出身。J1通算290試合・35得点。J2通算82試合・10得点。日本代表8試合・0得点/鹿島で不動のCBとして活躍し、2007年からJ1リーグ3連覇を達成。日本代表にも選出され、2010年の南アフリカW杯メンバーに選出された。2014年にはタイのBECテロ・サーサナに新天地を求め、翌2015年にはJ2岡山入り。岡山では2016年のプレーオフ決勝に導いた。今季から在籍する東京ユナイテッドFCでは、選手兼コーチを務める。