顔出しNGのゲストがブタに、MCの山里亮太とYOUがモグラに姿を変え、赤裸々な本音トークを繰り広げることで話題になった『ねほりんぱほりん』Eテレ)。
ゲスい話が出るにもかかわらず、人形はまるで子供番組のようにかわいい姿だった。


しかし、番組企画当初の案では、もっと毒々しいキャラだったという。どうやってあのかわいい姿に近づいたのか?


5月26日に早稲田大学文化構想学部で行われた「ポスト/モダニズム論」の講義。『ねほりんぱほりん』を立ち上げたNHKディレクター・藤江千紘さんがゲストスピーカーとして登壇し、番組の裏話を語った。講師を務める菊地浩平さんは人形文化全般を専門とする人物だ。教室は300人弱の学生で満員になった。

企画段階では「ウサギ」もいた


人形やその文化を研究テーマにする菊地さんはNHKの人形劇にも造詣が深く、『ねほりんぱほりん』にもすぐにハマったという。どうしても番組スタッフの話が聞きたくなり、「NHKのホームページの『お客様の声』みたいなとこからラブコールを送りました(笑)」といった紆余曲折を経て、今回の講義が実現した。

講義は藤江さんのスライドをベースに、菊地さんが質問する形で進んだ。


藤江さんが企画を発案したのは2014年9月のこと。当初はネット世代に向け、ブロガーなど「ネットの中の人」の話を聞く番組にするつもりだった。テレビに顔出しで出演すると発言が丸くなってしまうから、人形にでもなってもらえばいいかな……という軽い気持ちで「人形」案が生まれたという。

藤江「最初は少し毒のあるキャラの方が若い世代に刺さるかな、と思っていたんです。イラストレーターの方に案を描いてもらったんですが……パッと見て性格悪そうですよね(笑)毒がありすぎて取材相手を『こういう人』だと見た目で決めつけてしまうような気もするし、かといって毒を抜くと子供番組みたいになるし、どうしようかな……と悩みました 」


その悩みが解決したきっかけは「レゴ」だった。
レゴの人形はパッと見はかわいいが、表情が無いためどんな性格かまではわからない。表情が無いほうが感情移入でき、視聴者が人柄などを補完できるのではないか?

こうして顔出しNGのブタは、ぱっと見た時に「かわいい」という印象だけが残るだけで、性格や感情がほとんど見えないフラットな造形になった。話を聞き出すモグラも目がくりくりと動くかわいい造形にし、無邪気に「てへぺろ」と聞いちゃう立ち位置にした。

さて人形の造形は決まったが……セット案を見るとモグラの横に「ウサギ」がいる。番組に登場している人形はモグラとブタとカエル(スタッフ役)だけ。このウサギは一体……?


藤江「『ざわざわ森のがんこちゃん』をはじめ、NHKの人形劇は基本的に10分くらいの番組が多いです。でも『ねほりんぱほりん』はトークだけで30分。局内では『表情のないブタとモグラが話すだけで30分持つのか?』と心配されて……。毎回テーマにあわせて、ローラさんとか姜尚中さんとか、スペシャルゲストを呼んで『ウサギ』になってもらう案が出たんです。でも、とりあえず初回はウサギ無しで……とやってみたら、これでいけるぞ、と。前例が無い番組なので、いけるのかどうか不安だったんですよね。不安になると要素を足そうとしてしまいがちになっちゃいます」

2014年9月に発案し、「ソファで人形同士がトーク」という形で固まったのが2015年3月。第1弾「プロ彼女」回が放送されたのは2015年7月のこと。キャラクターやセットづくりと並行して行われていたのが、徹底したリサーチだ。

人だと思って人形を撮ると人に見える不思議


藤江さんが「一番大変」と語るのが、対象者を探すリサーチ。プロ彼女の回ではリサーチに3ヶ月、さらに決まったスタジオゲストに計20時間の面談をした。面談はリサーチのみならず、取材対象者に安心して心を開いてもらうための時間でもある。

藤江「シーズン1で放送した回は16本あるんですが、裏でリサーチは30本走っていました。まだ探し続けている人もいて……例えばスパイとか」
菊地「それは見つかったらダメな仕事の人ですね(笑)」


ゲストとMCの収録はラジオブースで行い、1時間30分ほどの音声を30分に編集。そこから人形の動きを決める。「操演さん」に動きを付けるのも演出の役目。やることは役者が演技を固めていく作業と同じだ。ちなみにブタは全部で5体。地下アイドルの回では、大人数のメンバーや客を表現するため合成が大変だったそう。

スタジオ収録では5台のカメラが人形を狙う。音声は事前に収録しているが、トーク番組の生っぽさが出るよう、話し出した人形に慌ててズームインしたり、わざと切り替え(スイッチング)を遅らせることもある。

藤江「カメラのチーフの方が、他のカメラマンに『人形じゃねぇんだ!人として撮れ!』と指示を出すこともあります」
菊地「なるほど……。以前、私の『人形とホラー』という講義に脚本家・映画監督の三宅隆太さんをお呼びしたんです。三宅さんのホラー映画に登場する『ゆりちゃん』という人形を連れてきてくれて、そのときに『ゆりちゃんを現場で女優として扱わないと、いい映画が作れない』と。まさに同じ話ですよね」
藤江「カメラを通した時に、ただの「人形」としてのっぺり見える時もあるんです。でも、話の内容や表情をきちんと捉えて、その気になって撮ると人に見えてくる……何かが宿るんですよね。ブタは無表情なんですけど(笑)」

どんな人からもフラットに話を聞くために


『ねほりんぱほりん』をやるうえで、一番大事にしていることはなにか? という菊地さんの質問に、藤江さんは「30代の私が、家事や仕事の合間に本当に観たいものを作りたかった」と語る。

藤江「これまでドキュメンタリーなど様々な番組を10年近く作ってきたんですが、同世代の友達が私とのつきあい無しに観てくれる、本当に『観たい』と思うものを作れているのかな?と思って。どうせなら知り合いの中でたった一人でも、毎週観たくなって、つい「こんなのがあるよ!」ってSNSで言いたくなるような、強く刺さるものを作りたいなと。嘘や建前を無くして、きれいではなくリアルな話で、興味はあるけど、一度もちゃんとは聞いたことがないものを。『ねほりんぱほりん』は、多くの人を泣かせようとか、みんなに共感してもらおうとか思っていないんです。100人に1ずつ伝わるより、1人に100伝わるものを目指しています


リサーチに時間がかかるのも「誰も聞いたことがない話」を引き出すため。対象者と話をするときは「暴いたり断罪したりするつもりではない」ことをきちんと説明する。

藤江「夜中に疲れて帰ってきてテレビつけて、私は、人が怒られてたり、お説教されたりしているところは観たくないんです(笑) どんな人にでも愛せる部分はあるし、どんな悪人にも憎めないところがあると思うんです。そういうところを全部ひっくるめて、面白がりたい。だから既存の価値観で決めつけたり、叱ったりせず、『へ〜』『そんでそんで?』『それからどうなったの?』とフラットに聞いてほしくて、山里さんやYOUさんに聞き手をお願いしました」

企画立ち上げの頃、「山ちゃんとYOUは人形ではなく、人間として出演するのでもいいのでは?」という声もあったそうだ。確かに顔を出したくないのはゲストだけ。山里&YOUは顔を隠す必要はない。しかし「一人だけ覆面だと、悪いことをした人みたいに見えたり、『違う種類の人』と差別化しているように見えたりしてしまう」として、MCも人形になってもらった。全員人形という同じ土俵で話をする。ここにも「フラット」が登場する。

菊地「『『フラットに話を聞きたい』という態度だけなら、人間同士でもできるはずなんです。でも『顔』や『からだ』がノイズになる面もあるんですね。表情から何かを感じ取ってツッコみたくなったりとか。『ねほりんぱほりん』が特別なのは、人形を介することで『フラット』を実現できているところかなと思います」

善も悪も見た目も思い込みも全部平らにならして、「ニンゲンって、おもしろい」を見せてくれる『ねほりんぱほりん』。

秋にはシーズン2が……あるとかないとか……ないとかあるとか……。とりあえず、スパイが見つかるのを期待して待っています!

(井上マサキ)