とうとう、「トランプ・リスク」が現実に・・・

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米大統領選で共和党のドナルド・トランプ氏(70)の当選が確実となった2016年11月9日の東京金融市場は、民主党のヒラリー・クリントン氏(69)が優勢との直前の観測が一変したことで、ドル円相場は大混乱し、外国為替証拠金(FX)取引の投資家たちの間では天国と地獄が繰り広げられた。

経済に関して過激な発言を繰り返してきた「トランプ大統領」が就任すれば、株式も含めた世界の金融市場の混乱が続く可能性もある。

円ドル相場、2時間で105円台から101円台に

2016年11月9日の東京金融市場は、米大統領選の開票速報に一喜一憂する展開となり、外国為替、株式ともに大荒れ。稀にみる大接戦のなか、選挙直前の世論調査では民主党のヒラリー・クリントン氏(69)が僅差でリードしていたこともあり、東京外国為替市場はドル円相場が105円前半で推移。ところが、開票が進むにつれて「トランプ優位」が伝わると、みるみるうちに円高が進み、11時すぎには1ドル104円台に入った。

さらに、選挙結果を左右するとみられている大票田のフロリダ州でのトランプ氏の優勢で、正午すぎに一気に1ドル101円台まで円高が進んだ。ヘッジファンドなどによるリスク回避のドル売り・円買いが加速したとみられる。

円は105円台半ばを付けた10時すぎから、わずか2時間で3円以上も急騰。101円台を付けるのは約1か月ぶりのことだ。

そうしたなか、外国為替証拠金(FX)取引に投資する個人投資家の中には、ロスカット(強制的な損切り)の憂き目にあった人たちが少なくなかった。

外為どっとコム総合研究所の調査部長で上席研究員の神田卓也氏は、「フロリダ州でトランプ氏の優勢が伝えられると相場は一変しました。8日の米ニューヨーク外国為替市場がクローズした段階で、クリントン勝利に賭け、『ドル買い・円売り』のポジションを保有していた投資家がストップロスとなり、下げ幅を拡大する要因となったことは否めません」と説明。「104〜103円でドルの買い持ちしていた投資家が損失を確定した」と話す。

ただ、その後はドルがじりじりと下げる展開で、「それなりに対処している様子がうかがえます」という。

2016年で損失が一番大きかったのは、英国の欧州連合(EU)離脱のときだ。6月24日の英国の国民投票の結果を受けてポンド円取引などが大きく変動したことで、ロスカットによる未収金の発生口座数(速報ベース)は、6月だけで2149件(個人・法人の合計)、金額ベースで2億円にものぼった(金融先物取引業協会調べ)。このうち、個人投資家は口座数で60%、金額ベースではじつに85%を占めていた。

その二の舞にならないよう、多くのFX投資家が今回の米大統領選は結果が出るまでは様子見を決め込んでいたようだ。

「胃に穴があきそうなんですが・・・」

一方で、「鼻の利く」FX投資家も少なくないようで、前出の神田氏によると、「トランプ氏の優勢が見えはじめた正午すぎには、ドルの下げ局面のトレンドにあわせてドル売りへの動きが活発になってきました。様子見の個人投資家が動きはじめ、しっかり利益を確保しているようです」と話す。

とはいえ、ドル円相場が大混乱するなか、インターネットには、

「ドル円スゲーな。バンジージャンプかよw」
「マジかよw俺死ぬのwww」
「マジでトランプ来るんか? またまた偏向報道に騙されたって感じだな」
「仕事してたら、あっという間に大暴落だよ(泣)」
「胃に穴があきそうなんですが・・・」
「億単位で損してるヤツいそうだねwwww」

と、損したFX投資家らしき人たちの声が少なくない。

なかには、

「うお〜 結構利益出た。もう少ししたら売ってしまおうw」
「ありがとうトランプ。ボロ儲け!」

と、しっかり儲けた人もいるようだ。

当面のドル円相場について、神田氏は「トランプ大統領となれば、円高ドル安の流れになることはわかっていましたが、それがはっきりしたということです。これから開く欧米市場でもその流れは続くでしょう。しばらくは円高への警戒が必要です」と指摘する。

日経平均、英国EU離脱時以来の1000円超の下げ

一方、東京株式市場は「トランプ優勢」が伝えられるたびに、日経平均株価は大きく下げた。米大統領選は接戦が続き、取引時間中に結果は判明しなかったが、共和党のトランプ氏の勝利による先行き不透明感が強く意識され、全面安の展開。日経平均株価の終値は、前日比919円84銭安の1万6251円54銭と続落。東証株価指数(TOPIX)も62.33ポイント安の1301.16と反落した。

日経平均株価は前場に、クリントン氏の勝利を織り込んだ前日の米国の株高を好感して買いが先行。10時すぎには前日比256円33銭高の1万7427円71銭を付けたが、その後、フロリダ州でトランプ氏優勢が伝えられると幅広い銘柄が売られ、全面安の展開となり、心理的な節目となる1万7000円台を大きく下回った。

一時、前日比1059円57銭安の1万6111円81銭を付けた。1000円を超える急落は、英国の欧州連合(EU)離脱が決まった時(前日比1286円安)以来の下げ幅だ。1日の値動きも1200円を超えた。

当面の株式市場について、第一生命経済研究所経済調査部の主任エコノミスト、藤代宏一氏は「今回の大統領選は、トランプ氏の過激な発言が注目されたために、民主党、共和党それぞれの政策を含めた選択の部分がかき消されてしまいました。よく見ると、トランプ大統領になっても短期的には減税や規制緩和の推進など、経済にとってプラスになることは少なくありません」と説明。為替や株式市場の混乱は、「一時的な、『トランプショック』にすぎません」とみている。

また、米大統領選で共和党のトランプ氏が優勢なことを受けて、財務省と金融庁、日本銀行は2016年11月9日15時すぎから緊急会合を開催。東京金融市場で、急激な円高・株安となっていることから、対応を協議している。

「為替介入するかどうかを判断するためで、市場への『けん制球』の役割があります」(藤代氏)とみている。