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●年々、丸くなっている
多くのTV番組やライブで活躍する、お笑い芸人のケンドーコバヤシさん。漫画好きで知られるケンコバさんが、読んできた漫画から学んだ美学についてまとめた著書『「美学」さえあれば、人は強くなれる』(幻冬舎/税別1,100円)を上梓した。今回は、漫画からも影響を受けた? ケンコバさんの仕事観についてお話を伺った。

○怒りの感情が消えつつある

――『「美学」さえあれば、人は強くなれる』には、たくさんの漫画のキャラクターから得た教訓が書かれてましたが、漫画の中から学んで、若い時と今とで、変わった部分、良くなった部分は実際にありますか?

本を作っている時期から比べても、かなり丸くなってきたと思いますね。この本読み返してみても、「俺って、とがってたんだな」って思いましたからね。年々丸みを帯びてきてますね。でも、最近、怒りの感情が消えつつあることに、怯えすら感じつつあるというか。

――芸人さんのトークとかも、怒りがベースになっていることってありますもんね

そうなんです。怒りって、いろんなことの原動力になるじゃないですか。

――その代わり出てきたものってありますか?

怒りを発散するっていう意味での芸人としての魅力は減ったかもしれないけど、優しい人にはなりましたよ。僕は以前は、泣かない、泣けない人だったんですど、最近は映画館で嗚咽するくらいに泣いたりするようになりました。

――実際、何の映画で泣きましたか?

ちょっと前になりますけど、宮崎駿監督の『風立ちぬ』で泣きましたね。僕が泣いたのは、一番バッシングされたシーンだったんです。堀越二郎が妻の菜穂子の横で、タバコを吸うシーンだったんですけど。二郎が「体に悪いから向こうに行って吸うよ」というのに、菜穂子は「横で吸っていいよ」とうところで嗚咽したんです。

――病気の妻に対しては酷いと思うけれど、恋愛感情がそこから強く感じられるという矛盾をはらんだシーンでしたね。なかなか説明しきれないので、言いにくいですけど

僕は公に言ってますけどね。

――ケンコバさんだから言っても大丈夫みたいな発言もけっこうありそうですね

我ながらずるいなとは思いますけどね。この人、おかしいみたいになってしまうと、腫れものにさわるみたいな感じになって、あまり突っ込まれなくなったりはありますからね。

――ただ、こうしてお話を聞いていると、おかしいようでいて実はモラリストみたいな感じもあって

僕ほどモラリストはいないですよ。モラリストであり、リベラリストであり(笑)。矛盾した存在なんですよ。

○心に残るさんまさんの言葉

――吉本の若手のときには、劇場で人気投票があって、「女子高生の支持がなければ、スタートラインにも立てない」と書いてありましたが、どうやってそこを突破されたんですか?

力ずくで笑わすしかなかったんじゃないですかね。ネタが始まって最初の一分なんか地獄みたいな空気だったけど、結果残ったということは、投票も得たってことですからね。あの頃は、悪い意味でとがってたんで、恥ずかしいですよね。自分でも獰猛な顔つきしてたと思いますもんね。でも、若手のときってのはそういうもんで、今、そういう若手がいるなら、それもいいと思いますけどね。

――ケンコバさんは、若手のときに、とがった自分を認めてくれた先輩っていましたか?

上のかたみんなそんな感じでしたよ、「それでいいんちゃうか」って。

――実際に、励まされた言葉ってありますか?

僕が直接言われたわけではないんですけど、(明石家)さんまさんが言うてはった、「どんなにタイミングの差があっても、おもしろい奴は続けている限り、あきらめない限り、ぜったいにいける」という趣旨の言葉には救われましたね。

●拗ねないでいられることは大事
○筋道を見つけること

――本の中にも書いてありましたけど、ケンコバさんは決して早く成功したわけじゃなかったということでしたよね。でも、その一方で、「筋道を見つけるのが異様に得意」とも書かれてました

若手のときに、女性からの投票をなんとか得たのも、そこかもしれないですよね。要領がよかったんですよね。よく考えたら、投票のあるリーグ戦のときは、普段とはネタの雰囲気を変えて、女性に受けるネタを書いてました。だから、なぜかリーグ戦になると勝つみたいなことにはなってました。

――でも、そこで苦労する芸人さんもいるわけで、女性に受けるネタを書こうと思えば書けたってことですか?

女性を笑わせるなんて、簡単なことなんですよ(笑)。

――そこには自信があったと。とはいえ、「同期でいちばん売れるのが遅かった」「1人で長らくくすぶっていた」という時期があったということですけど、腐ったときはなかったんですか?

そうですね、なんか拗ねてた感じは記憶にないですね。状況的には拗ねてもおかしくない感じはあったんですけどね。でも、僕は子供の頃から、あんまり拗ねない子だったんですよ。嫌な子供だったと思いますよ、怒られて押入れに閉じ込められたりしても、先に枕とか仕込んどいて押入れを快適な空間にしてましたからね。

――なんで拗ねないでいられたんだと思いますか?

極端な話、小学校のときに、ケンカで負けることがなかったというのが大きいですかね。同学年で腕力だけは強かったんですよ。

――それで、悪い方向に力を使うという方向にはいかなかったんですか?

そうなったら笑ってくれなくなくなりますからね。小さいときから、笑ってもらうことが本当に好きだったんですよ。赤ちゃんときにも、うっすら記憶ありますからね、親戚が集まってるところで、これ口に入れたら笑ってもらえそうやなって思った記憶が(笑)。

○月亭八方師匠から影響

――人に笑ってもらいたいというモチベーションがあるから、力は強かったけど、それを振りかざなかったということですか

これは、月亭八方師匠が言われてたんですけど「この世界で売れるヤツなんて、運を拾うしかない」って。実際ぼくもそうやと思うんです。でも、どうやって運を拾うかっていうと、「人が良くないと拾えない」と言うんですね。すごいこと言うなー、なるほどなーって思って。僕が、大事にしてる言葉や格言の中には、八方師匠のお言葉って多いですね。

――ほかにも八方師匠の言葉で影響受けたものってありますか?

「壁があらわれたら迂回しろ」というのがありますね。しかも、迂回したほうが違う事件に出会える可能性もあるって。これも、すごい深い言葉で、かっこいいなと思いましたね。

――この本の中にも似たような話がありましたね。『蒼天航路』の中の、「退路を断ちつつ、退路を考える」という言葉でした。「退路を断ったと見せかけて、退路を考えながら進むのが面白い」と

そうですね。以前は壁があったら乗り越えようと考えがちだったけど、その言葉を聞いて単に乗り越えないでいいんだと、考え方が変わりましたね。

『「美学」さえあれば、人は強くなれる マンガのヒーローたちが僕に教えてくれたこと』(幻冬舎/税別1,100円)
ケンドーコバヤシ著。

人生に大切なことは、すべてマンガのヒーローが教えてくれた。ドラえもんも、キン肉マンも、ジョジョも、桜木花道も……。いつも、完璧なわけじゃない。いざ、という時だけ人は強くあればいい。その変身のスイッチが、美学である。
「最初は負けていたほうが人生は美味しい」「バカになりきれ」「中身はなくても器を作れ」「想像力の使い方で人生は変わる」「強くなければ、優しくなれない」「人間は未完成なほうが面白い」「ルール違反の成功は続かない」「憎きを憎きとして討たず」――人生に大切なことは全てマンガのヒーローが教えてくれる。

(西森路代)