全日本選手権、プレミアリーグを制し、黒鷲旗で史上2チーム目の3冠に挑むJTサンダーズの主将・越川優

写真拡大

現在、黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会が開幕中。

全日本選手権、プレミアリーグを制し、史上2チーム目の3冠に挑むJTサンダーズの主将・越川優に、3冠にかける意気込み、そしてバレーボール、さらに五輪への熱い想いまでをロングインタビューで聞いた――。

* * *

―今日は、よろしくお願いします。

越川 時々ですけど『週刊プレイボーイ』読んでます。かなり好きです(笑)。

―ありがとうございます! では、初優勝となった今季のプレミアリーグから振り返っていただこうと思いますが、まずはJTに移籍した経緯から教えてください。

越川 北京オリンピック後、僕はイタリアで3シーズン、プレーして2012年に帰国、サントリーでプレーしました。シーズン後、JTから「優勝のために力を貸してくれ」とオファーをいただき「チャレンジしてみよう」と昨シーズンからJTに加入したんです。

―加入直後から助っ人外国人選手にも「最後までボールを追え」とガンガン注意をしたそうですね。

越川 はい(笑)。昨シーズンはイゴール(・オムルチェン/クロアチア)という世界的な選手がいたんですが、彼にも遠慮せずガンガン言いました。彼もイタリアリーグでプレーをしていたんで、スゴさを一番知っている自信があったんです。だから「もっとできるだろ。イタリアにいた時は、もっとスゴかっただろ」って話しかけて。

最初は「は!?」って態度だったですけど、練習後に何度も話をして「いろいろ事情はあったかもしれない。でも自分で選んで、このチーム来たんでしょ? 勝たなかったら選手として評価が下がるだけだよ」って。「おまえは特別じゃない。チームを勝たせるために呼ばれた一選手でしかない。ただ、おまえがやれば、みんなが変わるし、それでチームが変わるんだ」って伝えましたね。

―ちなみに何語で会話したんですか?

越川 イタリア語です。

―言語はもちろん、イタリアでのプレー経験があったからこそ外国人選手にも物怖じせず言えた?

越川 そうですね。特別扱いするのもわかる。でも、僕自身も外国人選手として海外でプレーした経験があるんで。結果を出さなければ切られることを、身をもって知っているんで。だから新人にも外国人選手にも、誰にでもバンバン言ってました。

―加入2年目の今シーズンは、キャプテンに任命されましたよね。

越川 一度は断ったんですけどね。監督に「勝つためにおまえがやるのがベストだ」と言われ引き受けました。

―そして見事、創部84年という名門の悲願であるリーグ初優勝を飾りました。

越川 昨シーズン、僕が口うるさく細かいことや戦う姿勢について言った時は「なんで、そんなに言うんだろう?」って思っていた若手もいたと思うんです。リーグと黒鷲旗で共に2位という結果に終わったんですけど、そこで、やれば結果がついてくること、でもまだ頂点までは足りないことがわかったと思うんです。

だから、今季はみんな目の色が変わってましたね。天皇杯で勝てたことが自信にも繋がって、試合を重ねるごとに勝つために今、何が必要かということをひとりひとりが理解しながらコートに立ったことが大きいと思います。

―プレーオフ決勝の対戦相手は古巣のサントリーでした。第1セットは41-39までもつれましたね。

越川 たぶん、僕のバレー人生最長だったと思います。

―11回セットポイントを握られながら、最後はセットを奪えたのは?

越川 なんだったんですかねえ(笑)。でも、終わって冷静になって考えると、ムチャクチャ楽しかったんです。チームメイトもそうだったと思います。セットポイント握られ、取り返して、握られて…。

本当はすごいプレッシャーがかかっていたし、しんどかったんですけど、自然と笑みがこぼれそうになるというか。長いリーグを戦い抜いて、決勝でこういうゲームができているという充実感がありましたね。喜びが大きかったですし、競ってはいるけど負ける気はしなかったです。

―第3セット、試合を決めたのは越川選手のサービスエースでした。

越川 チームメイトの小澤(翔)が、この試合を最後に引退することが決まっていたので「小澤に決めさせたいな」って思いがあったんですけどね。サーブで崩して戻ってきて、小澤に気持ちよく決めさせたいなと思ったらエースになっちゃいました。程よく力が抜けたのが、いいサーブに繋がったのかな。

―そして黒鷲旗では史上2チーム目の3冠に挑むことになりますが?

越川 3冠を狙うというより、気持ちをリセットして黒鷲旗というひとつの大会に挑む感じですね。一戦、一戦という気持ちが強いです。その結果が3冠ということになればなと。

それに是が非でも3冠取らなきゃってプレッシャーもないんです。そもそもダントツで天皇杯、リーグを優勝したわけじゃないんで、気負う必要もないだろうと。若い選手も多いんで、一戦、一戦がチャレンジです。王者だからって気持ちは、まったくないです。

―個人的なこともお聞きしますが、30歳という年齢はどう考えていますか?

越川 特に気にしていないというか、もっともっと伸ばしたいとも、もう限界だとも考えてないんですよね。今、できることをやり続けるだけというか。もちろん、いつか身体能力は落ちていくでしょう。でも、それがどれくらい先なのかわかんないんで。

もちろん20代の半ばと比べれば正直、ケガの回復や疲労が抜けるのに時間がかかったりはするけど、バレーボールという競技者としての能力が落ちているとは感じません。ウェイトトレーニングにしても上げられる重さはまだまだ上がっていますし。しっかり体のケアをしていかなければって意識は上がってますけどね。

―実際、今季のプレミアリーグの最高殊勲賞とベスト6を受賞していますよね。

越川 ありがたいですね。

―世界的には今、何歳くらいまで現役を続ける選手が多いんでしょう?

越川 たぶん、30歳半ばでしょうね。もちろん30代後半までやる選手も稀(まれ)にいますし、セッターとリベロはもう少し長いかもしれません。でもアタッカーは30歳前半から半ばじゃないですか。

―越川選手はイタリア時代にリベロもやりましたよね?

越川 リベロに対する考え方が違うんですよね、日本とは。向こうは、大きい選手を使ってコートに穴を作らないということが優先され、日本では純粋なディフェンス力、サーブレシーブ力が問われるんで。根本的な考え方が違うんです。

―選手生命を伸ばすためにリベロ転向は考えない?

越川 日本で僕のディフェンス力じゃ、リベロにはなれないです(笑)。僕にはアタッカーしかあり得ない。もしも海外のチームからリベロでというオファーがあったら受けるかもしれませんけど。国内のチーム、そして日本代表なら僕はリベロでは選ばれないですし、選ばれたいとも思わない。僕はアタッカーです。

―では逆に、何歳までプレーしたいという目標は?

越川 来年のリオ五輪がひとつの区切りだとは思ってます。そこでやめるという意味ではなくて、本気でオリンピックにチャレンジできるのはひとまずリオまでかなと。

―東京オリンピックは意識しませんか?

越川 もちろん母国でオリンピックが開催されるというのは、今までオリンピックを目指しやってきた者にとって嬉しいことです。ただ、その時、僕は36歳。東京のことを今から考えるより、まずはリオという思いが強いですね。

―荻野正二(現サントリー・アドバイザー)さんは、38歳で北京オリンピックに出場していますよね。

越川 そうですね。荻野さんも一時期、代表に呼ばれない時期があって、34歳のタイミングで一緒にプレーしていた植田(辰哉)さんに「力を貸してくれ」と言われて火がつき「4年間頑張れた」と言っていました。リオの後、もし僕が必要とされるのであれば、それがどういう形でも、選手だろうとスタッフだろうと、持てる全てを捧げようとは思っています。

ただ僕の考えとしては、代表というのは選ばれなければプレーできない場所。日の丸を背負いたいと思ったからって背負えるものではない。スゴい特別な神聖な場所だと思ってます。

―では、高校時代から13年間、代表に呼ばれ続けていましたが、先月発表された、今年の日本代表登録選手の中に名前がなかったことはどう思っていますか? そもそも、どうやって知らされたんでしょう?

越川 自チームのGMから伝えられました。GMに呼ばれた瞬間、「何かあるな」って雰囲気を感じたんです。「代表のキャプテンを外されたりしたかな?」って。そしたら、今年の全日本候補のリストに入っていないことを伝えられました。もちろん、「なんでだろう?」って疑問はありましたけど、意外と割り切るのも早かったです。「辞退したの?」って聞かれたりもしますが、それはまったくありません。

―ヤケ酒したりしませんでした?

越川 僕、そもそもお酒飲めないんで(笑)。

―怒りや落胆といった感情は?

越川 GMの方が僕よりも怒ってて(笑)。「理由は教えていただけませんか?」と協会サイドに聞いてくださったそうで。でも「外した選手に外した理由を伝えることはありません」ということだったらしいです。

受け入れるしかないですし、思う部分は正直ありますけど、現状入ってないんで、何を言ってもしょうがない。何か言って入れるわけでもないし。選ばれた者だけが日の丸を背負って戦う権利を持つんです。リストに入っていない以上、あーだこーだ言っても始まらない。だったら今、自分ができることをやったほうがいい。

―なるほど。

越川 リオオリンピックに出られるチャンスがなくなったわけではないんで。勝負は、本番は来年だと思ってますから。だからマイナスの考えも感情も自分の中には一切ないんです。もちろん、これが来年だったらもっと感情的になったり取り乱したかもしれない。でも僕は去年、代表のキャプテンもやらせてもらっているんで南部(正司)監督を信用しています。なんらかの意図、理由があるんだろうなと。

―ずっと選ばれてきたのに、理不尽だとは思わない、と。

越川 去年まで呼ばれていたから今年も、なんて場所じゃない。日の丸を背負うって、そんな軽いことじゃないんで。

―では、南部監督が「次世代の日本代表の中心選手になるという責任感を持ってもらう」と石川祐希(19)、柳田将洋(22)、高橋健太郎(20)、山内晶大(21)の4人を“NEXT4”と名付けたことはどう思います?

越川 もちろん、まだまだこれからの選手たちですが可能性を感じますね。

―それはどういった部分で?

越川 昨年、柳田、山内、石川の3人とは代表で一緒にプレーし、高橋とは合宿で一緒でした。4人とも間違いなくムチャクチャ能力は高いです。男子バレー界において、日本は世界と比べると体格や身体能力的で劣っている部分があります。それは以前からだったんですが、近年はそこを補っていた部分においても各国の成長に置いていかれている部分が正直あると感じます。

でも、NEXT4の4人に関しては、どう花咲いていくかはこれからですが、諸外国との間にある壁を打開してくれそうな可能性を感じます。特別な物を感じますし、今までの選手以上にギラギラしたものも感じます。

―ギラギラしたもの? 

越川 4人は、東京オリンピックを見てないんだと思うんです。

―どういうことですか?

越川 彼らは今しか見ていない。だからギラギラして見えるんです。彼らの前の世代は、東京オリンピックが決まった時、これは僕の個人的な意見ですが、少なからず「あ、自分たちが東京オリンピックでメインになる世代だ」って思ったと思うんです。キャリアの全盛期をそこに合わせよう、東京で一人前になっていようって考えてるんだろうなと、去年一緒にやっていて感じたんです。

でも、NEXT4はそんなこと一切考えていない。「今、代表でプレーしたい」「今、活躍したい」、それだけしか考えていない。だからギラギラしてるって感じるんです。自分と比べて申し訳ないですけど、僕は代表に対する想いって人一倍強かった。

子供の頃、中垣内(祐一)さん、青山(繁)さん、荻野さんたちのバルセロナ世代を見て育ったんで。日の丸を背負うことへの憧れがスゴい強かったんです。初めて代表に選んでいただいた時、10代で一番年下でしたけど、僕は「20代にも30代にも負けたくない」と思ってやってましたから。

―NEXT4には同じ匂いを感じる?

越川 はい。厳密に言えば4人、それぞれ違いますけどね。柳田は日本代表にずっと憧れを持っていたんで、僕と似ています。でも山内は高校生からバレーを始めてるんで「まさか自分が?」って最初は戸惑ったと思うんです。それが1年間、日の丸を背負って「自分がやらなければ」に変わった。

石川は高校時代、2年連続3冠を取ってるんですけど、代表には興味がなかった。目の前のことに集中するタイプで、代表の試合をほとんど見たことなかったらしいです。それが世界のトップクラスを肌で知り、誰よりも高いレベルでプレーすることを欲している。高橋にも気持ちの強さを感じます。それぞれが“今、代表でがんばりたい理由”と“責任感”を持っている。彼らは男子バレー界にとって本当にプラスになっていると思います。

―とはいえ、負ける気はないですよね?

越川 負けないです。いつか、彼らが代表の中心になっていくのは間違いないでしょう。でも負けるとは思いません。彼らが描く成長曲線がどれだけ急激に上昇しようと。

―ベテランにも何かユニット名をつけた方がいいかもしれないですね。

越川 ハハハハハ。いいですね“GG(ジージー)4”とかですかねえ(笑)。

―週プレ的な話題もお聞きしようと思うんですが(笑)、清水邦広選手と中島美嘉さんの結婚は驚きました?

越川 いや別に(笑)。合宿の時とか、清水はいろいろな話をしてくれてたんで、知ってましたから。よかったなって。ただ、清水の結婚に関わらず、いちバレーボーラーとしてというか、競技とプライベートを一緒にされて報道されることには少し違和感のようなものがあって。もちろん、アスリートは何してもいいってことではないです。上手く伝わるといいんですけど、純粋にアスリートとして評価してほしいんです。

―なるほど。

越川 去年、男子バレーで写真集を出したんですけど、僕以外の選手は上半身裸の写真を撮ったんです。僕はバストアップの写真だけで脱がなくて。

―なぜですか?

越川 アスリートの肉体を見て「すごいな」って思ってもらえる部分はあると思うんで、それはわかります。でも、僕は自分の肉体を見せてファンになってはほしくないというか。バレーボールという競技を見て、僕のプレーを見て、こういうインタビューで僕がバレーというものをどう考えているのか聞いてもらって、興味を持ってもらえるのが理想だなと思っているんです。だから、絶対脱がないって決めてて。

―アスリートは裸ではなく、あくまでプレーで語るべきだと。

越川 はい。もちろん、バレーボールのためにできることはなんでもしたいですし、どんどん使ってほしい。競技としての魅力をもっと多くの人に伝えたいって想いがあります。同時にいち競技として、いちアスリートとして興味を持ってほしいなって部分もあるんです。

だから、まだ観戦されたことがない人は一度でいいので会場に足を運んでいただけたらと思います。必ずバレーボールの面白さが伝わるプレーをしますんで。

(取材・文/水野光博 撮影/作田祥一)

越川優(JTサンダーズ)

1984年生まれ、石川県金沢市出身。岡谷工業高校時に男子では高校生として初の全日本代表入り。2003年にサントリーサンバーズ入団。09年からイタリアのセリエB、12年にはセリエAにてプレー。同年7月にサンパーズ復帰後、翌シーズンからサンダーズに移籍。今年は主将を務め、チームを悲願の優勝へ導く