折り返し乗車について、きっぷがないと不正であること、あっても一度下車し列に並ぶよう呼びかけるポスター(京浜東北線大宮駅にて2014年10月26日、恵知仁撮影)。

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横浜高速鉄道(みなとみらい線)が始めた不正な「折り返し乗車」を防止するキャンペーンについて、「不正だとは知らなかった」という声が上がっています。知らず知らずに不正乗車していること、ほかにもあるかもしれません。

1銭も入ってこない横浜高速鉄道

 2014年10月20日(月)から横浜高速鉄道(みなとみらい線)で、特に「折り返し乗車」に焦点が定められた「不正乗車防止集中キャンペーン」が始まりました。

 不正な「折り返し乗車」について説明すると、例えば横浜駅から渋谷駅まで東急東横線で行く人がいたとします。持っている定期券も東急東横線の横浜〜渋谷間です。しかし朝、座って行きたいからと横浜駅から逆方向の列車に乗り、列車始発駅であるみなとみらい線の元町・中華街駅まで乗車。そこで改札を出ることなく、折り返し同駅始発の渋谷行きに乗る、という不正乗車です。路線の概略図を以下に記します。

元町・中華街《横浜高速鉄道みなとみらい線》横浜《東急東横線》渋谷
※横浜高速鉄道と東急は直通運転を実施

 この場合、持っている定期券が「元町・中華街〜渋谷」であれば不正乗車にはなりません。しかし同様の行為はこの横浜高速鉄道に限らず、全国の各線で見られます。不正だと知りながら行っている人もいれば、「入った駅から出る駅までの正しいきっぷがあれば、不正になるとは思わなかった」という人もいるようです。

 今回キャンペーンを開始した横浜高速鉄道は、この問題が特に切実です。横浜駅から渋谷駅まで東急区間だけの定期券を持った人が元町・中華街駅まで不正な折り返し乗車をした場合、完全に横浜高速鉄道についてはタダ乗りになってしまいます。

意外と知られていない不正乗車の例

 知らず知らずのうちに不正乗車をしていたというケース、意外とあるかもしれません。

 例えば次のような路線があり、快速列車はA駅を出るとC駅まで停まらないとします。

A駅〜B駅〜C駅

 そしてA駅からB駅まで行くにあたり、いったんC駅まで快速で行き、そこからB駅へ戻ったほうが早いので、そうしたとします。

 この場合、A駅からB駅までの運賃しか払っていなければ不正乗車です。正しくは、A駅〜C駅の運賃とC駅〜B駅の運賃を払わねばなりません。定期券の場合、A駅〜B駅間ではなくA駅〜C駅間の定期券が必要です。

 鉄道のきっぷはルールが複雑で、場所や会社によって変わったり、例外が設けられていることも多いのですが、同じ区間を2回通ることは基本的に不正乗車になると考えるとよいでしょう。

 ただ、例えば寝台特急「北斗星」は青森駅から五稜郭駅を通り函館駅に到着。進行方向を逆にして再び五稜郭駅を通り、札幌駅へ向かいます。この場合、五稜郭〜函館間が重複乗車になりますが、列車運行の都合なので不正にならない、といった特例が設けられていることもあります。

 不正乗車に対する措置として、JRでは旅客営業規則第264条によって「当該旅客の乗車駅からの区間に対する普通旅客運賃と、その2倍に相当する額の増運賃とをあわせ収受する」とされています。つまり正規運賃の3倍が請求されるわけです。

 ちなみにヨーロッパなどでは駅に改札口がなく、列車から降りる際も乗務員によるきっぷのチェックがない、というスタイルがよく見られます。「信用乗車方式」と呼ばれるもので、客は必ず事前に正しいきっぷを購入してから乗車せねばなりません。タダ乗りし放題に見えるかもしれませんが、抜き打ちで検査が行われ、もし正しいきっぷを持っていなければ高額の罰金が請求されます。

定期券の不正乗車は100万円以上の請求も

 定期券でも、知らないうちに不正乗車になっているかもしれません。

 JRの定期券は、そこへ記された経路通りにしか乗車することができません。そのため例えば東京駅から新宿駅まで中央線経由の定期券を持っているのに、東京駅から新宿駅まで山手線で行ったら不正乗車になります。ただ、例えば赤羽〜大宮間を含む定期券の場合、埼京線経由でも東北本線(宇都宮線・高崎線・京浜東北線)経由でもOKという特例が設けられていることもあります。

 定期券の貸し借りについても、知らない人がいるかもしれません。持っている人が使える「持参人式定期券」などを除き、定期券の貸し借りはたとえ家族間であっても不正乗車です。

 定期券の不正乗車は発覚と同時にその定期券が無効になるほか、その定期券の有効開始日から不正乗車の発見当日まで記載区間を毎日1往復乗車した場合の運賃と、その2倍の増運賃が請求されるため、支払いが高額になることが珍しくありません。

 2007年に長野県のJR飯田線で発生した、他人名義の期限切れ定期券を10ヶ月使った元女子高校生のケースでは、正規の往復運賃が1300円、発覚までの日数が317日で41万2100円になり、そこへ2倍の増運賃82万4200円が加わって合計123万6300円が請求されました。

 また2006年、複数の日本大学運動部員が不正な定期券でJR線や京王線に乗車していたことが発覚。日本大学側が642万円を支払い、不正を行っていた運動部はしばらく公式戦出場を辞退したということもありました。

 不正乗車は軽い気持ちからやってしまう人が多いかもしれませんが、してはいけないのは当然として、このように金銭的にも社会的にも大きな罰を受けることがあります。子供のうちから、不正乗車に対する理解を深めさせていく取り組みが必要なのかもしれません。