『別冊野球太郎 プロ野球[呪い]のハンドブック 2014年球春号』廣済堂出版
プロ野球の魅力を「呪い」という視点から見出そうとの趣旨でまとめられた一冊。セ・パ12球団の2014年シーズンの戦力データも充実、ペナントレースを予想する上でも大いに役立ちそうだ。帯には各チームの呪いとして「西武 内弁慶の呪い」「ロッテ お見合いの呪い」「ソフトバンク 高年俸助っ人の呪い」「広島 開幕4番の呪い」「中日 高齢化の呪い」「DeNA バットが折れる呪い」「ヤクルト 交流戦の呪い」が並ぶが、さて今シーズン、これら呪いは解かれるのか!?

写真拡大

いよいよ来週金曜に迫ったプロ野球開幕。それを前に、プロ野球の選手名鑑やデータブックの類いが各社から刊行されているが、一風変わった本が廣済堂出版から出た。『別冊野球太郎 プロ野球[呪い]のハンドブック 2014年球春号』がそれだ(なお、廣済堂からはやはり「別冊野球太郎」の1冊として選手名鑑も出ている)。

野球と呪いというと、米メジャーリーグの「バンビーノの呪い」などが思い浮かぶ。これは、名門チームのボストン・レッドソックスが1920年、かのベーブ・ルースを球団の負債の肩代わりにニューヨーク・ヤンキースにトレードして以降、じつに80年以上にわたってワールドシリーズ制覇から遠ざかったことから、ルースの愛称のバンビーノからそう呼ばれたものだ。ひるがえって現代の日本のプロ野球にもさまざまな呪いがつきもの(憑き物?)である。この本は、そんな呪いという視点から、NPB12球団の2014年シーズンの戦力分析をはじめ、過去の記録、さらにはゲームの読み方を紹介する。

私は中日ドラゴンズのファンなので、本書を手に取ったときも真っ先にドラゴンズを分析するページを開いた。驚いたのは、昨シーズンのドラゴンズが本拠地・ナゴヤドームでの試合で29勝38敗1分と負け越していること(勝率は.433)。逆にセ・リーグの他球団で、ナゴヤドームで負け越したチームはなかった。長らくドラゴンズはホームで負け知らず、他球団にとっては呪いとなっていた“ナゴヤドーム神話”がここへ来て崩壊寸前というわけだ。昨シーズンは12年ぶりのBクラス(4位)に沈んだドラゴンズ、今年、谷繁元信・新監督のもとでAクラス復帰を目指すには、《もう一度、地の利を生かすことが絶対条件となる》という一文に深くうなづかされる。

球場がらみの呪いはドラゴンズばかりではない。本書第2章「プロ野球[呪い]の記録集」のうち「チーム編 スタジアムの鬼門」という記事では、昨季パ・リーグ3位の千葉ロッテマリーンズの例がとりあげられている。それによれば、マリーンズは昨シーズン、優勝した東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地・クリネックススタジアム宮城(Kスタ宮城)と2位の埼玉西武ライオンズの本拠地・西武ドームで大きく負け越している。とくにKスタ宮城での成績はさんざんで、勝率.167に終わった。

もっとも、Kスタ宮城に改称される前の「フルキャストスタジアム宮城」時代(2005〜07年)には、マリーンズは同球場で勝率.724と大きく勝ち越している。それが2008年にKスタ宮城に名称が変更されてからというもの、5年間で勝率.317と急降下。記事にあるとおり、《球場名が「楽天Koboスタジアム宮城」に変更されて迎えるシーズンは果たしてどうなる》のか、気になるところだ。

本書にはプレイそのものに関する呪いも当然たくさん出てくる。たとえばトンネル。これは言うまでもなく、守りについた野手がゴロを捕りそこなって、ボールを股のあいだに通過させて逃してしまう失策だが、プロの、それも1軍の試合ではめったに見られるものではない。それでも昨年のNPB公式戦では20回のトンネルが発生した。

その内訳を見ると、トンネルした選手の数は20名ではなく19名、つまり2回もやらかした選手がいる。その選手とはドラゴンズのルナ(石原さとみ似と評判)だ。1回目は4月21日の横浜スタジアムでの対ベイスターズ戦、2回目は7月3日の本拠地・ナゴヤドームでの対カープ戦。後者の試合では、8回1死一塁の場面で菊池涼介がサード正面へ放った強い打球が、ルナの股間をきれいに抜けていった。

《そう、きれいなのだ。滅多に観られないプロのトンネルは、貴重かつきれいなものである。ゴロをグラブではじく、フライを落球する、はたまた悪送球になる、そういったエラーに比べたら、トンネルというエラーはよほどきれいで美しい》

この記事の執筆者は、《貴重できれいで美しいという意味において、「トンネルは芸術的な失策」といえるのではないか》とまで書いている。そんなふうに言われると、トンネルを見たくなってくるから不思議だ。ちなみにトンネルは、屋外の天然芝球場で発生することが比較的多いという。事実、昨季でいえば最多のマツダスタジアムで4回、ほっともっと神戸で3回、甲子園球場では東京ドームと並び2回生じている。となると、トンネルの原因には芝のコンディションやら天候やら、選手にはどうにもならない部分もいくぶんかはあるのかもしれない。

思えばプロ野球における呪いとは、選手がふいに弱みをあらわにしたところへ、人の手ではどうにもならない条件が合わさって生じるものが多いような気がする。言い方を変えるなら、そんなどうにもならなさそうなものに人間がぶち当たるときにこそ(それに対し克服する、挫折するとにかかわらず)、人々を魅了するドラマが生まれるのではないか。今年もまた魅力あふれるプレイが見られることを祈って、まずはプロ野球開幕、祝ってやる!

『別冊野球太郎 プロ野球[呪い]のハンドブック 2014年球春号』目次
*第1章 [呪い]だらけのプロ野球12球団観戦ガイド 〜「呪い」視点で球団の戦力を分析してみた!
*第2章 プロ野球[呪い]の記録集 〜“残念な記録”やジンクスからプロ野球を愛でる!
*第3章 特別講義[呪い]のゲームリーディング 〜「呪い」視点でゲームを読み解く方法を公開!
*カープ芸人・アンガールズインタビュー
(近藤正高)