「舞台『弱虫ペダル』インターハイ篇The Second Order」は、3月13日より東京、埼玉、大阪にて順次、計17公演を予定。
(C) 渡辺航(週刊少年チャンピオン)2008
(C)渡辺航(週刊少年チャンピオン)/マーベラスAQL、ディー・バイ・エル・クリエイション、イープラス

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『週刊少年チャンピオン』連載中で、現在アニメ放送中の『弱虫ペダル』。

気弱でアニメオタクの主人公が、ママチャリで毎週千葉から秋葉原まで通っているうちに、「自転車」の才能を見出され、自転車競技部で才能を開花させていくというストーリーだ。

人気漫画ということは知っていたが、個人的にその面白さを知ったのは、アニメ放送から。しかも、この作品、実はアニメより先に舞台化されていて、すでに2シーズン終了&DVD化もされていることを最近知った。舞台で自転車って、どうやって表現するのか。実際にDVDを観てみたところ、そこには想像を絶する世界が繰り広げられていた。

まず気になった、自転車のレースシーンの表現。固定自転車にまたがり、スクリーンで背景を高速で流していくようなものをイメージしていたが、実際に登場したのは、「ハンドルだけを握った人たち」。主人公は、ママチャリのカゴがついたハンドルを持っている。スクリーンの映像などは一切使用せずに、出演者たちはみんな中腰&その場で足踏みし、「疾走」感を表現しているのだ。

最初はギャグかと思った。でも、これが不思議と途中から違和感なく、それどころか、かなりの迫力に見えてくる。この姿勢・動きだけでもかなりハードだろうに、ごく少人数の出演者で、一人何役も演じたり、黒子もやったりしている。

しかも、セットは「段差」「スロープ」「宙に釣った自転車」だけ。「集団」の中でも一人一人のペダリングが違ったり、追い抜いたり追い抜かれたり、回送車に乗った先輩たちは、ハンドルを握る運転席の傍らで微妙に身体を揺らして表現したりと、非常に芸が細かい。

役者さんたちの声と表情・動き、肉体のみですべてを表現しているのだ。そして、それを可能にしているのは、役者さんたちの技量と、斬新な「演出」だ。多数のカメラを駆使した映画『マトリックス』のような視覚効果を、この舞台では、役者さんたち自身が動くことで360度から見せている。「自前マトリックス方式」のようでもある。余計なものをすべて排除することで、聴覚と想像力を研ぎ澄まして観る舞台は、とにかく新鮮で、描かれる物語は実に熱く、気づいたら夢中になっていた。

それにしても、なぜ『弱虫ペダル』を舞台の題材に選んだのだろうか。改めて聞いてみた。
「もともと舞台化を考えていたわけではなく、一読者として『非常に熱い作品だな』と思って愛読しておりましたが、演出家の西田シャトナーさんと出会い、西田氏の豊かなアイディアを伺って『これが実現したら絶対に面白いことになるぞ』と確信し、1年掛かりで会社を説得して、実現することができました」(株式会社マーベラスAQL担当者)

また、演出家・西田シャトナーさんは、舞台『弱虫ペダル』の演出をすることになった当時の気持ちについて、こう話す。
「ずっと少年チャンピオン読者で、この作品は連載開始から大好きでした。主人公の孤独や友達への憧れは、自分の物語だと感じていました。また、私はもともと『レース』を舞台で表現する技術について研究してきたこともあり、 プロデューサーから舞台化に興味あるかと聞かれた時、つい、『僕にしかやれない』と答えました。偶然、池袋から秋葉原まで、毎日自転車で移動して仕事をしていた時期でした。運命だと思いました」

自転車を舞台でどのように表現しようとしたのかと聞くと……。
「自転車を表現するのではなく、自転車に乗る人間の躍動や心の動きを徹底的に演じることです。カメラワークに似た集団フォーメーションによって、レースの様子を様々な角度で演じていますが、実はそれも、自転車ではなく選手たちの躍動の表現に役だっています。『レース』は、人間が競って初めて『レース』になるのです。心がけとして、観客の心に出現した自転車に乗る、そんな感じで演出しています」(西田シャトナーさん)

計算し尽くされた細やかかつ斬新な演出と、鍛え上げられた役者さんたちの技量があれば、派手なセットや装置なんて要らない。それを痛感する見事な舞台だった。
(田幸和歌子)