ボルトボルズの河口哲さん(左)、弓川信男さん(右)

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舞台上には白衣を着た男性二人組。次々と行われる不思議で楽しい科学実験に、子どもたちはすっかり夢中だ。二人が実験の手伝いを頼むと、ほどんどの子どもたちがキラキラと目を輝かせて元気に「ハイ! 」と、手をあげる。
実験に喜んでいるのは子どもだけではない。付き添いの親やおばあちゃんらまでもが「へぇ〜! 」と驚き、童心に返って大笑いする科学ショーなのだ。それにしてもあっという間に子どもたちの心をつかむこのコンビ……。いつもは何を見ても「普通」と言うそっけない姪っ子が、前のめりで無我夢中。
いじられたりボケたり突っ込んだりと面白すぎる彼らは、松竹芸能所属の漫才師「ボルトボルズ」だ。

「僕たちのこと知ってる人?」というツッコミの河口哲さんの質問に、「知らん〜」と答えた子どもたち。「ポケモンの声をやってます! 」とボケる弓川信男さん。まずは、子どもたちの緊張を解きほぐし心をつかむ漫才からスタートする。

芸歴13年のボルトボルズはワッハ上方大賞などの漫才コンテストで大賞、昨年の関西演芸しゃべくり話芸大賞ではグランプリ受賞など数々の賞を獲得。2013年はNHK「オンバト+」に初挑戦し、1位で初オンエアを獲得するなど、漫才・話芸ともに実力派の漫才師。そんな彼らがどうして科学ショー?

きっかけは、約6年前の「実験ができるコンビはいるか?」という同事務所からの依頼。最初は試行錯誤で舞台に立った二人だが、もっと本格的なショーがしたいと河口さん自ら科学サイエンス演芸師の北沢善一さんに連絡を取り指導を受けた。「漫才師だからこそできる話術を生かし、子どもたちに純粋に『科学って面白い! 』と思ってもらいたい」という河口さん。
彼らはかつてテレビ番組「ワラッタメ天国」で、理科を担当。笑ってタメになる実験で過去最高タメ点(50点満点中49点)を記録したことがあり、実験のネタも本格的。「力の分散」「ベルヌーイの定理」と言われると難しくて眉間にシワが入ってしまう……が、ショーでは紙コップや、風船など身近なものを使い、子どもにも分かりやすくコント仕立てで行われる。子どもたちがボルトボルズに突っ込み話しかける様子は、かつての人気番組『8時だョ!全員集合』の観客の子どもたちを彷彿させるようだった。
オレンジの皮に含まれる成分「リモネン」が手につくと、風船が割れやすいという作用を利用した実験は、会場中がハラハラドキドキ大騒ぎ。子どもたちが飽きることなくノリノリな状態のまま、約1時間半のショーは続く。学校でこんなに笑える授業があったら、子どもたちは一気に科学に興味を持つに違いない。

河口さんが何度も繰り返していた言葉は、「目の前のお客さん皆を笑顔にしたい」ということ。ボルトボルズのポリシーでもある。コンビ結成のきっかけは学生時代にさかのぼる。相方の弓川さんが中学生の時、阪神淡路大震災が起きた。当時、避難所に慰問で来ていた酒井くにお・とおる師匠の漫才を見て元気を貰った弓川さんは感動し、「いつか自分も人を喜ばせる漫才師になりたい」と思ったという。

そんな二人は高校で出会い意気投合。文化祭で漫才を披露した。人を喜ばせたい彼らが卒業後に「漫才師になる」と決めるのに迷いはなかった。

今では全国の小・中学校や科学館など全国から科学ショーの依頼があるそうだが、必ず子ども向けの漫才をうまく取り入れ実験を始める。「自分たちは漫才師だ」というプライドからだ。

ショーは子どもたちだけのものではない。全てのショーで、親や祖父母世代にしか分からないネタを盛り込み、目の前にいる人皆が楽しめるように構成し台本を考える。「仕事で疲れたご両親が子どもを連れてきてくれます。子どもには分からない時代のコネタでも、親が一緒に笑っていたら子どもはもっと楽しい。後から家族で笑えるように」(河口さん)。

70歳のおばあちゃんに、40歳のお母さん、4年生のお姉ちゃんに1年生の弟。実際に来ていた家族に話を聞いたら、お母さんらは「子ども以上に私たちが楽しんだ」とご満悦。そして、子どもたちは「みかんで風船を割る! 」と大はしゃぎだった。

そして、後方の壁まで空気砲が届くかという実験は、皆が協力しなければ成功しないが、何度かいたずらをする子が現われるも最後は成功。会場内は笑いがこだまして、一体感が生まれた。「いずれは、音楽とライトを駆使したディズニーのような科学ショーができれば(笑)」(河口さん)。

今後の夢を聞いてみた。「寄席の漫才も科学ショーもどれだけ売れてもやめません! 全国に笑いを届け続けます。それが僕らにできること」。それと、「笑点に出ること!」。

幅広い年齢層に愛される彼らなら、近い将来、笑点で「科学ショー&漫才」を披露してくれそうだ。

(山下敦子)