音楽のストリーミングビジネスは終わるのか?
音楽業界にとって、ストリーミングビジネスは次なる氷河期を意味する。
ユーザーにとって、音楽をストリーミング配信で聞けるのは最高のサービスだ。Pandora、Rdio、Spotifyといった配信サービスは、好きな音楽を、いつでもどこでもストリーミング形式で楽しめ、ユーザーからは熱狂的な支持を集めてきた。音楽業界がこれほどユーザーに喜ばれたことは今までなかったかもしれない。
クラウド上に存在する「無限のジュークボックス」が15年の歳月を経てようやく実現したのだ。
ほとんど全ての楽曲が指先の操作ひとつですぐ再生できて、アルバムを買うより格段に安く、時には無料で楽しめるのだから驚きだ。
ユーザーがこの利便性を享受するために、アーティストからストリーミングサービス業者までが大きな代償を払って苦しんでいる。一体この状態をいつまで続けられるのだろうか。
ライセンスに苦しむ
13年の歴史を持つPandoraのような大手ストリーミングサービス業者までもが苦戦を強いられている。同社はアーティストやレコード会社への支払いを減らそうと必死になっている。600万人もの有料会員と、1800万人もの(サービス利用の際に広告が表示される)登録者を持つにもかかわらず、Spotifyはいまだに利益を出すことができていない。Rhapsodyにいたっては、アップルのiTunes Radioの登場後、従業員の15%を解雇したほどだ。オンデマンド再生で知られるRdioもまた人員削減を決定しており、「コストをかけずに実現可能なビジネスモデル」への転換を目指している。これはまるで、最初にしっかりとしたビジネスモデルを考えた人間がいなかったかのようではないか!
そうしている間に、比較的規模の小さいTurntable.fm(ユーザーがリアルタイムで音楽をDJしながらチャットができるソーシャルサービス)が、今週とうとうサービスの閉鎖に追い込まれてしまった。これは不吉な予兆かもしれない。
邪魔じゃない邪魔者
ストリーミングサービス業者は、根拠もなく自分達は成功すると自惚れたが、その存在自体は新いものではない。自前の商品がなく、アーティストなくして存在し得ないレコード会社と同じだ。
しかもアーティストの大半は、楽曲のデジタルストリーミング配信を快く思っていない。彼等は店で音楽CDが販売されていた頃から、強欲なレコード会社によって音楽CDの売上を搾取されてきた。アルバムが400万枚売れたって、1セントにもならないこともあるのだ。そんな状況であってもレコード会社は、昔のiTunesのような1曲毎の楽曲販売モデルから脱却しようと必死だ。アップルの「えせPandora」にまで便乗している。
アーティストが楽曲の売上を手にする前に、多くの、本当に多くの関係者がその売上を奪い合う構図により、音楽配信サービスが盛んになる前から音楽業界は既に崩壊していたのだ。ストリーミングサービス業者は、そんな利益を得ようとする関係者で一杯の業界に割り込んできたのだ。もはや音楽業界は関係者が多すぎて、儲けを得る余地がないという事実にビクビクしているのは誰だ?レコード会社以外全員だ。何という事だ。
壊れたモデル
音楽のストリーミングサービス業者の収入は、彼らが支払うロイヤリティに全く追いついていない。だが皮肉にも、ストリーミングサービス業者が音楽を配信するライセンスを得ている相手に十分な対価を払っているとは、誰も思っていない。当のストリーミングサービス業者を除いては。
ストリーミングサービス業者はもっとロイヤリティを払うべきなのか?SpotifyいわくRihannaクラスのアーティストに年間300万ドルものロイヤリティを払っていると主張するが(もちろんこれはアーティストの所属レコード会社にであり、アーティスト本人へではない。)音楽業界には、この新しい音楽のビジネスモデルに怒りを覚えている1,000人ものアーティストがいるのだ。Rihanna自身もストリーミングサービス業者に対して怒りを露わにしているが、怒りの矛先は間違っているかもしれない。
この壊れたビジネスモデルの先には、ストリーミングサービス業者への投資家や株主、アーティストに対する疑わしい約束が見える。Rdioは広告を増やす事で黒字化を計っている。Spotifyは今の有料会員を600万人から4,000万人に増やせればアーティストへの支払いを5倍に増やせるとしている。(計算上は可能だが、4,000万という数字はかなりハードルが高い。)Pandoraは、ユーザーが増える程ロイヤリティの支払いが増加して赤字になる状況を、モバイル広告収入で埋めようとしている。
死なないゴキブリ
既存の枠組みに少し手を加えるだけなく、本当に何かを変えないと、デジタル音楽が本当に音楽業界に変革をもたらす存在にはなれないのだ。
いかにアーティストが大手レコード会社(今ではソニー、ワーナーそしてユニバーサルのことをいう)の支配下で耐え忍んできたかと考えると、大手レコード会社トップ3を取り込もうと飛び込んでくるストリーミングサービス業者を警戒するのは当然だ。ただ熱心な音楽ファンとしては、PandoraやSpotify、その他同種の配信業者が、旧態依然とした音楽業界よりはマシであると信じたいが、本当はデジタルを武器に業界を再編するはずだったストリーミングサービス業者は、長い間音楽業界に君臨する商売上手なレコード会社の実力を過小評価したのか、苦戦を強いられている。
レコード会社は、Napsterのような挑戦者と何度も対峙してきた。レコード会社にとって音楽のストリーミングサービスがやっかいな存在となったり、もっと巨大な勢力が自分達の利益を奪うようになったら、彼等は全力で戦いを挑むだろう。
結局のところ、音楽業界はいまだにレコード会社が牛耳っている。SpotifyやRdioのような挑戦者は苦戦を強いられ、レコード会社に搾取されているかわいそうな勢力だという世間の同情を誘うしかない。プレイヤーが完璧なポーカーフェイスと限りない財力を持たない限り、この古いゲームでは必ずディーラーが勝つのだ。今のところそんなプレイヤーはアップル、グーグル、アマゾンぐらいしか思い当たらない。
持ち札が出尽くしたら?勝者を全てを手に入れ、ゲームは終わる。
Taylor Hatmaker
[原文]