適切なユーザー構成の形成に向けて/小槻 博文
■ベンチャー・中小企業・NPO・社会起業家等のコミュニケーション活動事例■
スマートフォンやタブレット端末などが急速に普及する中で、日々多くのアプリがリリースされては消えていく。そこでザオリア株式会社ではユーザーの声をアプリ開発に生かすべくアプリテストのクラウドソーシングサービス「Launch App(ローンチ・アップ)」を運営している。
今回はそんな同社の取り組みについて代表取締役 井上伸也氏に話を聴いた。

いきなり起業ではなくまずは社会人経験を積んでから

井上氏が起業に目覚めたのは、高校生の時にビル・ゲイツ氏の著書「ビル・ゲイツ 未来を語る」を読んだのが最初のきっかけだったそうだ。

そして、既存の価値を最大化するには大手企業のほうが適しているが、今までにない新しい価値を創造するには自らがすべての責任やリスクを負ったうえでゼロから興さなければ難しいと考えるようになり、起業への志向を強めていくことになる。

しかし井上氏は大学を卒業していきなり起業しようとはせずに、まずは社会人経験を積みながら自分に足りないスキルやノウハウを身に着けてから起業しようと考えた。そこでまずリクルートに就職して営業スキルを、次にグーグル日本法人に転職してマーケティングスキルをそれぞれ身に着けた後、MBAにて経営の知識を学んだうえで、満を持して2012年春に起業するに至った。

そして起業するにあたっては、MBAで専攻した「Co-Creation(コ・クリエイション)」の考え方をビジネスモデルに採り入れるとともに、成長市場である「スマートフォンアプリ」を対象にしたビジネスをしようと考えて構想したのがアプリテストのクラウドソーシングサービス「Launch App(ローンチ・アップ)」だった。



アプリ開発者は「これはイケる!」と思ってアプリを開発しても、ユーザーニーズとずれていると、誰も使ってくれなかったり、すぐにアンインストールされてしまったりしてしまう。そこでニーズのずれをなくし機会損失を防ぐために、リリース前後のアプリを一般ユーザーに実際に利用してもらいフィードバックを集めるための仕組みをクラウドソーシングとして提供するのが「Launch App(ローンチ・アップ)」だ。

適切なユーザー構成を形成すべく

2012年9月にサービスを開始し、現在デベロッパーアカウントは約100件、テスターアカウントは約1,200件に上る。

<デベロッパー>

デベロッパーに対しては、当初は営業活動を中心に行っていたが、あまり効率的ではないと感じるようになり、ならば相手から来てもらう、つまりインバウンドの施策を行っていこうと転換を図っていった。

そこでまずヒットアプリを生み出しているデベロッパーへのインタビュー記事を定期的に掲載したところ、インタビュー対象者による拡散や検索などからの流入につながった。また積極的にテック系やスタートアップ系のメディアにアプローチして、記事化を働きかけたりもしている。



またオフラインについても積極的にピッチイベントに登壇するようにしている。デベロッパーは皆ユーザーテストの重要性自体は認識しているものの、いざ実施しようとすると人数を集めたり費用が掛かったり、はたまたろくなフィードバックが得られなかったりなど様々な障壁があるため、登壇の際には「LaunchApp」を使うことで、低コストで簡単にテスターを集めることができ、且つ質の高いフィードバックが得られることを訴求するように意識しているそうだ



スタートアップだからとかWEBサービスだからと、深く考えないままにテック系やスタートアップ系のメディアへアプローチしたりピッチイベントに登壇したりしても、顧客層とずれてしまっているケースが散見されるが、ザオリアの場合は「スマートフォンアプリ開発者」を対象にしたビジネスであり、これら読者や参加者の多くは見込み層にあたるため、ターゲット層と合致していると言えよう。

<テスター>

一方テスターについては、テスター自身がブログで紹介したり、またキュレーションサイトなどでまとめられたりした記事をきっかけに流入してくるケースが大半で、ザオリア側から何か仕掛けているわけではないという。

したがって自然増で約1,200件のテスターアカウントを集めたわけだが、その属性は当初の見込みとは正直異なる結果になってしまった。当初は主婦層や学生層が中心になると想定していたものの、蓋を開けてみればビジネスパーソンが約半分を占めることに。またマス層を狙っていくためのヒントを得ることを目的にテストマーケティングを実施するのが本来の主旨だが、現在のテスターの多くはスマートフォンを使い慣れた層が多いため、今後はスマートフォンに不慣れな層も取り込んでいく必要があると感じているそうだ

したがって今後は闇雲にアカウント数を増やすのではなく、まずは適正な属性構成を形成していくことを重視していきたいと考えている。

「社外の力を簡単に取り入れる」ことが当たり前の社会を創造するために

このように試行錯誤を繰り返しながら、現在は闇雲にリーチ・獲得するのではなく、きちんとターゲットを明確にして、自社サービスにとって望ましいユーザー構成の形成を図っている同社だが、今後どのような方向に進もうとしているのだろうか。

「日々様々なサービスが生まれていますが、その多くは淘汰されて消えていってしまいます。では何故サービスが普及しないのかというと、ユーザーが何に価値を見出しているかがわからないままに開発者・提供者視点でサービスを提供しているからです。したがってその課題を解決すべくユーザーが求めていること、つまり“ユーザーインサイト”を発見する場にしていきたいと思います。」

「また現在はアプリ試用テストを中心に行っていますが、“Co-Creation”の考えから言えば、それだけではなく企画段階からユーザーの意見を取り入れるなど、アプリ開発における“ゲートウェイ”のような存在になれるように拡充していきたいと考えています。」

さらに将来的にはアプリにとどまらず、様々な分野にて「Co-Creation」を実現するサービスを展開しながら、「社外の力を簡単に取り入れる」ことが当たり前の社会を創造していきたいと力強く語ってくれた。