調達・購買改革をたったひとりで成し遂げた王様がいた/坂口 孝則
いま注目されている調達・購買。この分野で孤立無援の闘いを挑み、成功した一人の男について紹介します。
むかしむかしあるところに、購買王様がいました。
購買王様は、財政が大変厳しくなると、周囲を安心させるために「この未曾有の大危機に我々は、調達改革によってコストを30%をへらします!」と宣言するのでした。購買平民は、「うわあ、また勝手なことを言っているなあ」と思いますが、なかなか王様に苦言を呈することができません。すると、購買王様はさらに「サプライヤー数なんて2割も減らしちゃいますよ」と述べるのです。「さらにさらに海外輸入比率を7割にします」と意気揚々です。
さあ困ったのが購買平民たち。購買平民たちは「うーん、うーん」と考えました。だって購買王様が外部に言ってしまったことを簡単に覆すことなんてできないからです。そこで、一人の購買係長は考えました。「じゃあ、まずはサプライヤー数を減らすことからやってみよう!」。まわりの購買平民は「そんなことできっこないさ」と言います。「だって、サプライヤー切り替えなんて莫大な費用がかかるんだぜ」と。
すると、その購買係長は言いました。「大丈夫だよ、購買王様は減らすということしか言っていないんだぜ。だから、主要サプライヤーはそのままにしておいて、クズみたいな数しか買っていないサプライヤーへの発注量を切り替えればいいんだ。そんなサプライヤーから買っている製品は標準品が多いから、すぐに切り替えることができるよ」。
そこで購買平民たちは、主要サプライヤーにまったく手をつけずに、ほとんど効果のない底辺サプライヤーの数だけを減らして、目標を達成しました。「ほら、2割減らすことなんて簡単だろう?」と購買係長は自慢気です。
めでたし、めでたし。
すると、ある購買平民は言いました。「購買係長、サプライヤーの数は減りましたが、海外輸入比率は上がらないんじゃないですか?」と。「今は海外輸入比率なんてたったの4割ですよ。それを劇的に上げなければいけないなんて。うわあ、どうしよう」。すると、購買係長は平然と言いました。「そんなの簡単だろ」。すると、購買係長は購買平民に、現在の海外輸入品目リストを持ってこさせました。「このリスト品目が海外輸入品だな……」。そのリストを見て、購買係長は考え出しました。
しばらくすると、「よし! このリストは簡単に書き換えることができる!」と言いました。購買平民たちは不思議な顔をしています。購買係長は、「考えてもみろっ、今このリストに載っていないものだって、海外輸入品としてカウントできるものはたくさんあるはずだ! たとえば、隣町から買っている製品は『国内調達品』としているが、その材料は海外産のはずだ! たとえば原油を少しでも使っているものは、その分を海外輸入品としてカウントできる。製品の20%くらいは材料のはずだから、その分をカウントするんだ!
あるいは、半導体が中に組み込まれているものだって多くはアジア品だ。それもカウントしろ!」。そこで購買平民たちは、まったくサプライヤーや製品を切り替えることなく、書類上のみであっという間に「海外輸入比率7割」を達成してしまいました。
「ほら、意外に海外輸入品って多いだろう?」と購買係長は自慢気です。
めでたし、めでたし。
すると、ある購買平民は言いました。「でも購買係長、さすがにコスト削減だけはできないんじゃないですか? 偽造した調達改革では、コスト削減効果は出ませんよね……」。すると、これまた購買係長は自信満々です。「お前、ウチの国で何年働いているんだっ! この国ほどコスト削減効果試算が適当な国はないじゃないかっ! コスト削減効果なんてこちらの申告値をそのまま使うだけだ! だから、購買平民には、コスト削減効果を、『最初の見積り』から『最後の見積り』を引いたもので計算させればいいんだ! そうすれば、効果なんてすぐ出たことになる。そうだ、サプライヤーからの値上げ申請を抑制した金額も、コスト削減効果に加算するのも忘れるな!」
そこで購買平民たちは、通常の業務をなんら変えることなくあっという間に「コスト削減3割」を達成してしまいました。なかには意図的に最初の見積りを高めに出すようにサプライヤーに依頼した購買平民もいたようですが、誰も気にしませんでした。
めでたし、めでたし。
しばらくすると、王様はヘンなことに気づきました。サプライヤーは減っている、海外輸入比率も高まっている、コストも削減されている。でも、国の財政だけはまったく改善しないのです。どうしたことか。王様は思いました。「そうか、お金はきっとブラックホールに吸い込まれているんだな」と。そうです。今年は2010年。キューブリック『2010年宇宙の旅』よろしく、きっとどこかに消えていったのです。
・−・−・−・−・−・−・−・−・−・−・
上記はもちろん、仮想の国の物語である。昨今、メディアで調達・購買改革の記事を見ることが多い。直に会話をする限り、ほんとうの調達・購買改革を目指しているところは少なくない。ただ、一方で多くの企業では、調達・購買改革は「効果がある」ものの、なぜか全社の業績には連動しないという奇妙な「事件」が起きている。まさか、とは思うが、このような購買係長が<活躍>していないことを祈る。
むかしむかしあるところに、購買王様がいました。
購買王様は、財政が大変厳しくなると、周囲を安心させるために「この未曾有の大危機に我々は、調達改革によってコストを30%をへらします!」と宣言するのでした。購買平民は、「うわあ、また勝手なことを言っているなあ」と思いますが、なかなか王様に苦言を呈することができません。すると、購買王様はさらに「サプライヤー数なんて2割も減らしちゃいますよ」と述べるのです。「さらにさらに海外輸入比率を7割にします」と意気揚々です。
すると、その購買係長は言いました。「大丈夫だよ、購買王様は減らすということしか言っていないんだぜ。だから、主要サプライヤーはそのままにしておいて、クズみたいな数しか買っていないサプライヤーへの発注量を切り替えればいいんだ。そんなサプライヤーから買っている製品は標準品が多いから、すぐに切り替えることができるよ」。
そこで購買平民たちは、主要サプライヤーにまったく手をつけずに、ほとんど効果のない底辺サプライヤーの数だけを減らして、目標を達成しました。「ほら、2割減らすことなんて簡単だろう?」と購買係長は自慢気です。
めでたし、めでたし。
すると、ある購買平民は言いました。「購買係長、サプライヤーの数は減りましたが、海外輸入比率は上がらないんじゃないですか?」と。「今は海外輸入比率なんてたったの4割ですよ。それを劇的に上げなければいけないなんて。うわあ、どうしよう」。すると、購買係長は平然と言いました。「そんなの簡単だろ」。すると、購買係長は購買平民に、現在の海外輸入品目リストを持ってこさせました。「このリスト品目が海外輸入品だな……」。そのリストを見て、購買係長は考え出しました。
しばらくすると、「よし! このリストは簡単に書き換えることができる!」と言いました。購買平民たちは不思議な顔をしています。購買係長は、「考えてもみろっ、今このリストに載っていないものだって、海外輸入品としてカウントできるものはたくさんあるはずだ! たとえば、隣町から買っている製品は『国内調達品』としているが、その材料は海外産のはずだ! たとえば原油を少しでも使っているものは、その分を海外輸入品としてカウントできる。製品の20%くらいは材料のはずだから、その分をカウントするんだ!
あるいは、半導体が中に組み込まれているものだって多くはアジア品だ。それもカウントしろ!」。そこで購買平民たちは、まったくサプライヤーや製品を切り替えることなく、書類上のみであっという間に「海外輸入比率7割」を達成してしまいました。
「ほら、意外に海外輸入品って多いだろう?」と購買係長は自慢気です。
めでたし、めでたし。
すると、ある購買平民は言いました。「でも購買係長、さすがにコスト削減だけはできないんじゃないですか? 偽造した調達改革では、コスト削減効果は出ませんよね……」。すると、これまた購買係長は自信満々です。「お前、ウチの国で何年働いているんだっ! この国ほどコスト削減効果試算が適当な国はないじゃないかっ! コスト削減効果なんてこちらの申告値をそのまま使うだけだ! だから、購買平民には、コスト削減効果を、『最初の見積り』から『最後の見積り』を引いたもので計算させればいいんだ! そうすれば、効果なんてすぐ出たことになる。そうだ、サプライヤーからの値上げ申請を抑制した金額も、コスト削減効果に加算するのも忘れるな!」
そこで購買平民たちは、通常の業務をなんら変えることなくあっという間に「コスト削減3割」を達成してしまいました。なかには意図的に最初の見積りを高めに出すようにサプライヤーに依頼した購買平民もいたようですが、誰も気にしませんでした。
めでたし、めでたし。
しばらくすると、王様はヘンなことに気づきました。サプライヤーは減っている、海外輸入比率も高まっている、コストも削減されている。でも、国の財政だけはまったく改善しないのです。どうしたことか。王様は思いました。「そうか、お金はきっとブラックホールに吸い込まれているんだな」と。そうです。今年は2010年。キューブリック『2010年宇宙の旅』よろしく、きっとどこかに消えていったのです。
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上記はもちろん、仮想の国の物語である。昨今、メディアで調達・購買改革の記事を見ることが多い。直に会話をする限り、ほんとうの調達・購買改革を目指しているところは少なくない。ただ、一方で多くの企業では、調達・購買改革は「効果がある」ものの、なぜか全社の業績には連動しないという奇妙な「事件」が起きている。まさか、とは思うが、このような購買係長が<活躍>していないことを祈る。