「おもてなし」なんて目指さなくて良い、理系学生のプレゼン技術/増沢 隆太
IOC総会の日本のプレゼンが評判ですが、そうなんでしょうか?日本ではほとんど流さないので、トルコやスペインのも見ましたけど、けっこう良かったですよ。「コミュニケーション=プレゼン」と勘違いしている人は少なくありません。しかし本質は別物です。外国のプレゼン番組も増えましたが、私は言いたい。「理系学生は見習わなくて良い!」と。


もうじき後期のコミュニケーションの講義が始まるので、初回に言ってやろうと手ぐすね引いて待ってるのが滝川クリステルさんの「お・も・て・な・し」プレゼンです。他にも安倍首相や猪瀬知事などの身振り手振り交えたプレゼンが良いとの声は多いですね。私も下向いて原稿棒読み、のような従来型の政治家プレゼンよりぐっと説得力は増したと思いますし、プレゼントしてダメを出すつもりはありません。しかしヒネクレてるので、あれが理想、あれこそプレゼン、と私の教え子である、どちらかというと表現や情報発信が不得意な理系学生たちが、不必要に自信を失って欲しくないのです。


理系のヲタ学生の皆さん、あんなもの目指す必要無し!
あれは、人気美人女子アナとか、首相や都知事といった、人前でしゃべる仕事をする人のプレゼンです。君たちは美人女子アナでも政治家でもないですよね。(もちろん将来は美人・・・もういいか)


コミュニケーションは魔法ではなく、構造とロジックで成り立ちます。つまりシャベリのプロと素人では、同じ情報発信は出来ないし、出来る必要もないのです。
私の講義を聞く皆さんは理系の大学院生です。つまりは科学の専門家、その予備軍といえます。コミュニケーションの基本である、目的意識をまず思い出して下さい。


何を伝えたいのですか?
あるいは;
何を実現したいのですか?


恐らく理系大学院生の皆さんは、ご自分が研究している内容について、専門家としての立場から自分なりの意見や知見を学会や就職面接、さまざまな機会で伝えるといった「目的」があるはずです。
そこが一番大切なポイント。それをあらためて確認して下さい。キーメッセージ、トピックセンテンスというものが、すべてのコミュニケーションの基盤なのです。
そして、これをいきなりぶちかましましょう。


皆さんははっきり言えばシャベリのど素人。シャベリに自信のない人が身振り手振り、斜め後ろ45度の角度が一番キレイとか関係ないですよ。余計なことやってると、一番大切なキーメッセージを忘れたり、時間が足りなくなったりします。


でも一番最初にやっておけばそれは回避出来ます。
さらにいえば、アイスブレークといって、会場・聴衆をあっためるとか、そんなプロみたいなことは皆さんは考える必要がないのです。
個人的にはトルコの「(すべての宗教が集う)remarkable tapestry and celebration of diversity」とか、高円宮妃殿下の技術というより品格あふれるスピーチが好きです。


「プレゼン、やだなー」とか思ったら、自分にツッ込んで下さい、「お前は滝川クリステルか!」と。小手先のプレゼン技術等、学会発表では関係ないし、プロの人事から見たって一目瞭然。そんなことが出来たかどうかで内定が取れる訳ではありません。理系大学院生は文系学部生とは全く採用基準が異なります。もちろん文系就職を目指すなら、ライバルの文系学部生に技術水準を合わせる必要性も多少はあるかも知れません。


しかし製造業の生産、開発、研究といった、伝統的な職を目指すのであれば文系のマネでは内定には至れません。「理系として」差別化出来ることこそコミュニケーション戦略です。


皆さんが伝えたいこと、伝えるべき、キーメッセージ。これを吟味することが最も大切で、最もエネルギーを割くべきことです。科学的に情報をまとめられないのであれば、それこそ理系失格。それこそがコミュニケーション上の大問題、大障害です。
出来もしないジェスチャーやウケ狙いのキーワードのようなものは、きちんとキーメッセージが完成され、それでもまだ余裕があればやれば良いのです。


理系学生はコミュニケーションが苦手なのではなく、伝えるべきメッセージをきちんと整理できていないことがほとんどなのです。さらにいえば、これは理系学生だけでなく、文系も、サラリーマン経験何十年というオトナでさえも、実は一番おろそかにしていることなのです。プレゼンの目的はシャベリの上手い下手ではなく、伝えるべき情報をより正確に伝えられるかどうかです。


模範プレゼンを見て自信を失ったり、いきなりプロ並みの技術をやろうとしたりという、現実感の無さこそコミュニケーション力向上の枷(かせ。障害)ですよ。
何?納得できない?「お・も・て・へ出ろ、コノヤロー」