(TIGER&BUNNY(タイガー&バニー) オフィシャルヒーローブック表紙)
戦うヒーロー達が話題をかっさらったテレビアニメ「TIGER & BUNNY」。確かに面白い作品だったけれども、なぜこんなに話題をかっさらっていったのか?! 実はそこには2つの大きな仕掛けがありました。サンライズ取締役専務がその新しい試みについて語りました

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10月18日の夜、秋葉原では行列ができていました。しかも男女混合。
普段から行列がよく出来る秋葉原ですが、女性率がやけに高い。徹夜覚悟の待機列。これは一体?
実はS.H.フィギュアーツ バーナビー・ブルックスJr.を手に入れるための待機列。アニメ「TIGER & BUNNY」のキャラクターのフィギュアです。
「TIGER & BUNNY(以下「タイバニ」)」は終了したばかりのアニメ。2クール(25回)のヒーローアニメなのですが、キャラクターの体のパーツにスポンサーロゴが入るという斬新すぎるアイデアで大きな話題を呼びました。
ヒーローの体に牛角やペプシのタイアップ広告!?「タイガー&バニー」のユニークな試み(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
二人の刑事をメインに据えた「相棒」のようなバディもの。王道の熱血を盛り込みつつ、各ヒーローの良さを存分に引き出した、ケレン味溢れる痛快な物語でした。
とはいえブレイクのしかたは、ちょっと異常でした。
6から9月はtwitterの「#tigerbunny」がホットワードハッシュタグ一位を連続で取ったのです。
くわえてこれから様々なコラボ企画や展開も繰り広げられます。
何がそんなに魅力なの!?

実はこのアニメ、本編の面白さ以外に「新しいことをアニメでやろう」という仕掛けがなされているのです。
「東京国際アニメ祭2011秋」では株式会社サンライズ専務取締役の宮河恭夫が「タイバニ」裏話を語ってくれました。

1・キャラクタープレイスメント:キャラの体にスポンサーロゴを入れよう!
先程も書きましたが、登場ヒーローの体にスポンサーロゴが入っています。
一見するとなんじゃこりゃ?!なんですが、F1と同じ、といえば納得行くかと思います。
未来的に警察の力の衰退した世界が出てきたら、スポンサーがついて民間テレビ番組が盛り上げるんじゃないだろうか、という想像のもと、架空ではなく実際にスポンサーを募ってしまったのです。
2010年11月14日に、日経新聞15段ぶちぬきカラーで一般公募、という前代未聞の募集をしました。
面白いですよこれ。だって新聞開いたら「アニメのキャラに、おたくの広告載せませんか?」ですもの。よく分からない人だとなんのこっちゃですよね。
しかし新聞にどかーんとヒーローが並んで、広告入れませんか、と出ている様は圧巻で、多くの問い合わせがあったそうです。中には商店レベルのところからも。
アニメが始まり、実際のところ17社がスポンサーになりロゴが入りました。
いやあ、まだね、USTREAMとかはわかるじゃないですか。でも「牛角」とか「高須クリニック」とか、もう画面に出てくるだけで面白いですよ。
コマーシャルで流れていたり、OPでスポンサー紹介をしたりしてもたいてい忘れちゃいますが、「牛角」ってでかでかと書かれたヒーローが牛みたいに突進してたら、覚えちゃいますよね。本当は「ロックバイソン」っていう名前あるのですが、今やすっかり「牛角さん」と呼ばれるようになりました。

スポンサーを選ぶ際の判断基準は特別なものはなく、毎日放送の基準に準拠とのこと。
これを考えると、作品を観ている人ならわかると思いますが、それぞれのキャラに入ったロゴのぴったりっぷりは見事ですね。
ただし子供が見ることを考慮して、アルコールや公序良俗に反する企業はお断りだったそうです。
企業側も放送が始まってから余りに面白い企画だったため問い合わせが押し寄せ、アマゾン、アニメイトが後から追加。特にロゴがしっかり決まっていなかった「折紙サイクロン」というキャラの背中には2クール目(14話以降)から一気に増えました。
TIGER & BUNNY キャラクタープレイスメント一覧
企業側もおもしろがって、様々な展開を見せました。例えば「ブルーローズ」という女の子ヒーローのスポンサーであるペプシでは、実際にキャラクターを使ったCMを作成しています。また牛角でもタイバニフェアが始まるとのこと。
「タイバニ」というアニメを使って各会社が自由に遊べる地盤を作っちゃったんですね。

今後「タイバニ」を作ったサンライズでは、すぐにはキャラクタープレイスメントはやらないとのことでしたが、こういう形態のロゴを入れるとか、アニメの作中で商品が出てくるとかは増えていく可能性大きそうです。
ちなみに、ロゴに関してはほとんど企業側からの苦情もなく、むしろ大好評だったのですが、一点だけ。ロゴが壊れるシーンは入れないように注意したそうです。
だよね。自分の会社のロゴがストーリー上とはいえグシャグシャになっては困る。
 
2・テレビでも、WEBでも、映画館でも! 皆で一緒にみられるライブ感づくり
「タイバニ」はちょっと異質な放送形態を取っていました。
通常はテレビ放送が先行し、その後にWEBで公開されるというのが多かったのですが、「タイバニ」はMBSとUSTREAMの同時放送という形態を取ったのです。
これかなり特殊。WEB配信で見る人はほとんどが「好きなときに見られる」というのが多いですもんね。
しかし「タイバニ」は、日本全国どこでも一緒に、ファンが見ることができるというのを目指し、第一話からTVとWEBの同時放送をしていました。

実は「タイバニ」、最初全然話題になってなかったのです。
新しい試みとしてやってみよう、とはいえ未知数すぎて、最初プレゼンした時には「いける」といった人はほとんどいなかったそうです。
堅実さでいえば、大冒険もいいところです。
放映前もたいていアニメファンの間で「これが面白いんじゃないか」サーチがされて盛り上がるんですが、「タイバニ」の注目度は視聴者であるぼくから見ても非常に低いものでした。

USTREAM第一話配信の視聴数は2,955人。
うーん、まあこんなもんか、という感じでいたそうです。
ところが! 箱を開けてみたら「これは面白い」と話題沸騰。三倍、四倍と膨れ上がり、あっという間に数万人が見ているという、USTREAMとしては有名アーティストのライブレベルの数字を叩き出します。
そして最終回25話では9万3千人。なんと初回の31倍。

最終回はWEBの公開だけではなく、映画館を使ったライブビューイングイベントも開催されました。
イベントをやった本会場は4800円。ライブビューイング会場が3000円。44館85スクリーンで最終回が上映されました。
びっくり事態ですよ。新宿のバルトナインなんて全館「タイバニ」ですよ。
結構いいお値段でしょう? それでも魅力ありますよ、行きたくなるんです。

この取り組みと反応の現象について、視聴者は一体感を求めているのではないか、共有したいのではないか、と語っていました。
USTREAMで見る場合、横にtwitterでつぶやける機能があります。テレビを見ながらツッコミをいれるようにみんなで会話できるわけですよ。
日本全国どこにいても、好きな人が集まってみてわいわい話し合う。居間で家族でテレビ囲んでしゃべっている感覚に近いんです。
加えて映画館でのライブビューイングは、隣にいる人は誰か分からないけれども、確実に「タイバニ」ファンなんです。自分が好きなモノを好きな人しかそこにはいない。そして一緒に好きなものを見る。
そりゃ楽しいわ。お金を払ってでも行きたくなるわ。
好きなものの確認作業にも近いです。特に震災以降、シェアする一体感を求めていたのではないか、と語っていました。

視聴者にもいろんな人がいます。特に「タイバニ」は普段ドラマを中心に見ている人を意識して、シリーズ構成などにドラマや映画方面の人を意図的に起用しています。
それらの人が、ディープファンからライトファンまでどう楽しめる場を作るか。
「テレビ」はやはり一番強い媒体です。これは欠かせません。
次に「ネット」。リアルタイムで見られる「USTREAM」と、後から見られる「バンダイチャンネル」を整備しました。
そしてリアル。映画館での「ライブビューイング」です。2011年11月13日には「HERO AWARD」というイベントが神奈川県民ホールで開催されるのですが、これもライブビューイング105館で3万人を動員予定です。

いろんな見方がしたい人に対して、選ぶことができる状況作りができていたことも一つの大きな要因でしょう、広告やネットで話題にならなくても、いずれ口コミでは話題になると思っていた、と語っていました。
今後の夢は、世界でのリアルタイム視聴!
もちろん時差があるので、現実問題としてはアジアから初めて、海外と日本でアニメのライブリンクをしたいとのこと。
いやあ、海外の人と一斉に楽しめたら、面白さのツボのギャップも含めて、なかなかユニークな会話ができそうですよ?
(たまごまご)