【文春vs新潮 vol.5】 ぐだぐだな政局、見殺しにされた被災者

写真拡大

なかなか進まない被災地の復興。原発事故への対応。円高の是正とデフレからの脱却。いま「政治」がやるべきことは、山積している。にもかかわらず、「そんなの関係ない」と言わんばかりに、与党・民主党の大物議員は「政局」に忙しい日々を送っている。

そんな現状を反映して、週刊文春も週刊新潮もトップ記事は、菅直人首相の後継総理をめぐるものとなっている。読めば読むほど、国民不在の「政治」がぐだぐだな「政局」を展開しているということがわかる。

「政局」と「性局」

新潮の「『野田総理』『蓮舫官房長官』を拒む『小沢鳩山』に神輿がない」という記事のリードが秀逸だ。「小さい器が並んだ『裸の王様』お別れパーティーの喧騒」。「裸の王様」とは菅総理のことである。そして、馬淵澄夫氏(前国交相)、野田佳彦氏(財務相)、鹿野道彦氏(農水相)、小沢鋭仁氏(元環境相)、樽床伸二氏(元国対委員長)、海江田万里氏(経産相)、原口一博氏(前総務相)らが「小さい器」である。

菅総理の辞任という「お別れパーティ」(=代表選)は8月末に開催されそうだが、辞任にともなう民主党の新代表(=新総理)の顔が見えてこない。派閥政治をやめるといっておきながら、いまだに「グループ」と称する派閥が存在する民主党。記事によれば、その勢力分布図は「小沢一郎元代表グループが130人に鳩山由紀夫前総理グループが40人、これに前原誠司前外相グループが80人、野田グループが25人、菅グループが40人、そして旧民社党系グループが40人」。

複数のグループに所属する議員もいるものの、小沢グループの人数がもっとも多い。つまり、「小さい器」のなかで同グループに支持された議員が新総理になる可能性が高いわけである。しかし、小沢氏のお気に入りである海江田氏は「大臣の辞め時を誤り」、支持するには微妙な存在となってしまった。そこで登場するのが野田財務相だ。前原グループが野田支持を決めていることから、小沢グループも支持すれば野田氏が代表戦を制する可能性は高まる。

ここで、新潮は単なる政局分析では終わらない。小沢グループが支持するのは、野田氏ではなく鹿野氏であり、「最終的には野田 vs 鹿野の一騎打ちとなるでしょう」という小林吉弥氏(政治評論家)のコメントを紹介。おもしろいのはそこから先だ。その鹿野氏を支えているのが「30歳年下愛人」とのデートを報じられた筒井信隆氏(農水副大臣)なのである。

隠しマンションで愛人を囲い、デート中に議員パスを使用していた筒井氏だが、この騒動の後日談が政局の話にはさみ込まれている。なんと、「事情を知った夫人が急遽、上京し、隠しマンションで愛人同席させ、三者で話し合いがもたれた」そうだ。結局、筒井氏は愛人と別れ、マンションを引き払うことになった。この騒動がどれだけ政局に影響をおよぼすのかは不明だが、「政局」に「性局」(!?)をからめてくるところは週刊誌の真骨頂が発揮されているといえよう。

高い放射能レベルの土地に4カ月も放置された人々

一方、文春は、「野田大連立 どこよりも早い『組閣』全情報」という記事で、民主党と自民党、そして公明党が連立した場合、誰がどのポジションにつくのかを予想。さらに、別の記事では、手嶋龍一氏(外交ジャーナリスト)の「いよいよ国内政界に人材が払底した今、明治政府がお雇い外国人を招聘したように、海外に人材を求めることを真剣に検討すべき」というコメントを元に、「いっそビル・クリントン総理 お雇い外国人内閣を!」と提案している。


次に目を引いた記事は、政府の内閣官房参与である松本健一氏(麗澤大学教授)の「独占告白」を掲載した「菅官邸 被災地を見殺しにした『戦慄の内幕』」。菅総理が被災地に人は「10年、20年住めない」と「いった、いわない」でもめた時期があったが、松本氏は菅総理からその言葉を聞いた当事者である。

松本氏は、震災直後の3月18日には「復興ビジョン私案」を仙石由人氏(官房副長官)に渡し、その案にもとづいて仙石氏は復興の実働部隊となる「チーム仙石」を作ろうとした。その案は同23日に、菅総理も了承する。ところが、その1週間後に総理がくだした結論は、「復興構想会議を作るから、そっちでやっていく」というものだった。記事によれば、その理由は、総理が「仙石氏に復興の主導権を握られることを嫌がった」からだという。同会議の発足は4月14日。提言がまとまったのは6月25日。なんと震災から3カ月も経った時点で、復興の方向性が決まったわけだ。復興の主導権争いなどせず、「チーム仙石」を作って行動していれば、もっとすばやい対応が可能であったかもしれない。

また、福島県の飯舘村(いいたてむら)は、4月13日の時点で「人が住むのに適したレベルではない」(京大の今中哲二助教)量の放射能が検出されていた。しかし、同村の全村避難がはじまったのは5月15日で、村民の移転が終了したのが7月。ようは、震災から4カ月ものあいだ、チェルノブイリであれば現在も人が住んでいないような放射能レベルの土地に村民を置き去りにしていたことになる。そんな菅総理の辞任が決まった背景は、「脱原発という長期的には正しいテーマを掲げたものの、それを実現する方法もビジョンもなく、相談相手も失ったため、進退が窮まったというのが現状」だと松本氏は述べている。

アニキ、悲しすぎるぜ

阪神の「アニキ」、金本知憲氏が刑事告訴された件が両誌に掲載された。新潮と文春がほぼ同じ内容の記事を同時期に載せるのは珍しいことだ。阪神ファンの筆者としては、いまや大黒柱といっても過言ではない金本氏が、こうして金銭スキャンダルで週刊誌の誌面をにぎわしているのは悲しいことである。

その他、文春では「さすらいの女王」という連載で、中村うさぎさんが美保純さんとともに「閉経B48」というユニットを作ったことを報告。中村さんの開放感は、「閉経によって『男にとっての性的対象』でいる必要がなくなった」ことが原因だという。そして、彼女は「民よ、『閉経B48は、女から解放された女たちのお祭りなのである」と述べる。

新潮の小ネタで気になったのは、「兵庫県が目論む『タバコ条例』はまるで『禁煙法』!」という記事。神奈川県に続き、兵庫県が受動喫煙を防止するための条例づくりに動いており、現在検討されているのは屋内の「全面禁煙」だというのである。禁煙ファシズムはどこまで進化していくのだろう。「法律で縛るなんて、正義の押しつけですわ。惚れてる女が目の前で吸うてたら、どないしまんねん」という旭堂南陵氏(講釈師)のコメントに深くうなずく。ちなみに、旭堂氏は喫煙者ではない。

さて、今週の軍配だが、ぐだぐだな政局を「性局」もからめつつ、わかりやすく解説してくれた新潮に上げよう。余談で申し訳ないが、文春に「脱原発」の姿勢を明確に打ちだした「城南信用金庫」の広告が掲載されていた。けっして、その姿勢を売り物にしない。「人を大切にする、思いやりを大切にする」という素朴な広告コピーに好感を持った。

【これまでの取り組み結果】

 文春:☆

 新潮:☆☆

(谷川 茂)